エントランスとは、えーと……。まあ、なんだ。見たものだけが真実なので、それを踏まえて判断していただきたいと思うのです、エントランスがいかなるコーナーなのか。 << 辺境紳士社交場へもどる

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*  投  稿  作  展  示  室  *

Entrance:46 十年代来たりて、フロンティア・スケープ



 うららか、という四文字を空想してテーブルから顔を上げると、そこはいつもの旅宿屋である。旅宿屋、というフレーズは時折店主のテムズ・コーンウォルが口にしていた。祖父の代には、この宿はそこそこ名の知れた街道に面しており、仕事のため人生のため往来する人々のよりどころになっていたのだとか。……が、その当時この店舗は屋号そのもの、ただの大衆酒場だったのだから、実のところこのフロンティア・パブが旅宿だったことは一瞬だってない。
「それでもよ」
 テムズは物事を片付けるときは短い一言で終わらせてしまう。閉店を告げるときのような短さで。
「ここは旅宿屋なの。長い逗留ができるような建物じゃなくて……そういうのは、観光地で探すものよね」
 もちろん客というのは、お金を払う人間のことを指している。彼女だって分かってはいるのだ。


 二階に部屋を取って居候生活をしているウェッソン・ブラウニングは、日銭をどこで稼いでいるのかいまいち分かりにくい。働いてる、というのは本人の弁だが、口に出すには余りにも気軽に過ぎるフレーズである、と周囲は必ず微妙に眉根を寄せる。眉根を寄せないのは子供か、探偵か、軍人くらいだ。つまり、まともな日常社会を構成するのにおよそ何の役にも立たない奴らばかりで、この男もその領域に片足なり両足なり、どこかしら突っ込んでいる部類の人間である。
「でもなあ」
 ウェッソンの二の句はだいたい弁明じみたトーンを帯びる。幾多の戦場を銃一丁と「死神」という黴の生えた呼び名だけひっさげて生き抜いてきた人間にふさわしく、言い訳によって明日を生き抜く姿勢。それがこのガンマンである。
「今の世の中、銃を売っても、金にならんからなあ」
 誰に言い訳をしているのか、彼自身、わかった試しは一度もない。


 わからないことはなにもない、と、探偵であるサリサタ・ノンテュライトは言わない。
「分からないときは、そこには必ず、政府の陰謀があるのですぅ」
 彼女の言う通り政府の陰謀を一から数えれば、もう半年前には、陰謀ぜんぶを合わせた数字が枢機卿委員会議はおろか、王室権委託執行騎士団や市議会、地方領事館、各種ギルド寄合、秘密無秘密軍の総人数を越えている計算になる。もちろん、計算をしたのはサリー本人しかいない。
「人間の可能性を信じるのが探偵の役割ですぅ。誰でも、どんな犯罪だって、信じればいくつでもできるんです。たとえばその、終身刑には例外があるからです。かならずや!」
 きらきらした瞳で張りのある発声で言ってのけるのだ。
「市場主義だって陰謀ですぅ」とサリーは口答えしたことがあった。
「だってお金にならないじゃないですか。お金にならないことをごまかすために、お金のやり取りをしてると偽装してるんですよぉ。世間体のために八割の殺人は起きます」
 地に足の付いた発言をしようと、常に街の地質調査を怠らない探偵である。利益を生まない勤勉さこそ、彼女にとっての気高さだからだ。



 過去と未来どちらの方向を見ようとも、すべての更新は「いつものように」、しれっと行われる。
「いつものようにでもいつものようにではないわね」手早くテムズが囁いた。
 ……この速さは、長く深いあきれから絞り出された乾いた声音である。
「ほんっとーーーーーに…………………………」



テムズ:お待たせしましたー! 作者ってば毎日を生きるのにいっぱいいっぱいすぎて大事なことを忘れすぎ! そのうちお茶碗にご飯を盛るのだって忘れちゃうわよ、もー。
 今回ついに、五年近く残されていたこちらの投稿作が掲載されました。


     本編第57話『Beside an old photo frame』
     本編第58話『HOMEPATH』
     超短編第5話『Drowsings[3]&[4]』

 の四編! みんなありがとー! お待たせしまくっちゃって、ほんッッとーーーーに、ごめんなさい!
ウェッソン:いやここまで来ると凄まじいしれっと更新だな。読者のみんな、付いてきているか? 挿絵の描き方を思い出したら案外一瞬でできたって言っていたあたり、サリーじゃないが、人間の愚かさが生み出した害悪で悲劇とかなんとかで総括しちまっても良いかもしれん。今回更新の四作品は、いずれも従来の長いシリーズとは独立して書かれたものだから、久しぶりって奴も、ここから読んでみるのも悪くないと思うぞ。
 まあ、そうだな……。
 いろいろな環境は変わったかもしれん。かつてここにいた奴も、今はすっかり違うことをしているかもしれん。違う暮らしをしているかもしれない。そこでも、相変わらず何かを作っているかもしれないな。
 とにかく、少なくともだ。たぶん、元気でやっているだろうさ。
 あれだよ、今は、表に持ち出せる端末でこのコンテンツを見れるって奴も増えてきたんじゃないか?
 このコーナーはいつでもネットの片田舎に残っている。昔の手紙を漁ってみるように、たまに覗いていくのも良いだろう。機会があれば、またいつか、ここでもなんか新しいことをやっているかもしれんしな。

サリー:じゃあみんな、まったねーっ。政府が変わった頃にまた会いましょうねぇ〜! レッツ陰謀ぅッ! ばいばーい!


ウェッソン:……あれ? ここって、こんな感じのコーナーだったか? なんかサリーとか、どさくさに紛れてないか? まあ、いいか……


●つづく。


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