LOG INDEX            2014.1-4  2014.5-8  2014.9-12
5/1 Thu
 この水着イラストで挑んだ電撃萌王のイラストコンテスト、選考落ちしてしまった……。本気でやったので本気で悔しい。力不足の一言につきます。
 誰も彼もを萌えさせるというのはイラストが持ってる巨大な力の一つです。今回の悔しさを地獄の業火の薪にする勢いで、今日も萌えを追求していきますよー(もちろん「誰も彼も」は理想論だけど、理想を掲げずしてなんのプロか)。

(例によってぱんつ注意)

 そんなわけでぱんつ練習三枚目(そんなわけなのか)。
5/2 Fri
「艦これ」の楽しそうオーラに憧れつつ、遊ぶタイミングを逸し続けて五月になっちゃった……。
 仕事をする上でどんなデザイン規則があるのだろうな、と想像したり、ディティールすっごいなあ、と感心したり。

(今日もぱんつ注意)

 ぱんつ四枚目。GW中はこの偏った練習モードが続きます、ご容赦。今回は絵柄の実験兼ねて。細い線、少ない線で魅力的な絵を描くことの難しさよ。
5/4 Sun

 新刊「シュレディンガ・フォークス パラグラフの迷路」が自宅に届いた!
(同人誌はイベント当日にサークルスペースで初対面する場合も多いので、事前に現物が見れるのはありがたいのだ)
 今回はつやつやPPを貼っていて、過去二巻とは雰囲気がちがう本になってます。黄色が狙い通りに出ていて良かった。
 黄色はテーマカラーです。口絵も黄色くて、仕掛けあり。
 ゲームブックって作ってるとき・めくってるときの感覚の違いがすごく大きい。一方向に進む小説本とはまた違います。
 即売会価格800円は自分にとっては「ちょっと高いかも?」っていう値段設定なのだけど、この値段分、いったりきたりの冒険を楽しんでもらえたらさいわいです。

(GW中はぱんつ練習中につき注意)

 ぱんつ練習五枚目。無駄なアタリ線を減らす訓練も兼ねて、細ボールペンで一発描き。うまく題材を選べば訓練も苦にはなりませんね。
5/3 Sat

 5/5に東京ビッグサイトで開催される創作系同人誌即売会「コミティア」、自分の出展情報を掲載しました
 今回は誇り高き「文芸」ジャンル!
 一部の方をお待たせしまくってました、シュレディンガ・フォークスの新作(……といいつつ、過去巻を読んでなくても大丈夫)出ますよ!
 どういうわけか今回はゲームブック仕立ての、ライトノベルです。

 今回初めて「新刊の本文中に、過去作(5/5にWEB公開する1・2巻のプレーンテキスト)が読めるQRコードをくっつける」という試みをしています。マンガだとブラウザで読むのは大変だけど、小説系コンテンツとブラウザの親和性は、ものすごく高いと思うのですよね。
 冊子版とはきっと読み心地が別物だけど(だからこそ、一度有料で頒布した物語「だけ」を無料公開しようと決められました)、この気軽さは悪いものではないはずです。
 たぶん、お手持ちのスマフォでもアクセスできるでしょう。コミティア当日にWEB公開版への入口をわかりやすく載っけるので、読んでやってもらえるとさいわい。

 また、今回のコミティアでは「絶体絶命英雄」の単行本1・2巻をしれっと少数持参します。本屋さんや通販で買うタイミングがなかった方は、作者の手売りで買うってのはいかがでしょうか?
 自分はほとんど、自分の関わった商業本が目の前で買われた経験がありません。当日単行本を買ってもらえたら、作者はすっごい嬉しいに決まってます。どうかよろしくです。

 コミティアでは他にもHUMMING LIFEさん(さ-08a)やCircle’s Squareさん(F-69b)で、今野隼史がイラストを付けた新作が並んでいます。いずれもジャケ買いしたって絶対損しない名作(保証します)。買ってね!
神無宇宙ファンはB-18bをチェックしよう。今回場所が離れてます)
5/5 Mon COMITIA108 report
 非常にちょうどいい暖かさ。コミティア108開催日でした!  ペーパー裁断時に一緒に切り刻んでしまったポスター……。
「つないだら面白いよ」という奥様の助言に従ってみたところ、「断片化された時間」という新刊のお話にうまく沿った奇妙なポスターになってくれました。良かった。  新刊は厚みがあって、ちょっと積み重ねただけですんごい壁になってしまった。
 本当に幸いなことに、14時頃までお客さんが途切れることがなく(文章本だからか、丁寧に試し読みして頂けてる印象があった)、この壁はほどよいペースで低くなってくれました。  GWぱんつ週間の集大成となった本日のサークルペーパー。どんなサークルやねん。近年「ペーパーは余るもの」と覚悟して臨むようにしていた同人イベント、今回は全部捌くことができて嬉しい(けど、そうなったらなったで「もっと持って来りゃよかった」ってなるんだよね……)。  ロゴの銀色もまぶしいシュレディンガ2巻「時々の境界線」も悪くないペースで人手に渡ってくれました。一見さんとおぼしき方がじっくり試し読みしてから、2・3巻を同時に買っていってくださったのが凄く嬉しかったなー。
 文芸本は他ジャンルに比べて、「その場で購入を判断する」ことが難しいものだと自分は思っています。敷居を下げる工夫(そのへんはパッケージ、ディスプレイ、キャッチコピー、本のコンセプトにまで及ぶ)はできるだけ重ねているのだけど、それでもやっぱり、いきなり買ってくれるのって希少で尊い。
 楽しんでもらえたら超さいわいです。  当日コミティアに出展されていたHUMMING LIFEさん、Circle’s Squareさんが途中で来てくださって、頒布物をいただくことができました。「現物を手に取る」ことが、イラストの仕事をやってて至福のタイミングです。この頃に「水位標識の描けるまで」が完売したので、空いたスペースにこれらの現物を飾ることに。
 そんなわけで、盛況でした! 本作って良かった。これからも色々やってきますので、良かったらまたの機会に、遊びに来てやってください。
 そうそう、この日が誕生日でした。年齢は棚に上げて、いつでも練習したいと思います。ぱんつもぱんつじゃないのもだ。

(ここからぱんつ注意)


 サークルペーパーにも使われたぱんつ練習6枚目。いろいろ画材をとっかえひっかえした後だと特に、アナログモノクロは手に馴染む。今回のコミティアでは女性のお客さんが多くて、途中から新刊にこっそり挟んで渡すようになったという(いまさら臆した感)。
5/8 Thu
 コミティアが終わり春も後半に差し掛かりました。出歩くのに丁度良い季節だけど、いくつかの次のお仕事も始まっています。仕事目線だと夏は目前だ。

(いったんラスト、ぱんつ注意)


 連休中続いていたぱんつ練習に、これでいったんピリオド打ちます。アプレンティスからアーティザンくらいまでレベル上がってますように(ダンジョンマスター基準)。
5/11 Sun
艦これ日記1 赤壁

「艦これ」は、なんだか楽しそう。
 ……という印象だけが、ずっと頭の中にあった。
「艦これ」とは、女の子に擬人化された戦艦が、海上の敵と戦い、撃破し、戦線を切り拓いていくブラウザゲーム。キャラクターの可愛さと、どうやら単純ではない難易度。それに魅入られた爆発的な人数のプレイヤー(ゲーム内では提督と呼ばれるらしい)。絵描きは自らの手足となって戦う戦艦達を描き、見せては見られ、それもゲーム体験の一つとなす。
 時代に併走して盛り上がる、「名作」と言うには微妙に違う、内外から極大の力を集めて一つの渦になる、「話題作」。
 その話題を口にする人達はみんな、愛するものに対する距離と輝きで、それを語る。
 街角で。ネットで。学校で。同人誌即売会で。場合によっては仕事中に。

 そんな雰囲気は自分だって、ゲームが公開された昨年から、自然に目にし続けていた。
「艦これ」は、なんだか楽しそう……なのだ。
 自分が艦これを遊んでこなかったことは、機会が掴めなかったら……時間がもったいないから……流行り物だから……などという、海水に膨れたクラゲみたいな、あやふやな敬遠にすぎない。
 遊べばきっと楽しいし、未知の大人数がプレイ仲間になる。
 言い換えれば、それは、
 自分が艦これ絵を描いて、それを無尽蔵な人目に触れさせられたら、自分の絵の知名度が上がるかもな?
 同人誌作ったりしたら、たくさん売れちゃうかもな?
 って後ろ暗い予感でもあった(どれだけ低い確率だって、予感は予感としか呼びようがない)。ほんとのところ自分に、そういう黒い気持ちが無いとはいえない。「はやりものの絵を描くこと」を脳裏にちらつかせるとき、決まって、自分の中にどこか後ろめたさが漂ってしまう。
 それはきっと、あまりにも長い間、創作ジャンルでしか同人誌を作ってこなかったからだろう。
 そんなこと考えながら、遊ぶとか言っちゃっていいのか?
 動機の中に売名がどれだけ含まれているんだ?
 このゲームを楽しむ資格は……。
 いや……
 そんなの知るか!
 そんなクラゲじみた思考を全部ひっくるめても、あるいは全部無視したって、
「艦これ」は、なんだか楽しそうだからだ!
 みんなして楽しそうに遊んでるのがうらやましいのだ!
 そこに遊べるなにかがあるなら、遊ぶのが一番。ゲームって、それがすべてだし、それ以外はきっと、ゲームではない領域だ。
 よし、じゃあ、とりあえず艦これ遊ぼう!

 ここから先は、きっと、プレイ日記になる。
 にっちもさっちもならない戦いと、艦娘のイラストと、いろいろな感情をやり取りするごきげんな記録になるはず。
 決意の果てに自分はDMM.comのアカウントを取り、トップページに燦然と輝く「艦これ」のバナーを叩いたのだった。
 サーバ一覧が表示される、その数18。とんでもない数。そのすべてに無数の戦場が構築されて、無数の提督がそれぞれの戦いに挑んでいるのか。
 眼前に広がる、鮮やかに赤い「満」の文字。その色はまるで、自分の行く先に広がる戦いと絆の色を示唆しているようで……
 
 あれ?
 ちょっと待て、全部「満」? 満って満員の満か? 真っ赤なゲージが全部「MAX」の方に振り切ってるもんな。
 じゃあ、俺は、どのサーバーで艦これが遊べるんだ……?
 
 誰かが呟いた「艦これはまず椅子取りゲームを遊ぶことになる」という言葉に、どうやら単純では無い激闘の予感が、荒涼としたサーバ一覧の平野に、遅れてきた冬を思わせる冷えた風として吹いた。
 これはきっとプレイ日記になる、と思って書き始めたんだけどなあ……。
(つづく)



 ぱんつ期間も終了したので、突発的な新連載を始めてみました……まだゲーム始まってません。艦娘まだ一人も見てません。
 永田泰大さんのFF11日記がとても好きだったので念頭に置いておこうと思ったのだけど、展開からトレースしなくても良いじゃないかコラー?
5/12 Mon [Gallery:アシュラウトの無限工房・挿絵集]
艦これ日記2 島風とネコ

 だんだんとわかってきた。艦これを新たにプレイしたがっている人間は、自分の他にもたくさんいる。
 かなり、たくさんいるのだ。入場待ちに長蛇の列ができているようなもの。
 どうやら何日かに一度、新規プレイヤーのための「枠」が解放されるタイミングがあって、その時刻に艦これのページにアクセスすれば、抽選でプレイの資格を得ることができるらしい。
 
 自分は久々に「インターネットの中にある物理的な場所」をイメージした。機器と回線の進歩によりネットは制約を感じさせない方へと変わってきたけれど、それでも圧倒的な人気が集中した場所には、キャパシティの限界がついて回る。
 遅い回線、低容量の画像、有限のメモリ……不便さには少し前の時代を思い起こさせる、埃臭い手触りがある。構わない。ちょっと不便なくらいなら、よくできたアトラクションの待ち行列がそうであるように、楽しむ余地がすこしはあるのさ。
 絵を描いて待つかな。
 そう、いま明らかにするんだけど、自分は「艦これ絵を描く時は、ゲーム画面だけを作画資料とする」ルールを己に課している。プレイヤーの立場でイラストレーターであろうとするなら、それが一番おもしろいと思ったからだ。
 つまり、現段階では、「うろおぼえでなんかを描く」ことしかできないのだ。
 そう、自分だって、たとえば……「島風」というキャラクターなら知っている。何度も、描かれた絵を見てきた。キャッチィなキャラクターデザインの女の子だ。
 うろおぼえでも、今の自分なら、描く資格があるかもしれない。
 なにせ艦これプレイヤーなんだし! プレイ一回もしてないけど!
 と、考えたところで、艦これ公式アカウントが「抽選開始は19時」とツイートした。
 ……いよいよだ。
 ここからが、本当の艦これだ。
 お絵かきソフトを立ち上げ、記憶の中の島風をらくがきしつつ……時計が、まさに今、19時を指した。
 すかさず自分のタブレットはブラウザの窓を呼び出し、DMM.comインデックスより艦これに繋がるリンクを叩く。
 ローディング。
 どうだ?
 画面が変わった。
 猫がセーラー服の女の子に猫パンチしている光景と「該当ご着任枠の解放まであと少しお待ちください。五分後にリロードお願いします」という一文。
 なんだ……この猫は……?
 待てばいいのか……?
 想像で島風を描きながら五分待つ。リロード!
 ふたたびパンチしている猫。かわいい。
 まさか、これが艦娘なのか。ちがうよな? 猫だもんな?
 想像で島風を描きながら五分待つ(そろそろ晩ごはんができるんだがなあ、と思いながら)。
 リロード!
 そして猫!
 「……これ、今日は無理なんじゃないだろうか……?」
 といやぁな予感をねじ伏せるために、ひたすら島風を描き続ける。
 ここ、どーいう色だっけなあ。
 五分! リロード! 猫!
 頭に付いてるのって、ウサ耳じゃなくてリボンだったか?
 五分!  リロード! 猫!
 おお、なんかそれっぽくなってきたぞ。
 五分!  リロード! サーバ一覧!
 ……サーバ一覧?
 前回見たのと同じ、「満」一色のサーバ一覧。
 自分が入る隙間は、やはりない。
 え、終わり? もう入れないの?
 夢を見ていたのか……?
 それとも、猫を見ていたのか……?
 いずれにせよ、本日の着任枠解放が終了したと公式twitterが呟いたのだから、今日の艦これはここまでらしい。
 

うろおぼえ島風


 俺を待つ海域へ、いつ辿り着けるのだろう?
 ひきつづきうろおぼえで艦娘を描くしかない自分は、赤壁のはるか向こう、夏の気配にぼんやりと霞む戦線を夢見るのだった。
(つづく)



 このうろ覚え島風をツイートしたところフォロワーさんが200人近く跳ね上がって内心恐々としてます。twitter内の艦これアクティブユーザー数って桁外れに多いのだな、と実感した一瞬でした。この連載そのものは「艦これ知ってる人も、知らない人でも」読めるようにとこころがけているんだけど、さすがにうろ覚えばっかりじゃ、気が引ける……。
 BBSやツイートなどで感想いただけると連載継続のモチベーションがあがります(とりあえず夏頃まで書いてみるつもり)。気ままに応援してあげてくださいね。
5/13 Tue
艦これ日記3 今日はお休み
 

猫パンチ


 この日は枠解放時刻が18:00でタイミングが合わず、今日の着任は断念することにする。大人になってから遊ぶゲームの秘訣とは「何かを犠牲にして遊ばないこと」だ、と思う。
 早くパンチする猫に会いたいなー。
 俺はいったい何のゲームを遊んでいたんだったか……?
(つづく)



 現在夏に向けて、2種類の本のページ構成を妄想し始めています。同時刊行は絶対に修羅場を見るので二度とやるまい、と思ってたんだけど、人生は作りたい同人誌を全て作りきるためには若干短い。思いついたからには作っとけマインドで生きております。
5/14 Wed
艦これ日記4 ついに着任

 18時、枠解放の時刻と共に拝んだ猫パンチ to the セーラー服の女の子。今日もいい猫してるじゃねえか(かわいい)……しかし、自分はいつまでも、猫と少女のほのぼのバトルを見ているわけにはいかん! だって艦これってそういうゲームじゃないもん!
 仕事をしつつ……期せずして仕事の方でも、とある大事なセーラー服を描いているところだ……、五分待つ。
 リロード、やはりそこには猫……、
 ではない!!
 サーバ一覧の一角、今まで「満員」の赤一色だったリストの片隅に、緑色の穴が三つ開いている!
 自分はそこにはっきりと、異世界の入口を見た。
 この先に艦これの世界が、待っている。
 落ち着いた人間を装って、異なる名前が冠されたサーバを見比べてみる。
 フィーリングで名前を選んだ。「単冠湾泊地」サーバ。自分が赴く戦地は、「単冠湾泊地」という名前の、ここではないどこかだ。
 サーバ選択、そして短いロード画面……
 無音のまま、水色のタイトル画面が表示された。
 尋常でない達成感を噛みしめながら自分は、GAME STARTのボタンを押すことができずにいる。
 全てはこのためにあった準備期間だった。ここに至るまで数日、「遊びたいのに遊べない」ほろ苦く、でもどこかほの甘い思いを味わってきたのだ。
 このスタートボタンを押した瞬間、自分のうろ覚えの予想図は、圧倒的な「本当」に塗り替えられるだろう。
 当然だし、いいことだし、自分だってそうしたい。
 もう少しだけうろ覚えの夢を見ていたかったな……とも思ってしまうけれど。
 時は来たのだ。
 スタートボタンを押した途端、
 「どーぞ、よろしく、お願いいたします♡」と甘ーい声が耳を直撃して自分は仰天した。いきなりボイス出るの!?
 そして……「好きな艦娘を選んでください」と、自分の前に五人のキャラクターが表示された――うろ覚えでも夢見でもない、本当の艦娘(かんむす)。
 これは大事な選択だ、と、唐突に直感する。
 ゲームの一番最初の選択はだいたい、特別な意味を持つ。
 たとえゲームにとって重要な仕掛けとならなくとも、プレイヤー自身にとって、世界に対する最初の手触りが、選択肢の形を取って現れるからだ。
 それはたとえば、最初に装備していたアイテムを捨てられないように。
 最初の仲間を冒険の最後まで伴うように。
 これはきっと、そういう「最初のアクション」になる、と、自分にはわかった。
 
 少しだけ考えて、一人の艦娘を、選ぶ。
 
 このゲームがなにものなのかを語る短いイントロダクションの後、オープニングもなにもなく、自分は質素な司令室に移動していた。眼前にはメニュー。もう、ゲームは遊べるみたいだ。
 傍らには一人のキャラクターが表示されている。
 
 自分は一瞬、「ここに来る前に閑散とした埠頭を通り過ぎたにちがいない」と、想像した。
 
 夏の気配がぬるい赤色となって漂う、五月十四日十八時。
 猫で遅延しまくった航路を抜けてへろへろになりながら着任した新米提督を、たった一人で待ちぼうけていたこの艦娘が出迎えてくれた、という光景。
 きっと彼女は暇そうにしていて、いつ来るか知れたものじゃない船を待っていて、「あ」とか言って口をぽかんと開けたりしたのだ。


 「さざなみです。漢字わかります? さんずいにれんって書くようなやつ」
 そう名乗った艦娘は機嫌良くにっこりして、「よろしくお願いしますよ、ご主人様」変なあいさつをしてきた。
 もちろん、想像はプレイヤーの頭の外には出て行かず、そんなやりとりをゲーム画面で直接見たわけではない。
 だけど、たぶん、そんなことがあったのだ、と想像する自由はある。
 ここから、自分の艦これは始まるのだ。
(つづく)



 日記で触れた「セーラー服を描く仕事」も今夏以降、公表できるタイミングが来そうです。良いもの見せられるように描きまくろう。
5/15 Thu
艦これ日記5 単冠湾泊地の一日目

 着任から一日が過ぎた。
 こんな僻地でも基地を回す人員は十分らしく、売店や作戦記録課、ドック(温泉付きの保養所にしか見えなかったが、木戸に「船渠」とでかでかと筆書されていた。マッサージチェアとかある)を案内されついでに、新米司令官は職員の挨拶を受けたのだった。
 最後に案内された司令室には「みかん」と書かれた段ボールが積まれてあり……これは自分の引っ越し道具が詰まってるらしい……殺風景な窓からは単冠湾の黒っぽい海面がよく見える。
 そこに船舶はひとつもない。
「ご主人様?」
 この基地に配属されている艦娘は、本当に漣ひとりだけだった。
 艦これ世界の広がりをなんとなく想像する。おそらくは、日本によく似た島国。方々に設けられた軍港には戦闘機能があり、周囲の脅威に対して自衛、または侵攻を行うのだろう。
 戦争状態にあるこの世界をもっともわかりやすく象徴するのが、彼女たち艦娘だ。
 ぞんざいなノックで入室してきた漣は「いやでもねヒマでヒマで! のーみそ湿気そうでしたよ−。食堂でメイド喫茶開業しようとか思いましたもんほんと。戦争するよりお客さん多そうだわ。それより、はい、これ」
 漣は一通の封筒を渡してきた。
「お手紙ですよ。請求書?」
 差出人は古くから知っている絵描きの友人で、艦これの先輩提督でもある。
[以前の調査によると、漣は一番「最初に選ばれない艦娘」だったそうですよ。それを選ぶとは、やはり今野さんだ、と思いました]
 おお、褒められた。
「褒めてなーいーっしょ!」漣は地団駄踏んで「いーですよいーですよこれから世間に人気の奴らとかばんばん編入してくださいよ。ご主人様が来たとたんに、今空前の建造ラッシュです。おっぱいでかい奴とか編隊に加えりゃいーですよ。そっから私の本気を見せてやる」
 そう、いつまでも漣一人でヒマそうにさせているわけにはいかない。このままでは第一艦隊名が「辺境有閑艦隊」とかになってしまう。メンバーを増やしてやらねば、目の前の海ですらちょっとおっかなくて、出撃のボタンを押すことができないのだ。
 建造の指示を出し、二分ほど待ってると……
「ご主人様、新入りみたいよ!」存外に嬉しそうな声を上げて、漣が司令室のドアを内側に開いた。
 え、もう来たの? 早すぎないか?
「みんな食べるの早いですもん。二分あったら余裕で来ますよ」新入りたち(ことごとくちっこいセーラー服姿で、「駆逐艦」と名札をぶら下げている)と敬礼からハイタッチに繋がる独特の挨拶を交わして、五分もしないうちに漣の傘下に五人編成の艦隊が完成してしまった。
 やっぱり、早すぎないか? まあ、いいか……。
 
 よし、では、出撃だ!
 艦これって、出撃すればいいんだよな?
「まずこの、鎮守府正面近海の警備ってのを選べばいいですよ。私一人のヒマ時代、よくやってました」
 警備、いいね。チュートリアルってかんじだ。
「この辺いい海ですよ−。黒鯛釣れます!」
 
 編成を確認する。漣ふくめて、みんなLv1だ。
 戦争にユニットを引きつれるときだって、ダンジョンに潜るときだって、いつだってLv1から始まる。
 進んでは傷付き、慌てて逃げ帰ってを繰り返し、少しずつ息を長く止めるように、深くへと切り込んでいくことができるようになる。隊列を組むゲームは例外なく、この静謐な構造を持っている。自分はそういうゲームの手触りが好きだ。
 出撃を決め一変したBGMの下、青一色の近海に描かれた航路に沿って、できたてのLv1艦隊が進む――
「敵影ーっ!」新入り(雷という名前。「かみなりじゃないわ!」と自己紹介されたけど、なんて読むんだったか?)が叫んだ。
 雷が水平線を睨み付けて砲台を構え、ちょっとばらばらなテンポで他の艦娘たちも体制を整える。
 自分は戦場を一望できる位置から、十字の隊形を指示した。このフォーメーションがどういう意味を持つのかは、まだ自分は知らない。
 陣形指示以外に、プレイヤーである自分が行えることはない。あとは艦娘たちが自身の判断で戦闘をすすめるだけ……うぉぉ、テンポ速いな! ばかすか砲撃が往来してる! 一撃ごとに艦娘のカットイン、響き渡る鬨の声、戦場はとても賑やかで、華やかだ。雑魚と思われる敵は一体、こちらの攻撃はかなりの精度で敵の装甲に当たり続け、今まさにこの一撃がとどめとなり……
「う、ひゃぁっ」
 どかーん!
 なんだ、なにごとだ!?


「初雪が中破したー!」
 艦隊の一角がいきなり黒煙を上げはじめる。クロスカウンターみたいな形で、敵の砲撃がこっちにダメージを与えたのか。
「初雪」という名前の駆逐艦が装甲(どう見てもセーラー服)をずたぼろにして、見切り品のしめじみたいな目付きで「もうやだ……帰りたい……」腰のあたりまでずぶずぶと沈んだのだった。
 
 かくして初の出撃は、艦隊のうち一人が若干露出度を上げた程度の被害で勝利を収め、そのまま母港へと逃げ帰ることができた。
 よかったよかった。
 あと、なんというか、「ダメージ受けたら脱げる」って古き良き時代を感じさせてほのぼのするな、と思ったのでした。

(つづく)



 いちおう夏までの期間に限定して、艦これプレイ絵日記をほぼ毎日連載してます。
 フォロワー増加曲線が今まで見たことない様子を見せていてびくびく。二次創作の「たくさん見られる」力って尋常ではないってことを実感してます。自分の創作が飲まれないように注意しないといけないけど、せっかくだから、もっと見られる方向に舵を切ってみよう。
5/16 Fri
艦これ日記6 かみなりじゃないわ

 先日中破した初雪をドックに入れると「ひきこもる……」と言ってしばらく出てくる様子がなかった。
 初雪はこんなとき、こう言うのだ。
 艦これキャラクターである艦娘たちには「いろんな台詞」が設定されていて、攻撃するとき、被弾したとき、強くなったとき、いろんな局面でそれぞれの台詞を喋る(文字通り、声を発して)。
 変わった仕掛けでも、パターンが多いわけでもないし、物語に寄り添ったことを言ってくれるわけでもない。
 でも、限られた数個の台詞が、まるで人影の輪郭を形作るように、艦娘の人柄を有機的に彫り出してくれるようだ。
 出撃を繰り返し、台詞が耳に馴染んだころ、台詞と台詞の隙間の言葉……「グラフィックに描かれていない表情」も、見えてくる。
 自然に、確かに。
 この想像がきっと、二次創作のなかでもっとも原初の働きだ。
 そしてこの想像だってまた、ゲーム体験の一環なのだと思う。
「ご主人様! 出撃しましょうよー! 黒鯛釣り飽きましたー!」
 想像してはらくがきするというゲームプレイスタイルのせいで、司令官たる自分はなかなか「出撃」を命じないのだ……。

「雷」と書いて「いかずち」と読むのだ、と、漣の部隊に配属されたこの艦娘は自己紹介してきた。
「この子かみなりって言うんですよ。仲良くしてやってください、ご主人様」
「え、ちょっと、今言ったの聞こえなかった!?」
 雷は漣と同じく、このゲーム中で最も軽量な「駆逐艦」に分類される艦娘だ。軽快な機動で砲撃を躱し、手数の多さで敵を圧倒する軽戦士……なんだろう、たぶん(RPGにおいてどんな役割なのか、と置き換えて、自分は艦これってゲームを見てる気がする)。
 台詞の端々から、元気で世話焼きな性格がうかがえた。ここ数度の出撃で積極的に攻撃手に回り、高い命中率で敵艦を確実に仕留め、MVP(戦闘中もっとも功績を上げた艦)になる機会が今のところ周囲に頭抜けて多い。
 一度、艦隊のダメージが多いまま長期戦にもつれ込んだことがあった。
 こちらの艦が次々と負傷(ぷすぷす煙を上げて服が破れるってことだ)していく中、ただ一人無傷を保ったまま、敵旗艦の急所に向けて致命的な一撃を叩き込み、死闘に決着を付けたのも、雷だった。
「この雷にかなうなんて思ってるのかしら?」幼げな顔に浮かべる気丈な笑いだけは、ものものしいその名前にお似合いのものだ。
 あまつさえ「ただ強いだけじゃ、だめだと思うの。ね、司令官?」と言うのだ、この子は。格好いいぞ! 主人公か! すげー頼れる。
 第一艦隊の名前、「雷がんばる隊」にしようかな……。
「どーせなら『かみなりへそ取り隊』にしましょうご主人様」
「だからかみなりじゃないってば!」
 雷が近海のボスにとどめを刺してくれて、平穏になった航路の先に、「南西諸島沖」の姿が立ち現れた。
 雷と仲間達を待ち受ける強敵の気配に、司令官である自分は緊張しつつ今日のらくがきにちょっと気合いを込めた。
 がんばれ、雷。
「なんでかみなりばっかりなんスかご主人様ー!」



(つづく)



 ちょっと遊ぶと「あ、これ、日記のネタになる」と思ってプレイが止まるので、かなりじっくり艦これを遊べています(笑)。
 絵柄とディティールの観察と、「描く」ことの試行錯誤が往来するので、なんかすごくキャラクターイラストの練習になるなー。艤装むずい。
5/17 Sat
艦これ日記7 近代化改修の秘密

 艦これは「艦艇の擬人化」をテーマの真ん中に据えたゲームだ。
 登場するキャラがセーラー服で武装した女の子の形を取っているからといって、ゲーム中では彼女たちの扱いは「船」だ。撃沈もするし、修理もされるし、分解廃棄だってされてしまう(まだ廃棄だけはしたことがない)。
 用語上ではあくまで、艦娘は建造物のように扱われている。
「でも、おなかもすくし、ご飯が美味しければメシウマですよ? 一度入渠して単冠湾定食たべてみた方がいいですあれオススメだわ。あと日替わりなんだって。金曜はカレーだそうです!」
 漣はこのあいだ旗艦を那珂に任せて前線に出て、即座に中破して、このゲームが始まってから初めてドック入りしていたのだ。まんざらでもない休暇気分だったみたいだが、うっかり入梁中の中破艦を秘書艦に据えると、なんというか、ゲームの見た目がとんでもないことになってびびる。
 なんでか漣だけは駆逐艦メンバーの中では堂々とぱんつ曝してるし……それはまあ、どうでもいいのだ。
「どうでもいいんですか? ぶっとばしますよ?」
 生身のキャラを艦艇として扱ったとき、いくつものおかしな局面にぶちあたる、というのが今日の話。

「近代化改修」、という耳慣れない語感のコマンドがある。複数の艦艇を合成し、ステータスを微量強化するという改造のことらしい。
 このゲームは出撃のたびに新しい艦娘が仲間になるため、場合によっては「同じ名前の艦娘が複数人いる」状況があっさり発生してしまう(これも考えようによっては奇妙)。「合成素材としての余剰な艦娘」に事欠くことはないんだけど、
 ……そもそも、合成って、なに?
「そういうもんだってしか言えないですねえ」
 字面をそのまんま受け取るととっても怖くなるし、ひとひねりして受け取ってもなんとなくいかがわしくなるし、この近代化改修なるコマンドがいかなるイメージを帯びるものか自分は理解できずにいた。
「ドックで修理を受ける」とは「保養所でご飯を食べて風呂入ってぐっすり寝る。すっかり元気」みたいなもんだ、とは想像できるんだけど……
 いや、想像すれば。考えようはきっとある。イメージひとつで世界は規定され、だからうちの漣はパンツ一丁でめしくって元気に戻ってきたのだ。
 たとえばこういうのはどうだろう。
 艦娘たちが戦う海洋上には船舶の魂が込められたエネルギー体、または艤装の欠片が点在していて、戦闘を通じてそれらが艦隊のもとに合流していく。同名の船とは、同質の魂のことだ。名簿上では複数なようでいて、同じ名前のもとではやはり、観測できるのは身体一つの艦娘だけ。彼女たちが内包する複数個の力を持ち寄り、合わせ、鍛造して、一人の魂を強化する(ちなみに駆逐艦のそれを素材として使うと、魚雷の攻撃力が強化されるようだ)。
 スピリチュアルな静謐なる儀式、それが近代化改修なのだ……自分の艦これではそういうことにしとこう。近代ってなんだ?
「こないだ私と近代化改修してきたけど、雷撃1しか増えなかったなあ。向こうの私レベル1だったからかなあ。あんまり気持ちいいものじゃないですよ? 湿気てるやつはちょっとあれですね」
 ……あんまり深く考えないようにしよう。

こんな雰囲気ではないと思う


 さて、辺境艦隊の行く先に三つめのエリア「精油所地帯沿岸」海上護衛作戦が発令されたのだけど、様子見程度に乗り出した初戦でぼろ負けして帰ってきてしまった(響がなにかに動揺したのか、最近よく中破してる)。軽巡の建造、第2艦隊の解放、遠征、ミッション達成といろいろ地道に進めてきたけれど、最初の「壁」が少しずつ立ち現れてきたような気もする。
 このまま攻略法に触れないまま、駆逐艦だけで戦うことは、きっとできないという、自分の限界にぴりぴりと触るような、嫌な予感だ。
「まあね」ここ数日ですっかり馴染んだ自分の秘書官が、いつも通りの口調で言うのが聞こえた、気がする。
「そういうもんだってしか言えないですねえ」

(つづく)



 仲間になる艦がことごとく新顔で(何度も海戦に連れて行くと、それぞれのキャラクターの良さも分かってくる)、これとても描ききれないぞ、とあわあわしているところ。しかし自分のゲームはまだまだ序盤もいいところ、できることもまだまだたっぷり。どっかり進めようー。
5/18 Sun
艦これ日記8 ザ・アイドル・レジェンド・アライズ

 軽巡洋艦、というクラスがある。主に小柄なセーラー服の姿をとる駆逐艦よりも一回り年齢が高めで、服装や艤装も少しだけ物々しくなっている、「頼れるお姉さん」然とした艦娘たちだ。
 その見た目は小学生と中学生くらいの違いがあり、そのスペックも小学生と中学生くらいの違いがある……みたい。具体的には、装甲値と耐久力が一回り異なるのだ。
 ゲーム初期から駆逐艦を良く使っていた自分は、どうも軽巡洋艦というクラスに一種のよそよそしさを感じてしまい(自分がセーラー服とか黒靴下とか黒ストッキングとかが好きなのかもしれない)、艦隊に編入することを無意識で避けていた。
 ……だが、外洋で拾ってきたこの自称「艦隊のアイドル」は、どうも、様子が違った。
 この軽巡洋艦、どっかおかしいのだ。
 夜戦に入ったとき「ありがとーっ!」と言いながら敵を沈めたのを見て、ん? と首を捻ったのをはじめ。
 MVPを取った日には「ゲームがつまらなくても、那珂ちゃんのことは嫌いにならないでください!」とか言っちゃうし(古き良き時代には、登場人物がまれにそういう物事を超越したことを言ったものだ)。
 気まぐれで秘書艦にした時には脈絡なく「那珂ちゃんスマーイル!」と言い出してこちらを不意に吹かせようとするし。
 この艦娘だけ、言動が、なんかおかしいのだ。
 そう、そもそも、一人称が「那珂ちゃん」だ。なかちゃんて。まともじゃないよな?
「あぁー、あのアイドルですか」話を振ると漣は微妙に遠い目をした。
「悪い人じゃないんだけど、悪い人じゃないからっていって、なにもかも世間に受け入れられるかっていうと、ちょっと違いますよね、ご主人様? まあでも私、あの人嫌いじゃないかも。ぶれないもんね」
 
 艦娘にはクラスやスペックよりもずっと「性格の違い」が顕著に表現されている。
 駆逐艦の中に大人っぽい理知的な者がいれば、軽巡洋艦の中には身体は大人で頭脳が子供な艦娘もいる。
 そういうばらばらな連中が一編隊六人、チームを組んで戦争に臨むのだ。
 それぞれがそれぞれをどう思い、信頼し、うっとうしく思うのか、戦闘中賑やかに往来するキャラボイスを聞きながらなんとなく想像できてしまうのが、なんか楽しい。
 艦これはどうやらそういうゲームでもあるみたいだ。
「おはようございまーす! 那珂ちゃんセンター、お仕事入りまーす!」
「うるさい自称アイドル! 地方遠征でも行っとけ!」

那珂ちゃんはみんなのものらしい


 アイドルを拾った翌日、雷の姉妹艦「電(いなづま)」が艦隊に加わった。ちょっと嬉しい。姉妹で編隊を組ませて進んでみよう……と思ったら、那珂ちゃん南西諸島沖ツアーの後ろで立て続けに中破しまくり。可哀想になってきた。
 次回はそんな新入り駆逐艦について、書こうと思います。

(つづく)



 艦これ日記で、このサイトに新しくいらっしゃった方もいるそうで、嬉しい限りです。このサイトはイラストを軸足にして、今野隼史がすきかってなものを書いたり描いたりしてます。イカした商業本「絶体絶命英雄」の紹介も作者の自分がみずからやってたり、このマンガを応援込めて買ってもらえたら、自分は今後もこころおきなくゲーム日記が描けるのです! ……などと臆面もない宣伝したりしますよ。こんごともよろしくですー。
5/19 Mon
艦これ日記9 製油所地帯沿岸戦

 ひとり戦闘経験の少ない新入り・電(いなづま、と読む。ちなみに奥さんが初めに選んだ艦娘でもあり、いい子だからくれぐれもよろしく、と重々頼まれた)のレベル上げを兼ねて、主力級の艦を引き連れて出撃した三つ目のエリア「製油所地帯沿岸」。この地名から想像する光景は、灰黄色の霞が遠くに掛かった工業地帯と、そこから広がる彩度の低い空、海。
 格段に敵の戦力が増し、ここ三日ほど攻略に手こずっていたエリアだった。
 初戦、幸運なことに無傷で勝利。
 いまいち精度の悪い羅針盤(進行方向を決めるルーレットで、運が悪いといつまでもエリアボスの下に辿り着けない)が回る。
 ……針は、ここで、初めて見る方角を指した。
 エリアボスにつながる唯一の航路を。
「本気を見せる時ね」「……なのです」
 時間帯が知れない白んだ水平線。敵主力に相違ない、六つの艦影が見える。
 単横陣。被弾面積を下げ防御に徹する守りの陣形を、自分は指示する。
 味方の中でただひとり、レベルが4を指す、ちいさな旗艦が震えた。
「だーいじょうぶ」真横に立つ漣が笑う。「旗艦はぜったい沈まない」
「そうじゃなくて。私。皆さんが」
「そういうのはね、信じなさいな。旗艦の一番の仕事だよ」
 天龍の景気のいい鬨の声が、戦闘開始の合図となった。
 砲弾が往来する。遠距離ではかすり傷しか叩き出せず、敵にヒットしてもダメージ10を上回らない。
 他の砲撃よりもはるかに太い火線を描き、敵旗艦の主砲が那珂に直撃する!
「こんなになったって、路線変更だけはしないんだからーッ!」「もう取り返しが付かない路線なの、わかってる? うふふふ」誰かが爆音の隙間に微笑んだ。
 ……一巡の撃ち合いでは済まなかったように思える、長い戦いになった。
 敵旗艦はこれまで見たことがない形の……もはや完全に人型をしている深海棲艦。艦名は「戦艦ル級」。こちらが便宜上付けたに過ぎない識別記号だが、なんて禍々しい語感だろう。何度砲撃をかすめさせたか。小破すら全く届かない——これが戦艦か。こいつ、固い!
 もう一人として被弾するな、ここさえ凌げれば魚雷を仕掛けるタイミングがある。
 雷撃戦まで持ちこたえれば、お前らが勝てる!
 司令官はそう願いながら戦場を見る事しかできない。

「電の本気を見るのです」


 長い時間が経ち、ついに雷撃戦が始まった。
 味方からは五条の軌跡。敵からは二条。
 予想よりも少ない。地道な砲撃戦が、敵駆逐艦の魚雷管にダメージを与えていたのだ。
 だが。
 敵魚雷はただ一人、初雪に狙いを集中させていた。
 一瞬背筋がぞくりとする。
 ……………………爆音。
 黒煙の晴れた先に一瞬ちらりと光る、「miss」の文字。
「避けた」ぽつりと初雪が言ったのが聞こえた気がした。
 こちらから放たれた五つの魚雷は、新たに敵護衛艦をひとつ大破させる。わずかな戦果。
 水平線の彼方に夕陽のかけらが煌めく。
「ど、どうするのですかっ司令官さんっ」即席旗艦、電の悲鳴にも近い声。
 夜戦に持ち込むか、どうかを聞いたのだ。
 引くか進むかを決めるのが、戦闘における司令官ただ一つの役目だ。
 味方は天龍、龍田の二人が軽微な傷(軽巡洋艦の姉妹艦であるこの二人、私生活は相性悪そうだが、戦闘だと仲良く中破する機会が多い)。
 そして穴だらけの服に(もはや穴を着ているようなかんじだ)「大破」とでかでかと書かれた那珂は……
「いけますっ! さいきんのアイドルは大破くらいふつうにします! 私、バラエティはすごいんですから!」
 言っている意味はともかく、その瞳はまぎれもなく軽巡洋艦らしい率直な輝きを湛えている。
 三人の軽巡洋艦に守られて、ちいさな駆逐艦たちは無傷。
 ……いける。自分は判断した。
 夜戦、開始だ!
 漆黒の海を、昼よりもなお白い昼光色に染める砲撃の往来が始まった。
 敵艦の砲撃は――当たらない。運と、艦娘達の経験が味方している。
 闇と波を縫って敵艦に肉薄し、駆逐艦達が必殺の主砲を放つ。
「徹底的にやっちまうのね!」漣がクリティカルヒット!
 彼女たちの、夜戦における一撃は重い。攻勢に転じた裂帛の気合いが、五倍にも跳ね上がるダメージ量から滲み出ている。
「……私だって、やればできるしっ」初雪の二連撃、これもクリティカルヒット!
 がんがん敵が撃沈されていく。敵旗艦も砲火に巻かれ、中破、大破の文字が塗り替えられていく!
 だが、最後に、敵戦艦に一門残った大砲が炎を上げる。
 狙いは天龍。ここ一番という時に必ず被弾する奴だ!
 だが、次の瞬間、旗艦・電のアイコンに「 )」の形をしたエフェクトが一瞬立ち現れ、天龍に向かう必殺の一撃を霧散させた。
 ……これは、なんだ?
 プレイヤーとしての自分は、この現象の意味を知らない。
 調べれば、発生原因やその効果はわかることなんだけど……。
 これは、どう見たって、「旗艦が敵旗艦の攻撃を弾いた」ってかんじのエフェクトじゃないか。
「ご主人様見てませんでした? 私も結構やってましたよ」
 漣が電の頭をぽんっと叩きながらすれちがい、夜闇の向こう潰走を始めた敵旗艦をめざす。
「できる旗艦は、仲間をちゃんと守れるものです。偉いわよ、電」
 なにをしたんだ、電?
 電本人も「あわわ」とか言ってて、自分がなにをしたか判っていないようだ。

 Aランク、大勝。

 司令官の自分だけは、突破できると全く期待していなかった今回の出撃。
 編成中もっともレベルの低い旗艦は、二度の大勝利をもって、次のエリアへの風穴を開けてくれた。
「……次から本気出す」そして、こっそりMVPに輝いた初雪は、感情のわかりにくい声でそう言っていた。今回の戦闘が本気じゃなかった、なんて、仲間は誰も言いやしないのにね。

(つづく)



 自分が心の片隅に置いている「ファイナルファンタジーXI プレイ日記 ヴァナ・ディール滞在記 」は、プレイしていない自分に「なんかおもしろそうだな、いつかやれるといいな」と素直に思わせる内容でした。すぐれた記録とは、どれだけ時代を経ても鮮やかさをたたえている。どうすればあの素敵な記録に近づけるだろう、と考えながらやっています。
5/20 Tue
艦これ日記10 演習のファントム

 その日、演習リストを見ていた自分は首を捻った。
 演習相手としては不釣り合いすぎるレベル107の提督……そして、Lv90の駆逐艦!?
 だが、引きつれているのはLv1の駆逐艦二人。
 奇妙なバランスだった。これは、もしかしたら……
「やっちまえるかもですよ、ご主人様?」秘書艦がにやりと犬歯を見せた。
 どうせ演習で食らったダメージは実際にはカウントされないし、一度挑んでみるのも楽しいかもしれないな。
 Lv90の駆逐艦なるものを拝んでみよう。よし行け、漣と仲間たち!
「ほいさっさ!」
 ぞんざいな敬礼の後ろで司令室の木戸がばたんと開き、明後日の方向に細長く伸びた砲身が飛び込んできた。よく見たら砲身ではなく、ずっと下に電の顔があった。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよぅ!」彼女はわたわたして(ごどん、とお尻の後ろからイカリが落ちた)、「私まだレベル8で、そんなきゅうじゅっ、勝てっこ、ひゃあああ」……そのまま首根っこを天龍にひっつかまれて、司令室から消えていった。
 
 艦これは艦娘を育ててチームを組ませ、出撃させるゲームだ。艦これ世界の「敵」と戦う本筋として、数多くの出撃先があるが(実際のところ、ここまで自分の艦隊が踏破しているのは全体の二割にも及ばない)、それとはまた違う出撃の形も用意されている。
 艦娘達を一定時間おつかいに出す「遠征」と、同サーバ内にいる実力の近い他プレイヤーと模擬戦を行う「演習」だ。
 この演習、リアルタイムのPvP(対人戦)ではない。各プレイヤーが保持している艦隊のデータを疑似の敵艦隊として、一回だけ戦闘を行うというもの。これを行っても本筋の進行には影響しないが、経験値は入るし、たとえ模擬戦で大破したとしても、寄港した頃には元通りに戻っている。
 きっと空砲かなにかを撃ち合っていて、審判がダメージを判断するのだろう……あるいは艦娘どうしでTRPGでもやってるのかもしれない。
 実は、自分は演習での勝率は決して良くない。
 相手側にはこちらにはいない、重量級の艦が揃っていることがほとんどだからだ。
 だからこそ、この超上級プレイヤーであるこの提督が、戦艦でも空母でもなく、ただ一人の駆逐艦を旗艦としていることに、自分は言いようもなく惹かれた。彼は何を思って、この艦娘をここまで育てたのだろう?

 単冠湾にほど近い海域に、黄色いブイで区切られるように、演習場はある。

 朝食の皿を並べるような自然な動きで、敵側の艦娘たちが遠くに並ぶ。
 それに比べると、こちらはやはり新米の動きだ。
 敵駆逐艦の名前を自分は記憶し損ねて、ここに書くことができない。
 初めて見る「改」の文字。そして耐久力31に目を奪われていたからだ。
 このゲームは、レベルが上がっても持ち前の耐久力(HP)は伸びることがない。漣が最もレベルが高いが、耐久力は15のままだ。そういうものだと思い込んでいた。
 だが、目の前の駆逐艦は、うちの連中の二倍。天龍たち軽巡洋艦のそれすら上回っている。
 なんだ、こいつは……。
 戦闘開始の号砲が鳴った。
 こちらの攻撃は早々に相手Lv1の駆逐艦を仕留めていたが、Lv90の旗艦にはまるで当たらない……幸運な直撃弾ですら、ダメージがまともに入らない!
「なめんなっ。天龍様のこうげ……うぉぉッ!?」敵旗艦の主砲が煌めいた瞬間、天龍の装甲をのきなみ爆散させる(空砲のはずなのに服が破れるこの演習のシステムに、誰一人文句を言うものはいない。どうかしてると思う)。
 そして間を置かず雷撃戦、なんの変哲もないLv90の魚雷が正確無比に電に直撃!「だから言ったのにー!」慈悲無く装甲が焦げた欠片になって吹っ飛ばされる!
 我が精鋭がたったの一合で……。なんて命中精度だ、信じられん。
「心配ごむよーですご主人様!」我が旗艦がびしぃと親指を突き立てて叫んだ。
「天龍のあるかないかの文明性とか、電の社会性とか引き替えに、うちの魚雷もだいたい当たってます! なんでか10くらいしかダメージ入ってないけど!」
 よし、さすがに残る四人は無傷だな。このまま夜戦だ、削り落とせ!
 電にフォーカス。様子が違う。(いや、半裸のことではなく。中破はむしろ、彼女の平常運転だ)画面の左右から表示される、魚雷、魚雷、魚雷……思い出した。これは、電に集中して装備させた魚雷管。
 初めて見るが間違いない。こういう演出が出る時って、必殺の攻撃に決まってるんだ!
「魚雷装填ー! 当たってくださいーッ!」
 やけくそな掛け声とともに無数の航跡が黒い海面を割いて、大山のような水柱を爆裂させた。
「よっしゃあ! これであの悪魔も終わりだァー!」
「天龍ちゃん、それって死にたいときに言うセリフよぅ?」
 無数の水煙が消えた後……そこには、誰も残っていなかった。
 まるで今まで、海の亡霊と戦っていたかのように。
 しばし声もなく艦娘達は立ち尽くしていた。
 審判が演習終了のサイレンを鳴らす。MVP、電。1368EXP。
 今までの戦いとはけた違いの経験値で、あっさりと電のレベルが一つ上がった。
 なかなか得難い演習だったんじゃないか? 経験値稼ぎとしても、格上の相手に挑むのって、割に合わないことではないのだな。
 また機会があったら、演習に出てみよう。
 我が駆逐艦達を遙かなるLv90に届かせる、無限の道程の一歩になるはずだ。
 雷が用意しててくれた着替えを受け取りながら、「もうやです」電が重油みたいな声を出した。

白と黒はかわいい



(つづく)



「困らない限りは、なるべくレシピや攻略情報を見ない」縛りを自分に課して艦これを遊んでいます。手探りの楽しさを記録するのも、この日記の目的だからです。
 そんなわけで「漠然としたアドバイス/本筋に関わらないコツ」などは喜んで聞きつつ、「具体的すぎる攻略アドバイス」については、目を塞いでスルーさせていただいてます、申し訳ない! 困ったときは自分の方からtwitterで助言を頼むときもあるかもしれないので、その時は助けてやってくださいね。
5/21 Wed
艦これ日記11 雨、知らないこと、知ること

 今日は雨で肌寒く、一歩も外に出る気になれない日だった。
 自分はイラストの仕事をしつつ、ときおり艦これを起動しては、軽い遠征と、負傷した艦娘に入渠を命じるくらい(両方とも完了に時間が掛かるコマンドなので、空き時間に行っておくのに向いている。空き時間にこれ以上踏み込むと、実生活がゲームに侵略されるので、重々気を付けなければならない)。
 艦これ世界も今日はきっと雨で、メインの出撃は休んでいる日なのだろう。久々のヒマをさっそく持てあました漣は、司令室の片隅に立てかけていたバケツと釣り竿……自分の引っ越し段ボールよりもずっと長くこの部屋に居座っていた重鎮たるインテリアだった……を手に取って、動かないクレーンの上に腰掛けて釣りを始めた。
 単冠湾鎮守府に司令官が着任していなかった空白期間に、彼女はよくここに座って魚を釣っていたという。
「やってみるとね、あんがい向いてたんですよ。ほら、漣はしつこいから」
 
 さて、改めて書くけれど、これはすべてプレイヤーの自分が想像したことだ。雨が降ったら艦隊が休みだったり、指令所に釣りスポットがあったり、漣が黒鯛釣ったり、している設定は「艦これ」の中にはなにもない。
 絵を描きながら想像したこと。
 ここに腰掛けて、真っ白な雨空を見ている一人の駆逐艦がいたのも、「雨だから、雨の名前の付いた艦娘を描こう。うちの艦隊に時雨ってのがいた気がする」と自分が思いついたから、それだけのことだ。
 だから、これは、プレイ絵日記ではない。
 ……ないのだけど、つづけよう。
 今日は雨で、どうせ、なにもできないからだ。


 時雨(しぐれ)。見た目は素直な笑顔を浮かべる、黒髪三つ編みの艦娘だ。軽量の駆逐艦らしく、装備もシンプルに抑えられたデザインをしており、軽快に動きそう。「よろしくねっ!」とか、今にも言いそうなキャラクターデザインをしていた。
 だけど、彼女は一度、静かな……とても静かな口調で、「艦隊が帰還してきたようだね。……良かった」と呟いたことがあった。
 仲間の帰還にこんなトーンで安堵した艦娘は、ほかにはいなかった。
 他にも物静かな艦娘はいるが、時雨のそれは、どこかしっとりとした闇を感じさせた。可愛げな笑顔にそぐわない、異質な、静かさ。
 図鑑で時雨のプロフィールを見た時、彼女はとある海戦について、一言だけ話してくれた。どうやらそれは、艦娘ではない「現実の」時雨が体験した戦争のことらしかった。
 自分はあえて、艦娘のモデルとなった軍艦達について、踏み込んで知ろうとはしてこなかった。
 なぜかは自分でも、わからない。
「艦これ」は、実在の軍艦と戦争のエピソードを、設定とキャラクターデザイン、セリフへ緻密に織り込んでいると聞く。「元ネタ」を知ることは、艦これを深く楽しむ正道であることに相違はない。だけど、なんでか自分はそうしてこなかった。
 時雨の教えてくれた「スリガオ」という語感には覚えがある。自分が艦これを始める前、友人のイラストレーターがweb上で発表した艦これイラスト、そこに「スリガオ」のタグが付いていたことだけは覚えていたのだ。
 それは息を飲むほど深刻で鮮烈なイラストで、その一枚は、自分の「艦これというゲーム」への認識をわずかに変えた。

 今は四十人近くを数える自分の艦隊の中で、時雨は前線に出ず、控えとして登録されている艦娘の一人にすぎない。普段はきっと海で他のことをしていたり、自分の知らない戦地でなにかのために戦っているのだと思う。
 時雨は「みんなが忘れても、僕だけは覚えているから」と言う。いつかどこかで見た死地のことを。
 きっと、たまにこうして、雨を見ながら。
 
 艦娘はあんまり悩みなく、海上の生活と冒険と戦争を元気に満喫していて、たくさんの楽しさとほんのちょっとの蔭を、姿と台詞に反映している。
「艦これ」の蔭を深く見ないように、自分は史実を知ることを敬遠してきたのかもしれないな、となんとなく思った。
 艦娘の設定背景には戦争があって、彼女たちは、おのおのがその思い出を持っているみたいだ。
 ただ、このゲームと艦娘達は、プレイヤーである自分に楽しみ方を強要することは一度もなかった。ディティールの由来を知れ、とか、まずこの戦法を覚えるべき、とか、物語に浸れ、とか。
「名前の読み方覚えてよ、くらいは言ってるけどね」
 自分はそのスタンスに敬意をおぼえる(作り手はだいたい、「自分の考えたことを知ってほしい」と思うものだからだ)。
 知ろうとしないことも、することも……その自由を「艦これ」は保証している。
 すべてはプレイヤーの自由。
 なのでここで、自分はスリガオ海峡海戦について検索し、時雨達が臨んだ戦闘のことを少しだけ調べる。
 史実によると、時雨はある海戦の果てに、たった一人だけ生き残った駆逐艦だったという。
 
「釣れるかい?」空から目を離して、時雨がたずねる。
「まだまだこれからさぁ」漣が心底楽しそうな声で、釣り竿をちょっと揺らした。
 この雨は明日には上がるだろう。

(つづく)
5/22 Thu
艦これ日記12 上から来るぞ

 最初の海域「鎮守府正面海域」四つ目のエリア「南西諸島沖防衛戦」。作戦番号1-4。それが、我が辺境艦隊が次に挑むべきステージだ。
 このタイミングになっていきなり電報局が慌ただしく動き始め、周囲の先輩提督達から続々と「いよいよ1-4か」「最初の壁ですね」「ああ……」などと打電が殺到する。自分は得体のしれなさに嫌な緊張を覚えたが、その実態を知るにはそんなに時間が掛からなかった。
 主力艦を集めて、初めてこのエリアに踏み込んだ時、遠くの空からぶいーんと聞き慣れない効果音が鳴ったのに気付いたのは、「……あれ」雷だった。
「え、なに?」
「何か聞こえない?」
「正面方向、あれ」
「なんもないぞ」
「違う、水平線じゃない! 上!」
「あっまさか」
「あら」
「えええええ!?」
「みんな機銃! 対空機銃出して早くっ」
「やばいやばいうわわわわ」
「那珂ちゃんスマ――」
 ばたたたたたたたたた!
 噴射機構が大気を切り裂く乾いた音が耳を覆いたくなるほどに大きくなり、司令官の自分がその時ディスプレイで見たのは、画面右側からうちの艦娘めがけて突っ込んでいく航空機と「制空権喪失」の文字。
 異形の航空機は腹から黒い塊を落っことし、着水したそれは高速で水上を走る。ぎょ、魚雷!
 まだ戦闘始まってないのに! 反則だろ!
「ぎゃー!」どががーん!
 轟音が響き、自艦が二人ほど焦げぎみのお肌を曝して、泡を食ったまま敵前衛部隊と会敵し、
 ……必死にそいつらを追い払った頃には、我が辺境艦隊はたいがいズタボロになっていた。
 
 そんな調子で、1-4の初戦よりも先に進軍できないまま、数日が経過していた。
 
「ついに空母来ちゃいましたねえ」
 司令室で漣が、補給用の甘夏ヨーグルトタピオカをすすりながらぼやいた。
「本格的にひきこもる季節が来たんだ……しまったこたつ出してくる……」
 初雪(中破)が、補給用の昆布茶をすすりながらぼやいた。
「開戦前に魚雷管が壊れちゃったら、困っちゃうわ。電なんか、ふえーん恥ずかしいのですぅ、とか言えなくなってたし」
 雷が補給用のミルクたっぷりカフェオレをすすりながらぼやいた。
「言ってないよ! ふえーんとか、言ってないのです!」
 おろしたてのセーラー服をぶんぶんはためかせて電が抗議する。補給済みだった彼女は「ほら、これ、飲む?」雷からカフェオレを一口もらって「あまーい」と砂糖水みたいな声を出した。
「ったくあの女、長めのオフとか言いやがって。根性足りねぇんだ、根性がよ」
 天龍が補給用の水を飲み干しながらぼやいた。
「女の子はあれくらい余裕がなきゃ、駄目よぅ、天龍ちゃぁん? お昼のあいだに空母一匹くびり殺せないんじゃ、あなた、自称アイドル以下なのよぅ?」
 龍田が補給用のとろとろ白桃フルーニュを口にしながら微笑んだ。
「うるせえ! なんで俺が水でお前がフルーニュなんだよ! そもそもフルーニュってなんだよ! よこせよ!」
「いーや♥ 天龍ちゃん、世界一お水が似合うわよ? そのままの天龍ちゃんが、私、好きだなあ♥」
「死ねー!」
「こたつあった。ひきこもります……春まで……」
「ふえーん言ってたでしょ、ふえーんって。あははっ結構似てたかも? あはははっ」
「もう雷のばかー! きらい! ふえーん!」
「……もぐもぐ」
「あっコラてめえマジで飲み干してんじゃねえよフルーニュ! あっあっ」
「お・い・し・い♥」
「ぎゃーぎゃー!」
「わーわー!」
「うるっさぁーーーーーーい!!」
 タピオカを丁寧に味わった後おもむろに漣が一喝してその場はだいたい収まった。
「とにかく1-4は、あの歯並びすこぶる良い空母をなんとかしないと無理ゲーみたい。うちも空母を建造して対抗しないとね、ご主人様?」
 それなんだがなあ……、と、自分はここでようやく考えを進め出す。
 自分はこれまで、具体的な攻略方法と「レシピ」を見ないという自主ルールで(ついでに、ゲーム実画面のみをイラストの資料とするルールもつけて)ゲームを進めてきたのだった。
 艦娘の「建造」には、燃料・鉄鋼・弾薬・ボーキサイト、四種ある物資の配合を指示する必要がある。どうやら、特定の割合を指示しなければ、強力な艦艇——つまり、空母や重巡や戦艦――を作ることはできないらしいのだ。そのため、ゲーム公開以降、数多の提督達が試行に試行を重ねて割り出した「特定艦種を作るための物資配合」、すなわち「レシピ」が、ネット上には存在している。
 その文献を当たれば、おそらくさほど苦労せず、空母を仲間に迎え入れることができるのだ。
 ……だが、自分はずっとためらっている。

 レシピを見ないという縛りには、なにひとつだって、意味は無い。
 善でも悪でも、なにもない。
 およそゲームにおける「縛り」なんて、すべてがそうだ。
 自分だって、労を省けるならとwikiを当たったゲームはたくさんある。
 だが、それでも。
 司令室でくだを巻いているこの艦娘達。
 あるものは当てずっぽうな建造でやってきてくれて(それで一時期、那珂がたくさん増えた)、あるものは自分がわけもわからず海上を進んでいたさなか声を掛けてきてくれて、
 あるものは、最初からここにいた。
 軽巡洋艦と駆逐艦だけの艦隊。
 みんな、この十日間、自分の手と目だけで見つけ、育ててきた仲間だ。
 それを外からの知識でリライトするのは、なんだかとても、とても、気が引けたのだ。
 できればこのまま自力で進めてみたい。できるところまで。
 意味が無いというならば、そもそもゲームって、そうじゃないか。

 夜戦における彼女たちの爆発力は戦艦にも劣らない。火線を潜り、懐まで接近できれば、耐久力60台の空母ですら一撃で屠れる力を持っている。
 運が味方すれば、エリアボスまで進撃できるかもしれない。
 いつかは当てずっぽうな建造コマンドが、空を味方とする艦娘を連れてきてくれるかもしれない。
 そしてまだ、漣たちにはレベルを上げる余地がある。
 司令官が無理ゲーと判断するまで、もう少しだけ、今のままで頑張ってみよう。
「毎回ひんむかれるほうの身にもなってくださいよ」苦笑した漣が、壁でベルを鳴らした通信網を取った。「工廠からです。新入り、できたみたいですよ。今挨拶に来るって!」
 みんなしてわくわくしながら、司令室の木戸を叩くニューカマーを待つ。
 やってきたのは……
「艦隊のアイドル、那珂ちゃんでーす!」
「またあんたか!!!!」
 司令室にいた者すべてが心を一つにして大合唱した。

天龍は「人気の高い脇役」っぽくてとってもいい



(つづく)



 この連載を始める前、「恐らくこれくらいのタイミングで、こんなかんじの山場が来るだろう」と想像したとおりの展開になってきました。そして、始める前は思いもしなかった「連載のテーマ」ってやつがだんだん浮かび上がってきました。さあ、どうなる。
5/23 Fri
艦これ日記13 烈火のツン

 言うまでもないが、艦これにはいろんな性格のキャラが登場するのである。
 戦闘に際して、日常の所々で、時には司令官に対する、その台詞をもって描き出されるそれぞれの個性。
 無邪気な艦娘もいれば、のんきな奴もいるし、真面目な艦娘だってたくさんいるし、ネガティブな奴とか、司令官になにやら思うところがある艦娘とか……
 俗に言うギャルゲーが多くても10人程度で構成されるのに対して(ぷよぷよや、格ゲーだって、20人くらいだよね)、艦これは総勢100人超。それぞれにキャラ付け、デザインの差異を設けるのって気が遠くなりそうだ……と、自分は制作陣のクリエイティビティに畏れを抱かずにはいられない。
 そんな中で……
「なに? 何か用?」
 ここに一人、険悪に目を細めてこちらを横目で睨んでくる艦娘がいる。
 名前は曙(あけぼの)。
 彼女が愛嬌らしい愛嬌を覗かせたのは「お相撲さんではないわ」という自己紹介の一言だけで、あとは
「なんで触るの? うざいなあ」(※触ってない)
「こんだけ? 大したことないわね」(補給のため、食堂で使えるトークンを渡したら言われた)
「次から次へと、うっざいわねっ!」(みんな大好き夜戦に入ったときもこの調子だ)
 と、朝から晩まで、ぎりぎりした感情を込めた声音で言ってくるのだった。
 ほんとに、ぎりぎりしてるのだ。
 こいつは、ツンだ。
 近年たぐいまれなる、デレの一切無い、純然たるツン……!
 曙は“綾波型駆逐艦”、じつは漣の姉妹艦だ。姉妹艦は同じイラストレーターさんが手掛けていて、絵柄を見るだけで「このあたりは姉妹だな」と見当付けることもできる(漣たちを手掛けるイラストレーターさんの絵柄、線に色濃い独特な味があって好きです)。
「え、いい子ですよ?」と漣が目をぱちくりさせた。
「そりゃまあ、たまにきついことあるけど、気がつくし優しいしうさちゃんグッズ集めてるしキャミも、あ、やべ、これ秘密だった。忘れてください。姉妹の中じゃ一番しっかりものじゃないかなあ」
 ……と漣は言うのだが、その「ツンに潜むなにかやわらかい気配」の片鱗はまったく、微塵も、提督には見えないのである。
 曙がふらっとやってきて、もはやこちらを見ることなく
「…………クソ提督、電報。あんたに用なんて、どんな××な××かしら。ふん」
 と言って出て行った。はっきりと嫌われてないか自分?
 twitterより届いた打電は、
「曙はMVPコメントでほっこりするといいですよ」という助言だった。確かにMVP、聞いたことがない。ありがたい!
 よし曙、低レベルな仲間をちょっと連れて、正面海域に出動してみよう。
「きもい。まじきもい。なにそれ。いっそ遠征命じてくれない? クソ提督が異動するまで出掛けたいんですけど」
 頼む……俺が泣かないうちに出撃してくれ。
 鎮守府正面海域は今でもたまに深海棲艦のはぐれ艦が出没することがあり、「正面海域警護」という一番最初のエリアは時期問わず新米艦娘達の演習の舞台としてぴったりの場所なのだ。
 ほどなくして、遠くの水面をぷかぷか浮き沈みする黒い影を見つけた。駆逐ロ級、一体。死闘のさなかにはあまりじっくり見れないが、そのフォルムはころんとしていてちょっと愛嬌なくもない。およそゲームというゲームで、最初に出てくる敵は丸いシルエットをしているものだ。
「ふんっ、いいわよ、そうこなくっちゃねっ」
 お、やる気じゃんか。
 仲間の砲撃が数度ダメージを与え、動きが鈍った敵の機関部を、曙の主砲が捉えた。文句なしにMVPだぞ、曙。なんて言うんだ……!
「大っ勝利! あたしに十分、感謝しなさいよね、クソ提督!」
 ………………。
 …………この「クソ提督」だけは、明るい声だった、気がする。
 台風の目を知らせる一声みたいな寸時の明るさを帯びたトーン。

 烈火のツンに開いた、ほんの一瞬のゆるみだ。

 鎮守府に帰ってきた曙は開口一番に、
「艦隊が帰投したわ。ふん」機嫌悪そうに一言残して、司令室を出て行った。
 艦これには、色々な性格のキャラクターがいるものだ。
 ……でも、やっぱ、嫌われてるよなあ、自分?

主力艦隊レベル上げ中



(つづく)
5/24 Sat
艦これ日記 毎日更新ちょっとお休みのおしらせ

「え、なんで? どうして? 艦これやり過ぎで仕事に支障が出てイラストレーターをクビになったからですかご主人様?」
 違う、まったく、だんじて違う。そもそもイラストレーターは自営業だから、クビにはならない。
「そうとも限らないよ……」秘書艦のつぶやきを司令官は聞こえないふりをした。
 次回プレイ絵日記のネタが一日では描けない規模になったので、そっちを描き切るまでプレイ日記と本編進行をしばらく中断しておくことにしたのだ。
「ああ、あの話かー。いよいよ漣の本気を見せるときが――グレート弩ライジン=ザ=漣改三=ビヨンドの抜錨回ですよね。ついに暁の地平線に勝利を刻む神回が。キタコレ」
 ちがう、まったく、だんじて違う。
「なんですか! 可能性を潰しまくったあげくにこの戦争が終わるとでもいうんですか!」
 いきなりシリアス回っぽく言われてもこの日記のゆるさは微動だにしないぞ。
 そんなわけで、次回本編更新まで細かいらくがきで間をつなぐ予定です。次をのんびり待ってもらえたらさいわい。漣、その間、お前らはタンカー護衛な。
「うえー。その遠征、リアルで四時間掛かるじゃないですか。ビヨンドしたかったなあ……」

艦これは敵キャラのグラフィックがすごく格好良い



(つづく)



 五月も終盤。来月明けにはいきなりゲームマーケットが待ち受けてるので、そろそろ具体的な準備を始めなければ。公式告知はまだなのだけど、
当日はC-01sukuranburuさんの新刊にもでっかく絵を提供してます。題して「ボードゲーマーガールズ」。要チェックですよー。
5/26 Mon
艦これ日記 毎日更新ちょっとお休み中

夏コミ当確前だけどちょっと準備はじめ





(つづく)



 今回から始めた同人誌のamazon販売、当初は在庫1部とか表示されて気が気じゃなかったんだけど(システムの都合上、納品数全てが即座にamazon倉庫には入らないみたい)、ようやく少しずつ在庫状況が正常になってきたみたい。
 同人通販はただでさえハードル高めなので、いろいろな販路で「買いやすい雰囲気」を作っていきたいなー、と思っています。コンビニ払いが可能なショップ、pixivの個人ショップサイト「BOOTH」なんかも。手を伸ばしやすいルートがあったら、よろしくですよー。
5/30 Fri
艦これ日記 毎日更新ちょっとお休み中

ひきつづき夏の準備中


(つづく)



 もーってくらい一気に暑くなってきた。
5/31 Sat
(艦これ日記 毎日更新ちょっとお休み中)

ひきこもり準備中




 タニタ公式twitterが「誰か擬人化したRD900の画像を下さい!」と言うので突発的に描いたらこんなことに。
6/1 Sun ゲームマーケット2014春
 月末から一気に暑くなってきて(クーラーが稼働しだした)、熱中症に怯えながらスポーツドリンクとお茶を買い込んでビッグサイトへ。幸い会場内の空調はまともに効いていました(夏コミ参加経験者はもれなく「ビッグサイトには冷房がない」という間違った認識を持っている)。  ゲームブック「シュレディンガ・フォークス パラグラフの迷路」を新刊とした出展。いかにも同人誌即売会って感じのディスプレイなんだけど、ゲームマーケットにおいてはこれ、地味すぎたかも。アナログゲームを扱ってるブースの一つ一つが、「個人経営の店」としての世界観を持って空間を作ってるような印象だったのです。
「ゲームブックってなんですか?」と訪ねてきたお客さんがいて、盲点を突かれた自分がちょっと恥ずかしい。その場ではあたふたと説明したけど……。"ゲームマーケットに来る人がみんなゲームブック知ってる"って考えは良くなかったなあ(ほんと、当然っちゃ当然のこと)。  端数が必ず出る値段設定だったので、慢性的に100円玉が不足するサークルです。この100円玉不足のカードと、それを見て小銭を出してくださったお客さんに、相当助けられました。  同日、C01で出展していたsukuranburuさんの新作「BOARD GAMER GIRLS」をこの日はじめて手に取ることができました。ぐずりさんいい仕事してる! 手触りのとてもいい本です(自分用メモ:おそらくミスターBスーパーホワイト135kg)。印刷が綺麗に出ていて嬉しい。  少数持ち込んだ既刊は綺麗に完売(TRPGと装丁はこれで払底しました。委託分として扱ってもらっている在庫が最後です)。もうちょい「時々の境界線」を持ち込めばよかった……と思う、こういう読み間違えの感触って、決して悪いものではないな−。
 空いたスペースで絵を描いたり、昼以降はずいぶんまったりとしたイベントになりました。
 あらためて、遊びに来てくださったみなさん、ありがとうございます。次回参加するときはいよいよなんかゲームを作って持っていこう、って考えています。またサークルスペースでお会いできたらさいわい。
6/2 Mon
(艦これ日記 毎日更新ちょっとお休み中)

 余白のあるカレンダーに絵を描く。6月は油断すると一瞬で過ぎ去る月、という印象です。金曜には夏コミ当落が出ちゃうので、身辺をもうちょっと整理整頓しとかないとなー。艦これ日記も再開したいが、ぐぬぬっと泥濘を歩いてる感じです。抜けるまでもうしばらくかかりそう。
 ゲームマーケットが終わり、左側メニューにある「ショップ通販で買える個人誌infomation」コーナーも更新しているので(ボードゲーマーガールズ情報も追加したよ)、本を買い逃したって方やイベントに来れなかったってかたは、のんびり眺めてみてね。
6/6 Fri 夏コミ落選のおしらせ

  三回に一度は落選してる気がするなあ……。もちろん同人誌を発表する機会はコミケだけではないのだけど、本の企画の最初の方に「コミケで頒布してる光景」を強くイメージして準備を始めてただけに、かなりがっかりしてしまいます。気を取り戻して、準備を再開しなきゃな。
 そんなわけで、今夏はコミティアともう一つ、艦これオンリーイベントへの出展も検討し始めました……そんなわけで、いまさらながら発表するけれど、今年のサークル辺境紳士社交場の挑戦は「二次創作」です。原作を知らない人でも「なんか楽しそう」と思える本を目指して、がっつりやるよ。
6/13 Fri

 夏が近付くにつれて身の回りの仕事量が知らず知らずふくらんでしまい、なにかと余裕が失われていけません。もうちょいでいろんな方向に突破口ができるはずなのだ……。こういう時はがまんして、仕事第一(家庭を第二、ゲームは第三)で毎日乗り切るとしよう。

 ……と言いつつも、仕事のさらに水面下で密かに描き進めていた艦これプレイマンガ「南西諸島沖防衛戦・初戦」明日公開予定。
6/14 Sat
艦これ日記14 南西諸島沖防衛戦・初戦

この画像をクリックしたら縦に長い漫画が読めるよ


 そんなわけで、戦闘にして約一分半……制作期間は半月以上かけてちまちま描いていた漫画が完成しました。この量の二次創作漫画を描いたのは、人生で初めてです。長かったけど、すっごく楽しかったなー。
 細かい攻撃手順は前後しているけど、ゲーム上で起こったことは、まったくこの漫画の通り。想像すれば、アクションの一つ一つに物語を感じられるのが、良いゲームなのだと思います。

 漫画を描いてる間、漣達は攻略をお休みし、あれこれ修行の航海に出てけっこう強くなりました。ここからは従来のプレイ日記スタイルに戻りますが、ほどなくゲームに進展がある……はず。自分と艦娘達の戦いはまだはじまったばかりなのです。
6/18 Wed
艦これ日記15 BGMについて

 艦これを始めて驚いたのは、ブラウザゲームなのにBGMが良かった、ということだった。
 
 ブラウザゲームはすべてのデータをダウンロードしながら遊ぶ仕組みになっていて、制作者にとっては常に容量との戦いになる。
 大量のユーザー、大量のアクセスに対し、どれだけデータ量を削れるか。そこで真っ先に切り捨てられるのは、長時間の音声……すなわちBGMだ。
 ということを、それまでの自分は想像していた。
 ゲームを始めて、最初に司令室に来たときに流れた曲に、自分の脳の端っこが少し起こされた。
 ゆったりとした前奏。尺八の主旋律。思いっきり「和」してるBGM。
 いかにも軍隊司令室、っていう曲調ではない。でも、ふしぎと合ってる。わざと正道を外して、しっくりこさせる、作り手の確かな意図を感じる音楽だった。
 これは……ちゃんとしたBGMだ。
 自分はそのまま聴く。
 おそらく、メインフレーズが一回鳴ったら、すぐにループするだろう。
 FLASHで使える音声はループポイント指定OGGではなく、単純なMP3ループ再生のはず。曲の切れ目がくっきりと付くタイプ。
 ウェブで音付きのマンガを連載した経験がそう言った。
 音声データは長さに比例して容量が膨らんでいく……どれだけ良い曲でも、繰り返しが気になるほど短ければ、自分はちょっと残念に思っちゃうにちがいない。
 どうして、曲一つにこんなに慎重になるんだ?
 自分は昔からゲームのBGMが大好きで、きっと好きがひねくれて、新しい形態であるブラウザゲームのそれにたいして、たかをくくっていたのだ。
 かつての名曲達の空気が、今のゲームを彩ることは、もうないだろうな、って……

 そこで曲が転調して、自分は驚く。一曲が長い。

 少し哀愁を帯びたピアノがしっとりと続き、それが静かなアウトロに繋がり……呼吸の継ぎ目のような、察知できないくらいの隙間を挟んで、曲はそこで始めて、自然にループした。
 おお……いいな……、と思った。
 
 そんなわけで自分は、艦これのBGMがすっかり好きになった。
 メインメロディが立ってて口笛で吹ける、というのが自分が思う「ゲーム音楽らしさ」なんだけど、まさにそんなかんじ。
 今回挙げた司令室の曲は穏やかで優しく、勝利から帰ってきた艦娘達をねぎらうようでもあるし、しっとりした転調部分では、敗戦から逃げ帰ってきた彼女たちに「まあそんな日もあるよ。とりあえず風呂入ってごはん食べなよ」と優しく声を掛けるような気配も想像できる。
「帰ってきたとき」に染みる曲って、自分はなかなか知らない。
 工廠に入ったとき流れる軽快な三拍子も、出撃先を選ぶ時のいかにも「やるぞー」ってうずうずしているテンションも好きだ。
 
 また、良いゲームは絶対、良い戦闘曲を持っているものだ。
 昼戦BGMが「これが漣の本気なのです! うりゃー!」「てー!」(どかーん)「ひゃあ! 恥ずかしいよお!」という、駆逐艦達のちょっとのんきで健気な戦闘をイメージさせる曲なのに対して、夜戦に突入したとき第一声で鳴り響く暗い重いギターフレーズが、夜闇と共にゲームの空気を一変させる瞬間が好きだ。
 この曲のイントロと、味方旗艦の鬨の声はとても演出的に、うまく重なる。
 ♪じゃーん! だっ、じゃーん!
「逃げられないよ」
 艦娘の夜戦突入時の台詞は、だいたい「にやり」と不敵な笑みを浮かべながら発せられるイメージ。
 ♪じゃーっだ、じゃ、らーら♪
「漣は、しつっこいから……!」
 それがどんな有利な戦いでも、味方中破しまくりな劣勢においても、言う事は変わらない。台詞が、それぞれの艦娘の本質を示している。好戦的な奴、敵に逃げてほしい奴、味方を鼓舞する奴……。
 どれもかならず、強さを内に秘めている。
 その強さを、激しいテンポのこの曲が裏打ちしてくれる、そんな気がするのだ。
 あと、この夜戦BGMはエリアボス戦としても使われていて、その場合は夜戦突入のタイミングがだいたい曲の転調部分に当たり、ゲームと楽曲がとってもドラマチックにシンクロするのがすげー痺れる。
 
 艦これで使われている曲リストを見ると、自分はまだまだ……あまりにもまだまだ、聴いていない曲が多いみたい。
 それはこれから進撃する先の、戦闘曲として用意されているようだ。
 良いゲームというのはかならず、新曲を聴いた瞬間に「お!」と嬉しくなっちゃうものだと思う。
 ゲームを進める原動力はいくつもあるけど、「新しい場所に進んで、新しいBGMを聴きたい」というのも、あるよね。
 
 ある日工廠で、空母作れないかなあ……とランダムに資材を投入していたら(踊るように軽やかな三拍子を聴いていると、ランダムっぷりに拍車が掛かる)、突然あたりが金色のオーラに包まれて、金色の背景のほかにはなにも見えなくなった。
 金色?
 背景色は建造された艦娘の希少価値を示す。金色は今まで見たことのない色だ。
「Guten Tag、あ、違った。ごめんなさいね……「はち」、と呼んでくださいね」
 そう名乗った彼女の艦名は、いやに無機質な「伊8」。
 セーラー服でも、砲台を背負ってるのでもない(背負ってるのは本の山だ)、年柄年中プール開きが待ち遠しいっていう格好の艦娘。
 これまでとは、なにもかも違った。
 伊8は「潜水艦」、かなりレアな艦らしい。……空母や重巡が出る前に、潜水艦が仲間になっちゃった。どう運用すればいいんだ、この子?
「私もよくわからないけど」伊8はのんびり準備体操を始めながら「潜水艦だし、とりあえず潜りますね。新しい曲が聴けるかもしれません」と言った。
 風変わりな新顔も増えて、辺境艦隊に少しずつ深みが出てきた……気もする。聴いたことのない曲が彩る新天地を目指して、少しずつ強くなっていこう。
 

今回はゼッケン部分だけ画像検索しました



(つづく)



 そんなわけで、攻略情報と画像検索に極力頼らない系艦これ絵日記、更新再開ですよ。
6/23 Mon
 近付く夏とともに本業がぞろぞろ行列をなしてきて、らくがきをする余地すらないというていたらく! 情けない! こうなってしまっては、艦これはゲームなために本業よりも優先するわけにはいきません(大人だもんね)。そんなわけで、看板の文言を「ほぼ毎日更新→まったり連載予定」に切り替えて(弱気じゃないか、え?)、大人のように、しれっと日々を切り抜けてから、またゲームを遊ぶことにします。
 みんなもほどほどに仕事しようぜ!


 それはそうと、日曜日に、たぶん人生初の人狼になりました。なすすべなく吊られた……。
6/24 Tue
艦これ日記16 遠征日和、改造日和


 ……それは、1-4ボス戦の漫画を描いていたときのことだった。
「いつまで漫画描いてるんですかご主人様」
 波止場から帰ってきて、釣り竿を定位置にしまった漣が、もう何回目か忘れた質問を投げてきた。
 最初の予定4Pくらいだったんだけどなあ。ネーム切ったら16Pになっちゃうとかなあ……。半月以上かかるよなこれ。
「そもそも4Pでどんな戦闘描けたんだろう……?」
「……はい。これ。消しゴムかけた」
 おお、すまんな、初雪。
「あとご主人様、いつまで司令室に段ボール積んでんですか?」
 これな、原稿描くのとMacBook置いて日記書くのにちょうどいい高さなんだよね。新しい家具置くのって、家具引換トークンが要るみたいだし……このままでもいいかなあ、とか、考えたり……
「そういうの、実はあんまり良くないって、思うんですよ。カビますよ。もっと素敵な家具が世の中てんこもりで」
「こたつがあればいいと、思う……。司令官、次は……?」
 ええと、難しいかもしれないんだけど、Photoshop立ち上げて、そいつをグレースケール600dpiで取り込んでだな……
「ん……がんばる」
「わーかーりーまーしーたーヨー!」やおら漣はくるりときびすを返して司令室のドアに手を掛けた。
「駆逐艦漣、これより葉月桜見隊旗艦を拝命し遠征に行って参りますヨ!」
 自分とこたつ(いや、違った、初雪)はぽかんと漣を見返す。
 どうした、いきなり?
「家具と経験値を持ってきます。初雪はしばらく秘書艦お願いね。アシスタントだっけ? まあいっか。ご主人様は漫画描いてればいいです」
 ドアを開けてがしゃがしゃと出て行こうとして……「あと」最後に漣は振り返った。
「漫画の15P目くらいで漣ちゃんのキュートで本気なカットイン入れといてください!」
 今度こそ扉はばたんと閉じられた。

 艦これには「遠征」というコマンドがある。主力艦隊とは別の小隊を一定時間“おつかい”に出し、経験値と物資を獲得させるというものだ。
 司令部の目の前にある海を使い15分もすれば完了する「航行訓練」から、北方海域まで出向き敵情を偵察するという帰還まで数時間を要するがちがちのミッションまで、その内容はさまざま。
 プレイヤーとしては放っておいてもいいので(むしろ放っておく以外のことはできない)、寝る前に遠征に出撃させておけば、次にゲームを起動した頃には、艦娘達は結果を……成功にせよ失敗にせよ……お土産にして帰港しているという仕組み。
 時間は掛かるが、自分の見てきた範囲では、ダメージを負うこともない。
 司令官がマンガを描いているときの経験値稼ぎにはちょうどいいのだ。

 第二艦隊は「葉月桜見隊」と呼ばれている(自分がなんとなく命名した)。今のところ新入りのレベル上げと、遠征のためだけに運用される「控え」の部隊だ。
 今、その控え部隊に、先日1-4ボスに挑んだ六人がそのまま移った。こいつらなら難易度の高い遠征でも、だいたい成功するだろう。
 自分はその中で「製油所沿岸:タンカー護衛」を選ぶ。
 完了まで3時間と、長い遠征だ。でも多分、コストに応じて、得られる経験値は増すはずだ(なお、成功報酬の中に家具コインもある)。

「ん……いってらっしゃい」コタツからのろのろと出てきた秘書艦初雪が、波止場で漣達を見送る。
「任せといて! 雷がいるんだもん、楽勝だわ」「遠足みてえだなあ。敵出ねえかなあ」「出ないほうがいいのですっ」「電ちゃん、世の中にはね、おいしいお・や・つ、が必要だと思わない……?」「あーあーやめてよ龍田さんなんかワケわかんないけど泣いちゃうからこの子」「もうちょっとで新曲できそうなの! タンカーの皆さんをねこそぎファンにしてみせるよ! 移動長いから、みんなにリハお願いしようかなぁ? 漣ちゃんは熱狂的なファン役でー、警備の雷ちゃんともみ合ってる中でー、センターの那珂ちゃんが……あれ、みんなどこ?」
 遠征はきっとそれぞれがやる気あったり無かったり、それぞれの真剣さで挑むのだろう。そこにボイスや砲撃音の往来はないけれど、これもまた艦娘達の冒険だ。

 そして、すこしだけ時間が経った。

 マンガは完成が目前に見える所まで来て、1-4の進行は止まったまま、遠征と演習が何日か繰り返された。
(1-4は今まさに敵に侵攻を受けている南西沖諸島を守るための作戦なんだけど……まあこういうのって、ゲームにはよくあること。敵は敵で、中休みしているのだろう)
 少しずつ艦隊のレベルは底上げされていき、時折稼働する工廠は相変わらず駆逐艦や軽巡洋艦だけを連れてくる(数少ない例外が伊8で、この潜水艦の活躍のさせ方を自分は模索している)。
 単冠湾鎮守府は市役所のように平穏な忙しさをこなしていた。
「葉月桜見隊、護衛任務より帰投しましたー」
 漣、タンカー何回護衛したんだ?
「この戦争が終わったらアラブの石油王になるのです、って電が言ってました」
 なんじゃそりゃ。
「タンカーの船長一族に気に入られてたからなあ。採掘権もらったのかも」
 そんな漣の後ろで「いいなあ採掘権。変装しようかしら。わたし電のマネ上手だもの、んふふ……きっとだまされるのです! あっはは! 似てた似てた!」雷が不穏な事を言い出した。
 さすがにタンカーばっかりで飽きてきたか……。

「じゃあ、改造しましょうよ、改造。私さっきの遠征で、レベル20になったから!」
 漣の一言でばっちり目が覚めた。
 改造って……20Lvから「改」付きになれるのか!

 いつか演習で見た高レベル駆逐艦を思い出す。耐久度が格段に高く、こちらの全力射撃を軽くいなして見せたあの艦娘も、たしか「改」の文字がくっついていた。
 文字通り、改造は改造だ。弱きを補い強さを伸ばす、機械にとっては純然としたパワーアップ。お話の途中、唐突に現れた敵の極秘兵器に敗れた主人公機も、伝説のメカニックによる改造を受け、絶望的な脅威を打ち破る超性能を発揮するものだ。それってメカものの様式美だよね……でも。
 でもだ。艦娘はいまいちメカっぽくない。
 改造ってなにをどうするんだ……?
「聞くのは野暮ってもんですよ」
 はあ。
「決して改造セミナーに参加したり、改造会員を五人勧誘したり、改造電磁波でいろいろよくなるシールを買うわけじゃありませんよ」
 やめてよ! そんな暗部聞きたくないよ!
「うそうそ。じゃあちょっと改造してきます。お楽しみにー」
 漣は工廠に向かって(更衣室があるらしい)、背景をなにやらキラキラさせてから、ほどなくして帰ってきた。
 ……見た目、変わってないように見える。
「えー。一応、キャラ枠が特別なやつになったんですよ? 前よりちょっと光ってるじゃないですか。どうどう、どーですかご主人様。本気っぽさが十割増しです!」
 枠だけはな……あ、いや……耐久力、30になってる! ヒットポイントはほんとに十割増しだ! すげえ!
「基礎性能もあれこれアーップですよ!」
 漣は機嫌良さそうにくるくる回っている。
 よく見たらアイテム装備枠も二から三に増えていて、「実はいちごもあまおうくらいにパワーアップ! あ、いや、こっちの話です!」彼女は空いたスロットにぴかぴかの二連対空機銃をぶら下げていて、ちょっと強そうになっていた。
 強そうになった駆逐艦はこけた。
「うう……身体の感覚なんか慣れない……。悪いけど、もーちょっとマンガ描いててください。雷装のカン戻してくるから……」
 改造とは、見た目そんなに変わらない(まるっきりイラストが変わる大改造の噂も聞いたが、それはまた別の話)。
 だが、今、司令室をふらふらと出て行った漣には、花文様に彩られた「改」の文字がくっついている。
 改って心躍る漢字だよな、メカものの様式美だ。自分はそう思った。
 様式美なんかで戦争は勝てないけれど、ゲームを楽しむためには、こういうほんのちょっとした喜びこそが、空気のように不可欠だと、自分は思ったのだ。

史実を気にしなきゃ、こういうらくがきしてもいいんだよな


(つづく)
6/29 Sun
 一日一個のペースで、山積していたでかいお仕事を切り崩す一週間でした(異世界なイラストだったり絵のメイキングだったりキャラデザだったり、あれやこれやは夏以降、またおしらせします)。
 ゲームを遊ぶ余裕もない……と言っときながら、えもふりというキャライラストを動かせるフリーソフトで遊んだりしてました。
 PSDファイルで用意されたテンプレートに沿って、お絵かきソフトでキャラを描いて、素材を登録して、プリセットされた動作に沿って動かすだけでなんか楽しい、かなり敷居の低いアニメーションソフトです(やりようによってはかなり細かい動作付けもできるみたい)。
 動かした瞬間に「描き覚えのない自分の絵」になったのが、ちょっとしたSF体験。マウスで動かすだけでぐりぐり姿勢や表情が変わるので、プレビュー画面を延々と見続けてしまうことができます。自キャラ愛が湧いてくるなあ……。

7/2 Wed
艦これ日記17 南西諸島沖防衛戦・リベンジ


 やがて、気がつけば…………
 漣Lv30、天龍Lv25、電Lv25、雷Lv23、龍田Lv24、那珂Lv24。
 すべてに「改」の称号が付き、艦隊の耐久力は大きく増した。
 
 そしてついに、司令官の手からマンガ作業が離れ、存分に1-4攻略に意識を振り向けられる日がやってきたのだ。
 辺境第壱艦隊、出撃だ!
「遅い」「遅いよっ」「……おそいのです」「あらあ、まだ描いてたの? 私、てっきり、やめたとばかり……」「次は那珂ちゃん描いてもいいですよ?」「おっせぇーーーーんだよッ!」最後に天龍が天を仰いで絶叫して、司令室の窓を突き破った勢いで三階下の海面に水柱を立てダイレクトに出航していった。
 残る五人もばたばたと桟橋から飛び出して、白い航跡を描きながらあっという間に消えていく。
 海面の上には、梅雨空の曇天。薄冷たい海風が、ごうと吹いた。
 
 進路に会敵予想が立つ。
 第壱艦隊の旗艦は待ちかねましたよ、と言いたげに一息たっぷり吸って、宣言した。
「これが、漣の本気なのです!」
 砲弾が一瞬だけ交差し、初戦は昼の内に征された。
 強くなっている。
 レベルによる勝ちやすさを、確かに感じた。
 回れ、羅針盤。今日は風が吹いている。
 艦娘達の勢いに、自分は根拠もない直感を固めた。
 今日はどうやら、勝てる日だ。
 進路はいつにない素直さで、ボスの待つ海域へと向いた。
 
 前回と同じ、六つの敵影が待ち構えている。
 
 昼戦、二隻の空母ヲ級が繰り出す航空攻撃がやはり痛い。
 旗艦・漣が小破、電と雷が直撃を食らい大破!
 しかしこちらの攻撃も……当たる、全てが重さを持って、当たる!
 敵重巡1、駆逐艦2を撃破。旗艦ヲ級も小破させた!
 夜戦。
 龍田が無傷の方のヲ級を一撃で――クリティカル!―― 仕留め、直後、那珂が「ありがとーっ!」と愛想を振りまきながら魚雷を一斉発射、旗艦ヲ級を爆裂する水煙の中に消した。
 
 前回の戦いをずっとマンガで再現しようとしてきたから、自分にははっきりと見えたのだ。
 このとき那珂と龍田は、やってやったぜ、と言わんばかりの、不敵な笑い方をしていた。
 まさに、前回の「おかえし」だった。
 砲雷撃戦の爆音が払暁の水蒸気に消え、そこに見えた文字は――完全勝利。
 自分はきっと、「……ぃよっし!!」とか、ディスプレイの前で叫んでいたと思う。
 
 南西諸島の攻防戦を突破し、長く雲の向こうに姿を隠していたエリア2「南西諸島海域」への航路が開かれた。
 1-4はこの六人で勝つ、という司令官の悲願は、果たされたのだ。
 意味も道理もない、自分だけの悲願。しかし、今感じているこれがきっと、自分にとっての「艦これ」なのだと思う。
 
 夜戦が開けた朝早くに単冠湾鎮守府に帰投した六人は、簡潔に戦果を報告した後、足取り軽めに……がやがやと苦労話やら自慢話やら腹減った眠いお風呂とかだべりながら……ドックへと消えていった。
 きっとそこでは沸かしたての新しい風呂や、お茶とようかんや、真っ白なご飯とかが炊かれているのだろう、と自分が想像したのは、
「メシウマ!」――という、小破の身体をご飯で癒す、漣の上機嫌な声が聞こえてきたからだった。
 
 ……余談になるが、今回立ちはだかったボス「空母ヲ級」は、艦これを始める前の自分が島風(そういやまだ会えてない)以外で唯一名前と顔が一致しているキャラクターだった。禍々しさと格好良さと可愛さが絶妙なバランスで盛り込まれた印象的なデザインを、ネットの片隅で見た瞬間に一発で覚えていて、初めて遭遇したときは「ヲ級だ! ついに来たか」と緊張したくらい。
 艦これの世界観を支えているのは、深海棲艦と呼ばれる敵キャラクター群のデザインにもあると自分は感じている。
 華やかな艦娘達がぶつかる障壁として、声もない無彩色な彼女たちの威容は、これ以上ないくらいぴったりだと思う。
 敵の事情はこのゲームではまったく語られない(大昔のシューティングゲームが、「この宇宙人がなんで攻めてくるのか」なんていちいち語らず、開始三秒後に弾を撃ってくるようなもの)。
 隙間すらないような大きな空白に、自分はほんのかすかに想像する。
 深海棲艦の方だって、なんかいろいろ大変なんだろうな、みたいな……。

敵基地って深海にあるのか? 潜水艦もいるみたいだが……。


(つづく)
7/3 Thu

カレンダーにコピック

 さあ、今年も、うかうかしてらんない七月がやってきた!
 今年の春夏は二次創作っていう「はじめての挑戦」をしているわけですが、その挑戦の一区切りは「同人誌を作る」に、最初から設定しています。そう、この辺境紳士社交場とは、同人サークルの屋号でもあるのだから……。
 夏に作る同人誌はだいたい七月に入稿〆切が来るのだけど、コミケ落選のせいでちょっと、気分の着地点がぼやぼやっとしてしまっていけません(コミケに責任を押しつける大人)。ぼやぼやっとしている場合ではない。
 冊子仕様決定とか、本文テスト組みとか、仮台割とか、表紙とか口絵とかも、今のうちにやっておかねば、待ち受けるのは明けても明かせぬ修羅の夜ですよ。
 うかうかしてらんないのだ!

わら半紙ノートは白鉛筆が乗りやすい

螺旋人リアリズム 」という魔法じみたポケット画集をぱらぱらめくると、ベルト一つを白黒でどれだけ可愛く格好良く厚く描けるのかってことを思い出しては、魂を研ぐ思いです。無性に武装バニーさん描きたくなります。大好きな画集の一つ。こんな作者本人の言葉が詰め込まれた画集って、滅多に無いよな。作り手としては寡黙にしちゃいがちなのはよーく解るんだけど、読み手としては、イラストのそばには言葉が添えられててほしいな……。
7/6 Sun
艦これ日記18 空の目、海の狼


 この間、1-4を攻略する途上で、「水上機母艦」を名乗る見慣れない艦娘が仲間になった。
「水!」「上!」「機!」「母!」「艦!」「おおー!」
 漣達からの打電を受けて鎮守府は一気に騒然となり、第壱艦隊の帰投を一同総出で待ち構えていた。
 さほど緊張した様子も見せず、その艦娘は「千代田です」と名乗った。
「あの、姉、来てないですか? ご迷惑掛けてないか気になっちゃって……」
「千歳って言うみたい。みんな、知ってる?」漣が引き継いで尋ねたが、全員首をかしげるばかり。
「そうですか……一番乗りになっちゃったなあ」
 その両手には、航空カタパルトを模した特徴的な艤装が握られている。
 ——待ち望んでいた、「航空機を操る」艦娘だ!
 ステータスを見ると砲撃も魚雷も大したものではないけど、航空機により海戦に「空」という新しい軸をもたらすユニットだ。
「そうですよご主人様! この子さえいれば……」
「この子に空撮頼めます! 次のPV楽しみにしててくださいね!」
 ここにいる千代田は、まさに、希望の象徴だった。
 きっと、彼女さえいれば、航空機に翻弄されたこれまでのステージも……
 と、期待の眼差しが何十個も集まったあたりで、千代田はいきなりがちがちに表情をこわばらせた。
「え。わたし、あの」
 何を期待されてるのか今気付いた、という顔で。
「わたし、えーと、偵察機……とか得意なので……。あの……サーチしたらデストロイするようなたくさんの爆装とかはですね、そのお……」
 不自然な沈黙がしばらく続いて……。
 艦隊の中でも面倒見の良い連中が真っ先に動いた。
「来い。お前に最高の館内施設を教えてやる」「そして一緒にカレーでも食うクマ。クマカレー知ってるクマ? ご飯をクマ状にした後に……」「とりあえず、演習するにゃ。演習してごろごろ寝て起きた頃には、みんなもなあなあ連帯感にゃ。気にしないのにゃ」「わあごめんなさいあのちょっと、ち、千歳お姉早く来てええ」
 ……という出来事があってから、しばらくは、誰も「空母さえ来てくれればなあ」って言うことはなかった。

 現在、千代田は偵察機の扱いをひたすら練習しまくっていて、地平線の向こうから敵艦を高確率で見つけてきてくれる。どんなデータも表に出ることの少ない艦これの中では珍しいことに、偵察機を飛ばし、首尾良く敵艦隊を発見したときには「回避・命中力UP」という文字が表示された。
 このゲームにおいて「避ける」「当てる」は戦闘のすべてと表現しても過言ではない。
 空爆の火力が無くても、彼女の目は強力なエンチャンターになりうるのだ。

 そしてもう一人、1-4の途上で敵を撃破したとき、黒煙の向こうになにかが立っていることに電が気付いた。
「みなさん、何でしょう、あれ」
「……軽巡? いや……」
「お腹をすかせた狼さんに見えるわあ。天龍ちゃんかも」
「龍田かもしんねえな。装甲の足しにしてやる」
「漣、旗艦でしょ。あいさつあいさつ」
「えー!? やだよ私……」
「大丈夫よ本気出せば! 今こそ本気! 本気出すの好きでしょー!」
「こらぁ押すな! 雷って肝心なときに『まかせて私がいるじゃない』って絶対言わないよね!」
「もしもーし? サインですかぁ?」那珂が声を掛けたタイミングで黒煙が晴れ、長身の艦娘が現れた。
 駆逐艦や軽巡とはデザインの線が違う。例えるなら、ミニ丈のシスター服だ。
 暗褐色の長く伸ばした巻き毛が、ここは六月の銀座ですよとでも言うように、戦場の煤けた風に上品に揺らされている。
 彼女はにっこりと微笑んで、こう言った。
「勝利が欲しい?」
 みんな「え?」と、耳を疑った人間が口から漏らす声を上げた。
「勝利が欲しいかって聞いているの」
「………………」
 みんな口を閉ざし、肘で突っつき合った。
 旗艦・漣を押し出したのは、益体もない桜文様に込められた責任感と、肘と、怯えだした電の眼差しだ。
「勝利が欲しいと言いなさい」
「そりゃ、まあ、欲しい。かも……だけど、ごにょごにょ」と、漣が答えた。
「はっきり!」
「勝利が欲しいです! mjd!」
「そう。じゃあ——」
 どこからか漏れ出た輝きが、彼女の双肩に大きく設えられた砲塔を青く光らせた。
「この重巡足柄が、あなたたちに勝利を教えてあげるっ!」
 ばーん! ……と、どこからか鳴り響いた銅鑼の音(錯覚)に、みんなぽかんと口を開けてしまった。

 初めての重巡。
 鎮守府に着くなり「三度のごはんより勝利が好きです。しかし、勝利のためにはごはんを食べるべきよね」と言い放った自己紹介が、彼女のおおまかな人となりを教えてくれるみたいだった。
 重巡とは、その文字面とおり、重武装の艦娘だ。「火力」のステータスは、レベル1にも関わらず、熟練の軽巡である天龍のそれを上回っている。
 期待を込めて試しに出撃させた先で、どうも砲撃が当たってくれない気がするのは……きっとまだ、ごはんをちゃんと食べてないからだろう。たぶん。ゲーム内で艦船のプロフィールが見れる『図鑑』には「飢えた狼みたいって言われた」って書かれてたし……。
「クマカレー知ってるクマ?」
「いいわね。勝利の匂いがするわ。いただきまーす」
 千代田の次にやってきて、千代田と一緒にカレー食べてるこの重巡が、重量級の敵がひしめくエリア2を切り拓く、鍵になるはずだ……と、司令官は考えることにした。
「戦場が、勝利が私を呼んでいるわ! おかわり!」


(つづく)

この千代田&足柄のイラストに「ボックスアートっぽい」って感想を頂いて調べてみたら、“プラモの箱イラスト”のことなのね。ポスターカラーの厚塗りで荒々しく精緻に塗られた、格好いい絵ばっかりで好きなのです。ああいう空や波や地面を描きたい。
7/7 Sun
艦これ日記19 七夕飾りの窓


 建造レシピを見ない縛りで進めてきた自分の艦これであったが、今回は一度だけ、そのルールを破る。
「艦これ描け建造ったー」という、ランダム占い(っぽい)サイトの託宣を受けることにしたのだ。
 自分の提督名を打ち込んで、ボタンを押すと……「辺境は(270/30/350/800)で建造して出てきた艦娘を描きましょう」という表示。
 要は、ランダムな資材配分で仲間になった艦娘をイラストに描けという、ハイエンドでエモーショナルなメイキングシステムなのである。艦これならではの遊び方と言えよう。このシステムを考えた人は賢いと思うし、きっと30秒で思い付きを実装したんだと思う……電脳が弾き出した完璧な資材配分を打ち込み(ちなみにボーキサイト800って相当な数字だ)、ちょっと待つ。
 20分。……この建造時間は駆逐艦で、きっとレアな艦娘ではないってことは、自分は試行の累積の果てにもう知っていた。
 司令室のドアを開けて入ってきたその“新入り”の顔は、やはり見知ったもの。
「アタシ、綾波形駆逐艦『朧』。誰にも負けない…たぶん……」
 というわけで、今回の絵日記では朧(おぼろ)を描こうと思います。
 
 実のところ彼女は、見知ったどころではなく、今の自分にとってはよく知るキャラクターだ。
 漣や曙(ツンすぎるあの駆逐艦だ)の姉妹艦で、顔立ちと声はよく似ている。でも、性格は随分違うみたいで、一言で言うと真面目。二言目を付け加えると、仲間思い。すげーいい子なのだ。
 そして、朧を描写する三言目には「カニ」が出てくる。
 何故カニか、っていうと……彼女の立ち絵のよく目立つ部分には、沢蟹みたいなちっちゃなカニが描かれていて、どうにも目が離せないからだ。
 漣のグラフィックにウサギがくっついているのと比べると(そういやあのウサギはなんのためにいるんだろう?)、このマスコットはちょっと微妙で、だからこそ、なんか印象に残っている。朧はカニとセットで覚えられる運命にあるのだ。
「え。カニですか」
 立ち絵一つでキャラ付けが決まってしまうのが、艦これである。
 それは返せば、艦これのグラフィックには、僅かなバリエーション(服が破れてるか、破れてないか)の中に想像の小宇宙を秘める容量があるということ。ちなみに朧は中大破するとカニに加えて、ヒトデがくっついてくる有様。つまり、海産系艦娘。朧以外には不思議と、魚介類と一緒に描かれる艦娘はいないように思う。海産物では誰にも負けないって意味じゃないだろうか。
「カニとヒトデで? そう……」
 漣だったら二・三言突っ込んでくれるだろうし、曙だったら踵でこちらの膝頭を踏み抜いてくれるのだろうが、朧はうやむやに頷くだけだ。損な性分なんだろうな、と思う。
 そんな朧が艦隊の戦線最前に駆り出される機会は少ないが、現在の練度はレベル18と、決して低くない。
 ここのところ、鎮守府海域に最近出没する敵潜水艦への哨戒任務に走り回っていた彼女は、今日一枚の紙片を持って、司令室にやってきたのだった。
 
 今日は七月七日だ。
 
 ほとんどのネットゲームは、現実世界の季節感をゲーム内にも反映している。
 季節イベント……みたいな名前で呼ばれるやつだ。
 日本のプレイヤーが往来するいろんなファンタジー世界や、学園世界ではきっと今頃、願い事を託した笹の葉がさらさらと揺れているのだろう。
 艦これでも、それに似た仕掛けが用意されていた。
「七夕飾りの窓」。
 プレイヤーが長時間目にするメインメニューに表示されている背景は司令室、つまり「プレイヤーの部屋」で、室内の家具構成はある程度自由に組み替えられるようになっている。
 普段は十分なゲーム内通貨がなければ購入できない家具の中で……今だけは、「七夕飾りの窓」という家具が無料で手に入るみたいだったので、自分はそれを飾ることにした。
 すぐに、単冠湾を見下ろす窓際に、可愛げな笹飾りが表示された。
 色紙を切って組み立てられた、多彩な装飾が揺れている七夕飾りに、小さい頃の体験を連想するプレイヤーはきっと多い。ここにハサミで切れ込みを入れて、こう開くと、こういう飾りになったよな……という、自分の中のこまかい記憶に触れるグラフィックだ(こういう仕事、すごく好きです)。
 この家具の解説文には「七夕の季節がやってきました! 笹の葉に短冊を飾って艦娘達が七夕飾りを手作りしました」と書かれている。
 これだけで、もう、いろいろ想像できてしまうのだ。
 本部からいきなり支給された笹に戸惑う鎮守府と、「飾ろう飾ろう!」「色紙、購買部に売ってたっけ?」「はさみ持ってくるのですっ」と反射的にやる気を出してる奴らと、「なにお願いしようかなぁ」とからかい混じりに笑い合う奴ら。
 どたばたと、七夕飾りはあっという間に紙束の群れでデコレーションされて(笹は簀巻き一包分支給されたので、何人かは私室に持って帰ったみたいだった)、夜中……誰も見てないような時間帯に、人目を避けて短冊を飾りに来るような艦娘も、多分いるのだ。
 人知れず呟かないと、願いはたちまち揮発してしまうと知っている艦娘も、おそらくいる。
 
 なので、今、朧が短冊を持ってきたこの場に、司令官はいない。
 
 なにが好きか、なにが望みか、素直に口にする艦娘は多い。
 キャラが立っているという褒め言葉は、きっとそういうこと。
 一方で、限られた台詞の群れに「仲間想いの、真面目な艦娘」とだけ規定された艦娘の願いは、言葉の隙間に落っこちているだけ。
 朧の願いを自分は想像できなかった。
 戦闘のたびに「絶対に守ります。やらせはしません」と彼女は口癖のように言うけれど。
 ……それは嘘偽りなく、本心から思っているのだろうけど。
 思っていることと願いはたぶん別のものだ。
 自分が想像できないところに落っこちている。
 そういう願いまですべて拾い上げて、さらさらっと鳴る葉っぱにまぎれさせるのが、七夕だ。
 おそらく、彼女の背中を寝床にしてる、カニだけは聞いたんだろう。
 
 自分はこの朧を描くときに表情を迷って何度も描き直したのだけど、なんとなく、笑わせた方が良いな、と思ったのだった。


(つづく)
7/11 Fri

メイドインアビス2」や「平成生まれ2(の1巻目)」などなど、最近2の付くマンガを買うのが自分ブームらしいです。こちらの新刊二冊、面白いので、自分と趣味が合ってそうな方に(どれだけいるかな)おすすめ。いずれもちょっとでかいA5版、本屋さんの平台を探してみよう!
 あ、そうだ、そういえば、「絶体絶命英雄II」という2マンガもあってですね(以下割愛)


 唐突な買った本&宣伝日記になりましたが、メイドインアビスほんとに素敵な冒険物語です。ファンタジーの世界観でワクワクできるってことを、なにより絵の力で教えてもらえました。このワクワクは、ゲーム開始直後に、今のレベルでは絶対に辿り着けないような世界の端っこが、画面に少しだけ映り込んだような、そんな手触り。
 WEBで序盤が読めるみたいなので、夏休み前に試し読みしてみるのもいいかもですね。
7/15 Tue
艦これ日記20 赤い雲を指して


 ……艦娘がダメージを修理する船渠(ドック)は、その日、入渠待ちの艦でごった返していた。
「わたし8分くらいですぐ出るから、先に入れてほしいなあ」「診断書もらったんだけどー、1時間近く掛かるって−、つまり、重傷ってことだよー。待合室でじーっと待ってるのって辛いよー。いたわってよう」「え! 今日のデイリー修復、杏仁プリンなの!? しかも4限とかそれなんて無理ゲ!? 食べたい食べたい! 誰か代わってぇー!」
 なんの騒ぎかというと、辺境艦隊はついに、エリア2の攻略に入ったのだった――それと同時に、主力艦隊がのきなみ返り討ちに遭いつづけ、ここのところつねにドックが満杯になる状態が続いていた。
 ゲーム上の扱いでは、修理ドックに同時に入れられる艦娘は二人だけ。彼女たちの受けたダメージを回復させるためには数分〜二時間ていどの実時間を必要とし(軽傷はものの数分でぴかぴかになるが、大破クラスの損傷や、重巡のような大型艦を直すためには長い時間がかかる)、この修理ルールにより、同一の主力艦を連続して出撃させることを「艦これ」はそれとなく阻んでいる。
 そして、第二次第三次の攻略部隊まで大破で帰ってくると……とてもとても、手狭な鎮守府のドックでは修理が追い付かないのだ。
 
 自分の想像の中では、ドックはひっきりなしに艦娘が立ち寄る「食堂」みたいな場所だ。
 そこで、「一言でいうと、赤色テラツヨスなんですよ」漣が一言で言った(杏仁プリンを食い損ねて、なにを食べるべきか思案している顔で)。
「テラツヨス? 神様の名前なのです?」電が時間を掛けて首を捻ったので、「すっごく強いって意味だったら、雷も同感だわ」テーブルにべったりと顎をくっつけて雷がぼやき返した。
「私達の勝利を阻む、あの赤色……ッ。撃滅するためには、作戦が必要よね! 行く手を覆う暗雲を払い、勝利を曙光の中に見出すために、作戦を! しかるのちに確実なる勝利を!」新入りの重巡・足柄は真っ先にカレーを平らげて、立ち上がって叫びだした。みんなは最近ようやく、彼女のテンションを適度に受け流すことを覚えてきたようだ。
 同じく新入りの水上機母艦・千代田が口を挟んだ。
「赤い奴は、ほんと遠くからでもよく見えるんです。夜明け前とか、日の出の方向を間違えちゃうくらい……あれ、なんなんでしょうね?」
「本部が言ってるとこだと、『elite』だってね。将官ってわけじゃないんだろうけどー。なんかね」漣の言葉に、みんなそれぞれの表情を返した。
 エリート。
 先天の優位を連想するその単語は、それぞれの出自に対して、若干当たりの強い物差しに聞こえただろう。
 
 ゲームは進行度に応じて難しくなるものだ。
 以前自分が1-4で敵空母につまずいたように、エリア2に侵入した自分は「elite」という称号を持つ敵艦船に苦戦していた。
 キャラデザインは、今まで戦ってきた深海棲艦のものと変わらない……だけど、その姿を縁取る赤黒い光のグラフィックは、「これまでにない強敵」を暗示させるのに十分な禍々しさだった。
 艦娘で言うところの「改」か。
 このelite、とにかく、装甲が厚く耐久力が高い(言い換えると防御力とHPが高い)。小柄な駆逐艦ですら、eliteのオーラを纏うと重巡並みのしぶとさを見せた。それは、「夜戦で繰り出せる必殺攻撃ならなんとか撃沈できる」程度だが……夜戦に賭けるということは、昼戦の長期化を意味する。
 長い砲雷撃戦に耐える耐久力は、今の辺境艦隊にもっとも欠けるものだった。
 比較的戦線の短い2-1と2-2は運と勢いで突破できたが、オリョール海と呼ばれる2-3で重巡elite・空母eliteが出現するに至って、これまでの力押しが通じなくなっていた。
 
 これからどうするべきか……。
 エリア2の前衛を撃破すると、確率は低いが、重巡が仲間になるようだった。
「こないだ、千歳お姉もようやく来てくれましたしねっ」千代田が笑った。
「これからきっと、空母も重巡も集まりますよ……ひょっとしたら戦艦だって! そういう子達が近くに来たら、私、見逃しませんから」
 そうなのだ。辺境艦隊の陣容は今、少しだけ変わり始めていた。
 自分は少し考える。
 攻撃力と耐久力を兼ね備えた新入りの重巡たちを育てて、エリア2を攻略すべきか?
 ……それとも、あの1-4を突破して、レベルが二回り先鋭している駆逐艦・軽巡たちで押し切ってみるのか。
「それやったら徹底的にやられまくって、今ドックがぱんぱんなんですけどね、ご主人様……」
 むう。
 黒煙を噴き上げ、耐久力のゲージを赤くして、疲弊している艦娘達のアイコンがずらずら並んでいるところを見ると、愛着だけでごり押しするのも良くないかもしれない、という思いが持ち上がってくる(文句ありそうに見えてくるのだ)。
 
 なので今は「準備を整える」ゲームをする時期だな、と自分は判断した。
 いい装備を作る。新入りを育てる。主力のレベルを上げる。新たな「遠征」コマンドを試す。なんならステキな家具を揃える。……などなど。
 入渠のコマンドもゲームの一環と考えれば、艦これは、強くなるための遊び方が無限に用意されている。
 しばらく満員のドックをぐるぐる回転させながら、まったり足場を整えていくとしよう。
「そうよ、その覚悟よ」足柄が上品な微笑みに一瞬だけ犬歯を光らせた。「すべての準備が勝利に通じるんだからッ!」
 その叫びをドックにいる全員がちゃんと聞いていて、まあね、と頷き返すのだった。
 
 そうそう、課金すれば修理ドックの数を二倍に拡張できるそうなんだけど、これずいぶん楽になるだろうなあ?
「お、いいですね、やりましょうよご主人様! 杏仁プリンも8限に拡張されるかもですよ!」
 どうしようかなあ……自分は違う意味でもちょっと、考えてしまう。


(つづく)
7/19 Sat
 夏休みまであと一週間だ(秋田県時間)!!

 夏がレジャー溢れる休みの時代だと定義できるのはたった一つ、そう、「夏休み」しかありません。他人から夏休みを与えられない俺達大人のフリーランサーは、ハートに夏を燃やして無理矢理「今日は休みにする!」と叫ばなければなりません。自由にはそういう、ある種の不自由さが内包されている。しかし、希望のためには大人は率先して遊ぶ使命がきっとあるのだ。みんなも遊ぼう。
 遊びとはたとえば、誰にも強制されることなく同人誌を企画して作ったり、昔ながらの技術でウェブサイトを作ったり、フラクタル生成ソフトで宇宙っぽいノイズを作ったりすることでもある。子供の頃には内外の制約だらけでまともにエンジョイできなかった「自由研究」が、大人になった今なら、遊びの名の元に好き放題打ち込むことができる。いまや、あの忌々しい資金制約はほとんどないのだ。
 その代わり、時間制約はやたらきっついのができたが……制約と命名したものは、むりやりなんとかするのが大人の知恵さ。

 そんなわけで自分は今、長い遊びに身を投じています。艦これ日記はいったんの終盤を迎えており、予定ではあと3回……秋田時間で学期末に臨む皆さんも、一足先に夏休みに突入した東北以西の皆さんも、本連載のフィナーレと次の展望をおたのしみに。夏は始まったばかりだ。

space kanmusu.


7/21 Mon
艦これ日記21 第七駆逐隊


 突然だが、このプレイ日記も、終盤に差し掛かってきた。
 なぜかというと、この日記を同人誌にまとめるためだ(最初に予定してたのです)。同人誌には〆切があり、全ての事情はブラックホールに引き寄せられるがごとく、〆切の名の元に優先順位を組み替えられる。終盤へのスイッチに必要な情緒や速度など、〆切は知ったこっちゃないのだ。同人って無慈悲だよね……余談だがこのゲーム、信じられないことに「同人机」という家具アイテムが存在してて、それを設置するとゲーム中も同人作業気分が抜けずに済むシステムを備えている。どんなゲームなんだこれ。
「ご主人様ー、〆切〆切同人同人ってごまかして、はんぱ日記になってない? 2-3は?」
 ……そこまでは進めようと思ってる、さすがに。
 自分がこの海域を行ったり来たりしているあいだに、世間の話題は「夏休み」に突入していた。ようやくまともな執務机が入った司令室の窓からは、日影の涼風と、早鳴きのセミが聞こえてくる。
 いつの間にか……本当にいつの間にかだ、自分が艦これを始めてから、二ヶ月が経っていた。
 短くないこの期間に書き残したり描き残したりしたお題はいくつかあるんだけど、今日は第七駆逐隊最後の一人、潮を描こうと思う。
「二ヶ月たっても、結局、レア艦とか戦艦とかは描かずじまいでしたねー」
 秘書艦が苦笑して、「まぁ、あの子なら、ちょっと感謝かも。ちょっとね」と言った。
 ここで自分が潮を描くのは……漣が司令官に、私と曙と朧描いといてまさか潮を描き残すとかないですよねぇご主人様?……とかなんとか、言ったのだろう。

 潮は漣の姉妹艦だ。以前描いた曙と朧と同じく、四人そろって「第七駆逐隊」と呼ばれているらしい(このことはゲームではなく、pixivのタグやtwitterのコメントで教えてもらった)。
 不真面目だったり真面目だったり激烈なツンだったりする姉妹艦と比べて、潮はどうも腰が引けがちな性格みたい。
 会敵時に「て、敵艦を、発見しちゃいました!」と言うところから、夜戦にもつれ込むときに「できれば離脱してくださぁいっ」と叫んだりするところまで……そんな台詞の端々を拾うまでもなく、猫背気味な立ち姿がもう、軍艦っぽくないのだ。
 艦これには、軍艦っぽくない艦娘もそれなりにいるんだけど、手持ちの砲塔をピンクに塗ってるのはたぶん潮だけだ。
 初対面の時にそう感想を言ったところ、「へっ!? ぴ、ピンクですか?」と彼女はえらい動転したものだった。
「あんまりピンクじゃないんじゃっこれその規定、規定通りです! 規定のペンキで塗りました」潮本人はそう言うが、装備ベルトやら魚雷発射管をぺたぺたデコってるシール群は誰もごまかせず、燦然と可愛さを振りまいていた。
「シールは……。まあその……好きでごにょ……」
 軍艦っぽくない艦娘というか、田舎の中学生っぽい艦娘。それが、潮を語る言葉のすべてだった。
 出撃する回数の少なかった頃は、そうだったのだ。

 前線で主力艦隊が戦っている一方で、エリア1に「鎮守府近海−対潜哨戒」という追加作戦が発動された。出現する敵はこれまでとは様相を変えた、「潜水艦」。伊8の運用で、自分はその特性を少し知っていた。潜水艦を撃破できる投下爆雷は、駆逐艦と軽巡だけが持っている。
 相手は与しやすい少数、そのわりに獲得できる経験値が多かったということもあり、練度の低い軽量艦達の実戦経験を積ませるにはぴったりの作戦だと自分は判断した。
 自分はその、いわば「稼ぎ場」で、本格的に曙・朧・潮の「漣の姉妹艦」を出撃させることにしたのだ。
 艦娘の性格は、一度の出撃だけでは記号的なものしか知れない。というか「ゲームのユニット」とは、どんなゲームでもきっと、そんな不思議な働きをする。
 繰り返す出撃の中で、定型文の隙間に見える不定形の人格。ボイスによって点線のように紡がれる個性は有機的で、ゲームプレイヤーが愛着をもって語るキャラクターには、かならずそういう生きた魂が宿っていると、自分は信じる。
 唐突に出会った敵艦隊に、潮があわててぽいぽいと投下した爆雷が、標的をまともに捉えて撃破したことがあった。
 MVP(戦闘中最大ダメージを叩きだした艦娘が選ばれる)な彼女は口を小さく開けて、言葉もなくしばらく呆然として、
「わたしでもお役に立てたのでしょうか」と呟いた。
「うん。潮、すごい」「やるじゃない。たいしたものだわ」その時、同じくらいひよっこだった朧、曙の言葉は優しかった。
 潮はすぐに身震いして、目を回して耳まで真っ赤になって、
「み、みんな見ないで、恥ずかしいよー!」とじたばたして、周りの全員、にやにやしながらそれを見守っていたのだ。
 誰一人馬鹿にはしてない、と思う。潮の僚艦は、魚雷の航跡に日が没した後、潮が真っ先に前線に飛び出して「仲間を傷付けるのはダメです!」と叫んだことを知っている。

 鎮守府近海にはいまだに深海棲艦の影が報告されていたが、駆逐艦達の哨戒は明確に効いていた。でなければ今、司令室の窓からセミの声が聞こえたりはしていないだろう。
 この日、哨戒任務から帰港した曙、朧、潮の三人が、揃ってレベル20に到達した。すなわち「改」付きに昇格するための練度。
「改! みんな改になるの!? ひゃっほーい!」一足先に改になってた漣が飛び込んできて三人を上下に激しく握手して「おめでとゥ! おめでとゥー! みんなやる子だって漣信じてたわマジで! ほんとマジで! ワクテカワクテカ」とばんばん背中を叩いたとたん「やかましいっ」と曙に居反りを食らって沈黙した。
 言うまでもなく……司令官を見返す三人の目は一致して、さらに先に進むことを決意している。
 三人同時にこのレベルに到達したのは、自分が彼女たちをレベル上げの場に揃って出撃させていたから。考えようによっては、すごく味気ない足し算の結果によるものだ。
 でもほんの少し、運命じみたものを、自分は三つ横並びのステータスから感じた。

 第七駆逐隊。
 おそらく同じイラストレーターと、おそらく同じ声優が与えた、どこか似た魂を持つ四人のキャラクター。
 駆逐艦という最軽量の艦種は、「改」と呼ばれようとも、このゲームの全ての海域で活躍することを約束されていない。
 いないけど……。

 三人同時に「改」の紋章をくっつける行程は、えらいさわがしいものだった。
「アタシは改造とか、必要ないと思うんだけどな……」
 ひたむきな眼差しで何言ってんだ、朧。ここにきて控えめすぎだろ。
 曙はやる気あるよな?
「か、改造とか言って、わたしの裸が見たいだけなんでしょ! このクソ提督!」
 漣! 今すぐこいつを工廠に連れてけ!
 で、潮は……
 潮は静かに、居住まいの悪さと恥ずかしさを混ぜたようないつもの表情で、ピンク色の連装砲をぐるぐるいじって、だいぶしてから顔を上げた。
「すこし、自分に自信が持てるようになると良いなって、思います」
 このボイスは、実は「装備を変えるとき」に発せられる汎用的な音声なのだけど。
 自分はなんだか、この時、息を飲んでしまった。
 はにかんだ声音で絞り出された、誰よりも率直な、決意表明だった。
 周りの全員が虚を突かれて、にやにやしてしまって、この艦娘はまた真っ赤になったりしたのだろう。

 第七駆逐隊は、かくして全員が「改」の一線を越えた。


(つづく)
7/26 Sat
艦これ日記22 数え切れない鍵と


「東部オリョール海」という耳慣れない語感のステージ2-3(艦これのステージ命名は史実に関連しているらしい)に、この日も挑んだのだが……初戦で足柄・龍田が大破し、あっという間に鎮守府に逃げ帰ることになってしまった。
 深部にまで進行した後の大敗だと物理的にも心理的にも消耗しきってしまい、今日はもう修理だけ命じて自分も寝よう……となるんだけど、あまりにも序盤で負けてしまったとき、ゲームプレイヤーは自然に「くそう。もう一回」という気持ちになるものだ。それはどんなゲームでも違わない……違わないよね?
 そんなわけで自分はあまりにも軽く、再出撃を決めた。
 今にして思うと、大破した二人が、司令官と第壱艦隊の背中を押してくれたのかもしれない。
「勝利を……! 私の代わりに勝利を……! うーんうーん」
「わかりましたから、足柄さん、少し寝ていてください」
「ごめんねえ。天龍ちゃん、お願いね〜♥」
「言われるまでもねえや」愛想良く上げられた龍田の右手を、すれ違いざまに、皮グローブの拳がぱしんと叩いた。
 二人を引き継いだのは、天龍と、最近艦隊に加入した重巡・鳥海。
 旗艦は天龍、Lv32。彼女は漣に次いで、艦隊の中で最も練度の高い艦に成長していた。

 elite付きの固い艦が揃った初戦を、無傷で撃破する。
「艦これ」の攻略とは、「連戦のダメージを抑えて最奥のボスに到達できるかどうかをひたすら見る」行為だ。出撃のボタンを押した後、性能数値と乱数の組み合わせだけで進退が決まるこのゲームに、誰かの意思や、プレイヤーの力量が介入する余地はない。瞬間の判断と指先の技で切り抜けられるステージは、艦これには存在しない。
 艦これは、サーバ上の演算をブラウザで見るだけのゲームだ。
 ……だけど。
 この時感じた「なんかこいつら、調子良いぞ」という直感がはかない幻だと、自分はとても言えないし、言う必要なんてひとつもない。
 羅針盤は海域の中央を指した。エリアボス。
 このスムーズさにも、自分はなにかささやかな運命っぽいものを感じてしまう。

 波が荒れ始めていた。
「行きますよ」「頼むね。行っちゃって」短いやり取り。
 千代田が右手をばっと突き出す。交差した手板から光の線が一瞬煌めき、その突端から偵察機(それは手のひら大の水上機で、「妖精さん」と呼ばれる小さいキャラクターがしがみついている)が飛び立った。
 ロケット花火のような甲高い風音と速度で、偵察機は水平線の方向へ消え、
「――敵艦隊発見。攻撃隊、発艦開始よ!」千代田が左手を振り抜いた。
 カタパルトを装備していた頃の直線的な動きではない。身体が描く円弧の全てが艦載機の始点となり、放たれた航空機の陣容は以前の彼女よりもはるかに厚い。
 艦名「千代田・航」。水上機母艦だった彼女は軽空母まで成長し、かつて自分が1-4で苦労させられた「先制航空攻撃」を繰り出せるようになっていた。ほどなくして、波の重なりを一瞬かき消す轟音が、ずんと響く。
「手応えありっ。たぶん雷巡二隻、仕留めました。みんな、あと頼みます!」
「上出来だ! 行くぜ、全速前進ッ!」抜刀した天龍に、
「おー!」「頑張りますっ」「本番ですね☆」「大丈夫、計算だと勝てます!」
 漣、電、那珂、鳥海の四人が元気よく返事した。
 敵は四隻。戦艦、空母ヲ級、重巡eliteが入った圧倒的な耐久力を持つ艦隊。
 こちらの重巡鳥海の練度は浅く、千代田も「軽空母」という攻撃特化になりきれない艦種だ。
 自分の編成で、落とせるか?
 見守るしかない自分は、どうしても戦闘開始前、固唾を呑んでしまう。
 画面に表示された文字は「同航戦」、各艦2回ずつの攻撃で構成される、長い昼戦だ。敵の重い攻撃を8撃も耐えきらねば、天龍や漣達の夜戦攻撃力が発揮できない!
 保ってくれ……!
 爆音が一つ、「ひゃあ! 恥ずかしいよぉ!」敵戦艦主砲をまともに食らい、電が中破!
「ったい……っ、痛いって言ってるじゃんっ!」那珂が初めて聞く悲鳴を上げた。小破した衝撃で敵航空機の射線を避けきれず、中破!
 味方艦が破損していく中――大破の直前で堪えてる――火線をかいくぐり、カウンターで敵を落としていく第壱艦隊。
「っくそっ! 当たらない! もうっ……!」悪態がほとんど悲鳴に変わり始めた未熟な重巡に、「大丈夫問題ない! 大体あたんないもんだから! あと電もむかれるの慣れてるから! 本人絶対好きで言ってるから! 風物詩だから! あ、でも、条例とか気を付けようねマジで」漣が声を掛けた(爆音に混じって「好きじゃないのです!」と抗議が聞こえた)

 砲撃戦の最後に、発射管が生きている天龍、漣、鳥海から魚雷が一斉掃射される。
 千代田が初手で雷巡を撃沈できたのがはっきりと効いた。敵からの魚雷はない!
 着弾・爆風に一瞬遅れて表示されるダメージの数字(この表示タイミングの演出は狙ったものだと思う。どきどきしてすごくいい)は赤い小字だけではなく、金色の大文字が混じっている。
 この色こそが、有効打を直接示すサイン。
 魚雷は敵軽巡と、赤色の重巡eliteを確実に仕留めていた。
「ktkr!」漣が奇妙な叫びを上げる(よっしゃ、の意味だが、みんなはこれを聞くとちょっとびくってする)。
 長い長い昼戦にくらべると、夜戦はとてもあっけなかった。
 耐久力85を残していたほぼ無傷の旗艦戦艦に対し、天龍が291ダメージ(!)を叩きだし、続く那珂が三連撃の必殺攻撃で「ありがとーっ!」と副艦ヲ級を撃沈(ヲ級に対して謎の強さを発揮する那珂だ。怒ってたんだと思う)。
 輝いた文字は「S」……勝った! 2-3突破だ!
 ちょっと脳天気な、S勝利のファンファーレが、死闘の後だとどうしてこんなに心にしっくりはまるのか、ちょっとわからない。
 そして「ったりめーだろ」ぱちんと納刀したままえらそうにふんぞり返って、
「俺が一番、強いんだからよ!」天龍がにやりと言い放った。
 聞き慣れたMVPコメントだって、大決戦の後に聞けば、その響きは全然ちがう。
 そうか、そうだな、お前が一番強いわ、と、自分は思わず笑ってしまった。

 肝心な戦闘部分は、数字と乱数の演算だけで進退が決まり、プレイヤーは一切の介入が許されないゲーム。
 自分にとって始めたばかりの「艦これ」はそんなゲームだったし、実のところ今だって、そんなに認識は変わっていない……
(ねえ、ご主人様。ものごとって、なんだってそうだし、なんだってそうじゃないでしょ?)
 そういうことだ。
 ゲームを織りなす数字の一つが艦娘というキャラクターであり、個々が積み上げてきた経験と心であり。
 ゲームを動かす乱数の一つが波の高さであり、風のベクトルであり、天運としか言いようのない世界の気まぐれであり。
 自動で進む戦闘とは、艦娘たちにすべてが委ねられているということ。
 想像さえすれば。
「艦これ」という簡素極まりないゲームには、ゲームを楽しむための数え切れない鍵が用意されていて、自分はまだきっと、それをすべて集め切れていない。
 むりやり結論めいたものをここに残してしまうならば……そのへんがきっと、このゲームに「収集」を題した意味なのだろうと思う。

 次に開放されたエリアは、「2-4 南西諸島海域」。twitterで勝利報告したとたん漣が悲鳴を上げた。「電報局から『次はすげー難関だからがんばれ』っていうマジレスで部屋が! 埋まるコレご主人様! えらいこっちゃですよ!」
 艦これは、まだ始まったばかりだ。


(次回、最終回です)
7/28 Mon

 ここんとこIllustratorとダンスってます。艦これプレイ日記最終回がまだだってのに、しめきりちかい!


 DICカラーガイドかってしまった……。プロセスカラーガイドを「これさえありゃいいよね」と10年間使い続けてきた末の大決断です(じっさい年数回同人誌作る程度なら、プロセスカラーガイドだけでもほとんど困らない)。でっかい買い物なので、これからの人生で使いこなさなければ、紙と印刷の妖精に呪われてしまうだろう。
7/29 Tue かみふぶきPhotoshopブラシ

 以前仕事で「ななめドットを打ちまくる」ブラシを作ってたのですが、思い付きでパラメータをいじったら紙吹雪状のブラシになってくれたので、ここに配布してみようと思います(商用フリー、クレジット記載や報告義務なし)。
 Photoshopのブラシ設定は多岐に渡って難解なんだけど、おもちゃをいじるみたいにあれこれパラメータをいじりながら塗ってみると、なんとなく感覚が掴めてきます。他のお絵かきソフトとは性質が異なる強力な機能なので、基本的なとこを理解するだけでもけっこう面白くなるよー。
 DLしたブラシの導入方法は、googleで検索すれば五秒でわかるにちがいない!

7/31 Thu
艦これ日記23 漣と観艦式


 さて、これがいったんの最終回だ。自分が見聞きした艦これ世界は全体のほんの切れ端に過ぎなくて、書き足りないものや描いていないものは無限にある。例えば最近二人目の潜水艦が(これも偶然)やってきたり、2-4に挑んでみたらまったく歯が立たなかったり、正規空母を名乗る艦娘がやってきたけどまだ実戦には連れ出していないこととか、この日記を通じてたくさんの反応をもらって、それを通じて考えたこととか……
 タイミングが許せば、いつか二冊目の紙幅に恵まれるかもしれない。これらのお題はちょっとしたお楽しみに取っておこう。
 
 だけど、一つだけ……今書いておくべきことが残っていた、と思いつく。
 漣のことだ。
 右も左もわからない自分が艦これ世界に放り込まれ、チュートリアルに挑んだときから司令室にいた、最初の艦娘。
 ゲーム上ではこのキャラクターに「一番目のユニット」以上の意味はなかったけれど、自分は「最初の艦娘を相棒にしてゲームを進めてみよう」と、あらかじめ決めていた。
 自分はいろんなゲームでそういう遊び方をするみたいで、たとえば、ラスボスに挑むパーティーには必ず「幼なじみ」とか「序盤に仲間になった頼れる先輩」を加えていたし、最初の武器がカスタムできるゲームだったら鍛え抜いたそれを携えたし、最初に覚えたスキルでここ一番の難関を突破したかったし、後から出てきた「それまでの努力とかなんじゃったんじゃい!」って言いたくなる超絶なパワーに飛びつくのはなんか負けだよなって思っていたのだ(ただ、後から出てきたものが主人公とプレイヤーのこれまでの蓄積に報いるような文脈を持ってくれてたら、たぶん喜んで使う)。
 感傷に拘泥せずに最善手を追求するのがゲーマーだと自分は思うんだけど、「ロマンでゲームしたっていいじゃん、遊びなんだから!」ってこともいつも考えてしまう。それってネットが傍らにあるゲームに限らなくて、ありとあらゆる……
 話が盛大に逸れた。
 以来、たまに旗艦を外れることはあっても、大抵のステージ攻略に漣は参加していたし、最初に「改」に到達したのも、いま艦隊で唯一のLv40台に達しているのも、この駆逐艦だ。
 

グレート弩ライジン=ザ=漣改三=ビヨンド(5/24のネタ)


 彼女は実のところ、艦隊の中でもっともつかみどころのないキャラクターでもあった。
 奇行に及んだり奇声も発したりするのに、セリフ群から連想するのは「根は真面目」という一言になってしまったりする。
 およそだいたいのゲームで「ピンク髪」を持つキャラクターは、突拍子もない人格が宿っているものだけど、その裡に何を秘めているのかが、それぞれの替えのきかない個性となるのだ――ピンク髪を侮ってはいけない。真面目な口調で自分は何を言っているのかというと、自分けっこうピンク髪のキャラが好きなことが多いです。
 漣のせりふはつかみどころがない。
 何が好きなのか、何が嫌いなのか、何にこだわっているのか、何のためなのか、何を見ているのか、自分はどこか汲み取りきれずにいる。
「ご主人様?」
 司令官をこう呼ぶ理由は、全く示されない。
「あ〜、今回も、やられてしまいましたが〜…………え、それは違うの?」
 大破入渠時にぼやっとした視線で言ってくる理由も、察しきれない。
 たった一人で鎮守府にいたとき、漣はなにを思っていたのだろう? と、想像もおぼつかないことをたまに考えてしまう。
 ここまで曖昧な艦娘は結局、他に現れることはなかった。
 複雑とも、深いともちょっとちがう、曖昧なキャラクター。
 
 だけど……と自分は思う。
 このプレイ日記は、この秘書艦の目を介さなければ書けなかったのだ。
 一番最初に違う駆逐艦を選んでいたら、艦これは違う見え方をしていたのだろうと思う。自分が漣を選んだのは全くの直感だった。ただ単にピンク髪キャラが好きだったからかもしれないし……キャラ紹介文に「ちょっと変わり者の艦娘」と書かれていたのが引っかかったからかもしれない。
 プレイヤーが最初に出会う「世界」とは往々にして、オープニングの仰々しいモノローグでもなく……壮大な背景でもなく……道端で出会った最初のキャラクターが呟いた素っ気ない一言だったりする。
 自分にとっての世界のきっかけが漣だった、ということ。
 ゲームを始めるまでの(今となってはあまりにも一瞬の)時間、記憶で島風を描いたりしながら、本当の艦娘を見てようやく自分は「艦これ」を始めるんだろうな、という予感。
 まずはこの「一人目」がどんなキャラクターか、ちょっと突っ込んで想像してみようと、手探りで書き始めた日記……二次創作小説のようなもの。漣本人の目に戦場はどう映ったか、と想像して漫画も描いたりした。
(きっとどの艦娘を選んでも、自分は最終的に同じことを思ったんだろうけど)有利と不利が関わらない選択において、直感は、つねにプレイヤーに微笑む。それがわかったのは最近のことだ。
 中央にいる漣が、曖昧だからこそ。
 彼女を軸にして捉えた世界が、さまざまな感情の色を帯びて動いているのを自分は見ることができた。
 絶え間ない季節の風に揺れる水面のように。

 日記なのか、あとがきなのか、キャラ萌えなのか、ちっともわからない文章になってしまった。
 そろそろ、このとりとめのない連載にオチを付けるとしよう。
 司令室の壁には通信網が設置されている。「秘書室」に回線を切り替え、自分は発話機を取った。
『はいご主人様、単行本を8割読んだとこの漣です。今コズミックの師匠が大変なんです。10割読むまで待ってて……』
 10割読んだ途端に次の巻に進みそうな声だったので、とっとと来い、と司令官は命じた。



8/1 Fri

 おっぱいの日だそうですよ。巨乳がよく描けん、とか言ってる場合じゃない!

 連載中もそうだったんだけど、艦これ日記にたくさんの感想、ありがとうございます。同じく漣を秘書艦にしている方がいたり、初心者だった頃を思い出してもらえたり、一方的に自分が知ってた方からも不意に声を掛けて頂いて内心すごくそわそわしたり、この日記がきっかけで艦これを始めたというメッセージも頂いたり……本当に、いろんなレスポンスが力になるのを感じました。二次創作楽しい。
 これをまた一次創作にも還元したいと、思います。いろいろ描くよー。

 艦これプレイ絵日記まとめ本「METHOD of the SEA」は現在制作中で、無事入稿を果たしてから詳細をお知らせする予定でおります。あと一枚……あと一枚描くだけなんだ……おっぱい描いてる場合じゃないのだ。描いてる場合じゃないのだが、明日はぱんつの日らしい……。
8/2 Sat

 ぱんつの日だそうですよ。ここ三年くらいこの日は毎年ぱんつ描いてる気がする。
 今野隼史はぱんつ方面のお仕事もどんとこいだぞ、と世間にアピールしているのだけど、なかなかそういうお話は来ません(笑)。一枚描いてはやりきった感出してるせいだ。精進しようー。

 同人誌入稿できて一安心。実はこの作業中に新しいPCが来て、イラストレーション協会経由で液晶タブレット貸出を申し込んでいたのでした。無理矢理にでも環境移行するタイミングは、きっと今だ。
8/4 Mon

 同人誌はどうやって入稿されるのか、作ってみないとイメージできないことオブジイヤーかと思います。8年くらい前は入稿データをMOに保存して、物理プリントアウトを同梱して、物理的に印刷所に送って入稿されたのだけど、今はネットで全てが完結できる時代(入稿データが1GB以内に収まればWEBアップロードで事が済んでしまう)。
 商業印刷だと今でもやっぱり丁寧に時間を掛けたやり取りが必要なんだけど、個人印刷のレベルではほんと、技術で敷居が下がった(原稿作成以外の手間が劇的に軽くなった)素敵な時代になったと思います。これまで「めんどくささ」が闇に葬った脳内企画って、無限にあったからね。

 さて今回、自分はグラフィック社で本を作りました(「同人誌印刷所」と比べると製本の選択肢が少ないけど、本文フルカラー印刷が現実的な値段で作れて、本文用紙の種類が潤沢。相談すれば表紙箔押しもできた)。

[夏休み自由研究にもできかねない! 同人誌作りのひみつ]

1・本の仕様を考える(印刷所のマニュアルを読んだり紙見本を請求したりする)
2・原稿を作りはじめる
3・がんばって原稿を作る
4・トラブルが起こってもとにかく原稿を作る
5・激しく原稿を作る――その速度は日に日に増していき
6・最終的には亜光速で原稿を仕上げる(どりゃー!)
7・本の仕様と納期を選んでカートに入れて「発注」
8・データをまとめて(まとめだけで一日潰れるので、原稿と平行してやっとくのがいい)、会員ページ内にできた入稿窓口から「入稿」
9・と同時にメールで案内された入金先に「入金」。原則前金制です
10・印刷所がデータチェックして、内容に問題がなければ印刷開始


 そんなわけで今日、データチェックが通ったのでした! ようやく完全に肩の荷が下りた−。あとはしばらく待てば、完成した本が無数の段ボールに詰まってどかどか自宅に届くという寸法です。部屋をかたつけなきゃ……コミケにさえ受かってたら、会場まで送ってもらえたんだけどなあ……。

 新刊の艦これプレイ絵日記「METHOD of the SEA」は8/17、コミケ三日目と同時に、同人ショップでの委託販売が始まります(予定)。9/14日の艦これオンリーイベントに出展申し込みしているので、うまく当確できればこの日初めてイベント頒布されることになるでしょう。もろもろの情報が確定するまでちょっと掛かるので、コミケが近付いた頃にまたサイトで確認してやってください。

 そして、次の新刊を作るために、自分はもう一度グラフィックの料金表を眺める作業に戻るのだ(1にもどる)
8/7 Thu

 8/31のコミティアのためにお絵描き開始。この小規模な新刊のテーマは……たぶんかたるにもおよばない。持ってる人は持ってる、当サークル唯一の「18」付きの問題作「シンメトリカルゲイザー」寄りの企画なのです。


 自分が所属している日本イラストレーション協会のサービスの一環で、WACOMの液晶タブレットを借りることができました(自分がここに所属しているのは文芸美術国民健康保険という保険に加入するためでもあります。通常の国保に比べて有利な点が多く、全てのフリーイラストレーターさんにおすすめ)。
 レンタル期間は二週間。これでとりあえず新刊のイラストとか、諸々の仕事を爆速で仕留めてくれる! と思ったのだけど、なんとまあ、現行のPCでは使えないことが明らかに。まぬけ!!(いやだってさ、グラフィックボードにHDMI端子付いてると思うじゃん、普通、ごにょごにょ……)
 先日届いてかたわらに置きっぱなしにしている新PCだったら使えるので、これは……めんどくさがってないでとっとと環境移行しやがれという、世界の意思にちがいない。めんどくさいが仕方がない。世界の意思だもんね。
8/9 Sat

 トマトカレーが似合う季節です。来週にはもう夏コミかー。サークルとしては落選したけど、次回の申込用紙をゲットするべく一般参加してくるつもり。

 左側の情報をちょっとだけ整理しました。ウェブサイト運営って趣味的だな、と思います。手が掛かるし、忙しさに放置すると途端に埃が溜まってくるし、整理しただけでなんか気分が良かったり。手が掛かるけど、自分以外の事情でなにかが変わることは決してないのがとても素敵です。あと40年くらいはサイト続けて、2000年初頭のデジタルデータに年月の艶を付けたいものですね。
8/11 Mon

 いよいよ使い続けると世間体的にも危なそうなxpマシンを脱却して、windows7へとグレードアップした我がPC環境です。環境移行のめんどくささを恐れ、届いたPCを二週間近く置きっぱなしにしていたことを今ここに白状します。いかん! めんどくささで新しさを避け始めるのがまさに精神の老化なので、俺は――そう俺は、時にあらがってみせるぜ!(日曜朝っぽい語尾)
 ずっと埃を被ってたCS5、たのんだぜ! お前の64bit対応がハッタリじゃないってことを、みんなに見せてやるんだ! でもなんでTWAIN対応しなくなっちゃったんだ! いいさ、俺にはCS2って相棒がいるんだ!(時の流れに流されている)
 レンタル中の液晶タブレットもなんとなく仕組みがわかってきたぜ! 線がずばずば速く(直感的な線を「ふつうに」直感の速さで)引けるぜ! あと評判通り、夏場は地味に熱いぜ!
 Cintiq13HD、液タブの中でも比較的小柄なモデルなんですが、結婚祝いに買ってもらったintuos4も末永く併用したいし、机の広さは有限なので、今の自分にはこのサイズがちょうどよさそう。二週間の試用期間でこの未来デバイスが手に馴染んだと思ったら、買うんだぜ。


 奥様がときおりすこぶる美味しいケーキを焼いてくれる。このために働いてると言ってもいい、そういう仕事人生にしたいと思います。液タブが絵を描いてくれるわけではないけど、もうちょっと正確に、もうちょっと速く、仕事ができるようになりたいな−。
8/14 Thu
 XP時代に慣れ親しんだ数々のソフトがたいていwin7でも使えるようで、PC環境の使い勝手が急速に手に馴染んできています。右下の時計に「曜日」を表示してくれるTclockや、ファイル閲覧ソフトVixなどなど……。ただ、Windows標準搭載のエクスプローラーも使い勝手が地味に向上していて(左にお気に入りフォルダを登録できたり、アドレスをツリー状に遡ることができる)、案外、新しいWindowsは快適になったかも。
 シャットダウンやスリープがえらい不安定になってるのが心配だけど……理由がわからず不調になったものは、理由がわからないまま快癒したりすることもあるので、ちょっと様子見。


 新刊「METHOD of the SEA」が発送されたと聞いて「7箱くらい来るよなあ」と思ってたら、なんと10箱届きました。玄関が、まるで崩落を起こしたRPGのトンネルのように、物理的に埋まってしまった……。


 新刊は嵩高紙モンテシオン81.5kgを使ったおかげで手触りがよく、軽くて厚く(そのせいで10箱もの体積になったのだ)、なんだか同人誌っぽくない質感の冊子になってくれました。今回超頑張って、紙面2/3に及ぶでかい箔押しを加えてます。データで予想するよりはるかにインパクトでかくなって、うれしい!
 グラフィックでも特色印刷や箔押しを使った冊子を作れるみたいなので、この印刷所を使ってる同輩の方は、事前に相談してみる価値ありますよ。
 初めての二次創作本で、作るべき部数は全く読めなかったのだけど(ショップから普段より多めの発注を受けたのは、「艦これジャンルの大きさ」の一言に尽きると思う)、プレイヤーの方/まだ遊んでない方すべてに届くような内容にしたつもりです。我が家の段ボールを切り崩し心穏やかな家庭生活を取り戻すためにも、どうか手に取ってあげてね。まずは8/17、コミケ三日目と同時に、この本は各同人ショップで扱われる予定です。コミケには落選したんだけどね!(いまだに悔しい)
8/17 Sun [Gallery:異世界の扉]

 サークルとしては落選してしまったけど、この日の夏コミに一般参加してきたのでした。お昼過ぎに到着するようにのんびり移動。


 忘れかけてたけど、コミケにはすげー人集まってるのだ。
(新マシンではPhotoshop「レンズぼかし」フィルタがさくさく動作してくれてうれしい)
 移動すら困難な状態で、道行く人がなにを頼りにサークルに辿り着いてるのか、この目線で追体験できて良かったと思う。ポスターに頒布物のジャンル(「小説本」「○○のイラスト本」)を短く書くだけでも全然違うな、と思った。じっさい、絵が上手いだけでは目に止まりづらいというかんじです。


 いろんな方に挨拶したり、何故かSuicaで同人誌を買ってしまったり(このイベントでレシートを受け取ることがあるなんて思ってなかった)。楽しかったー。暑さも去年の地獄に比べれば多少はしのぎやすかったし、ラッキーだったと思います。


 冬コミではまたサークル側として出展しよう。予言めいた年末の予定をサークルカットに描き込み、冬コミの申し込みを完了させてきました。年末に向けた戦いはもう始まっている。

ネットの片隅に残すためのメモ[win7]
マルチディスプレイ環境時、win+shift+矢印キーでウインドゥを移動できなくなったときは→「コントロール パネル\すべてのコントロール パネル項目\コンピューターの簡単操作センター\マウスを使いやすくします」→「ウインドゥが画面の端に移動されたとき自動的に整列されないようにします」チェックを切る
8/28 Thu
[コミティア新刊 “TABEMONOPOOL morning”告知]

 WACOMから液タブを借りて以降、もっぱらスク水を描いていたのでした。企画を走らせてから数ヶ月、もはやスク水の意味すらゲシュタルトの海に溶けて消えそうになったとき、冒険者の前に原稿が揃い、新刊の姿がたちあらわれた!


 新刊「TABEMONOPOOL morning」の告知です。8/31、コミティア109き01a「辺境紳士社交場」に並びますよ。刷り部数がいつもの6割程度なので、今回はちょっと早めになくなっちゃうかも(あるいは、マニアックすぎてずっと売れ残る問題作になります)。スク水本または食べ物本が好きな方は、見てみてね。きっとそこには……何でも足せばいいもんではないっていう人生の教訓が待ち受けている。
8/28 Thu

 明日コミティアに出す新刊「TABEMONOPOOL morning」が箱に載ってやってきました。
 今回は4箱で済んだぞ、少なーい!
 先日のMETHOD of the SEAが10箱でやってきたので、自分はすっかり体積感覚が破壊されたのです。
 4箱小さーい!
 いつもよりちょっと少なく刷ってるんだけど、大丈夫かなあ、これでちゃんと完売するかなあ(エロ寄りの本を作るとき、自分はとても弱気です)。

2014/10月号の巻末あたり。文才! あるのか!


 一方でシュレディンガ・フォークス パラグラフの迷路が今回のティアズマガジン(COMITIA入場カタログ)で紹介されてたり、電撃大王の出張ティアズマガジンで丁寧な紹介を受けたりしていて、作者はとてもびっくりしてます。一人で好き勝手に作った本が評価を受けたり、お勧めされたりするのって、商業活動にはない強い嬉しさがあります。ありがとうございます。
 こっちは今回再版したので、またのんびりスペースに並べ続けていこうと思います。


 奥様が布貼りの凄く格好いいバインダー(POSTALCO SNAPPAD A4)を贈ってくれました。ドイツかどこかの製品かと思ったら日本製で、コンセプトは「近頃身の回りに増えがちな不要なA4用紙を束ねるためのバインダー」とのこと。そう書かれた紙が一枚だけセットされていた。

山田章博展に行ってきた帰りで、筆一本でモノクロを描きたくなった


 そんなわけで早速要らない紙をかき集めて、超格好いい裏紙メモ帳を作ったのでした。ほれぼれする。
 近年はすこし文房具を買い足すスピードがゆるくなってたのですが、たまにこういう嬉しい巡り合わせがあるみたいです。「こんなに進化したのか」「こんなに可愛い/格好いいのがあるのか」としみじみするような……。MONOの四角くて小さい極細修正テープも、買ってみたら非常に出番が多くて良かった。
8/31 Sun[comitia109 record]

 もはや8月ではない涼気の中ビッグサイトに移動したサークル辺境紳士社交場(すなわち自分一人)は、印刷所から直接送られたシュレディンガ・フォークス パラグラフの迷路再版が無事に完成していることに安堵したのだった。そののち、会場に送られた350部が絶対に完売しないことを想像し、重い搬出作業の予感を頭から追い出したのだった。


 10時前に到着して、頑張って設営。今回はA1ポスター(コンビニのA3出力を四枚貼り合わせたもの)を高々と掲げたため、「ゲームブックとスク水とごはん。」の身も蓋もないキャッチコピーが一発で目に入るサークルになりました。
 ポスター立てを自分の真横に設置したため、終始ポスターが自分の顔を隠してたかと思います。客観的に考えると、かなり脱法っぽい雰囲気のサークルになってますね。一体何を売ってるんでしょうか……。

Keep
・なにより、新刊があってよかった
・ポスターに比較的大きくシンプルな「頒布物概要を書いた」
・ポスターの絵柄を新刊表紙にした
・大きなお品書き
・おつりは準備不要だった(ポスターやお品書きに値段表示した効果?)
・500円の値段設定はその日の運営を決定づけるほど強力だった
・今回はさいわい高すぎってことはなかった
・ペーパーの「ご自由にお持ちください」表示は効いた
・緑陽社に依頼する箱数は1〜2箱でOK



 お品書き+極小POP貼り。書影+1行概要+タイトル+値段をとにかく見やすく配置(余白/要素の対比にも気を付ける)。
 この日離れた位置に出展していた奥さんこと神無宇宙さんがサークルディスプレイの鬼で、自分の陳列のアイディアのほぼ全ては彼女が発案したものです(ほんと、事前にアピールしときゃ良かったけど、見に行くと参考になるよ)。テーブルクロスに便利ポケット作ったり、DIYスキルも隙がない。見習ってます。


 自分のサークル配置はホール入り口ど真ん前のお誕生日席で、過去最高の好立地でした。始まった途端に来客ペースが一気に跳ね上がり、気付いたら80分くらい経っていた有様。会場までに設営作業が完了してて良かった……。
 この時間帯は「新刊ください」と、はじめからTABEMONOPOOLを狙って来てくださってた方が大半だった印象。そのおかげで、十二時半頃に200部あった新刊が完売するという事態になりました。この数量の新刊完売は自分にとっては1・2度しか経験がない、極めてまれな売れ方です。

Problem
・おそらく今回の新刊は初見さんにとって「買いやすい」オーラがあった。こういう場合、搬入部数は意識して増やすべきだったかも
・ペーパーを渡す動線に無駄があった
・お札スペースがなく会計が見苦しかった
・「絶体絶命英雄」が足りなかった
・完売に対応するのに時間が掛かった。あらかじめ「完売」シールは用意すべきかも



 「絶体絶命英雄」単行本やメイキング本を目当てに来てくださった方も多い。「艦これ日記楽しく読んでましたよ」と話しかけてくれた方もたくさん(同じく漣を秘書艦にしているという方も)。嬉しい。艦これ方向から自分を初めて知ってくれた人が少なくない数いたみたい。今年のもろもろが、二次&一次相互に好影響を与えることができてたらいいな。

Try
・折りたたみ台の活用を考える(見本置きか、在庫置きか、ディスプレイ置きか?)→天板の改良
・ペーパーを渡す動線を事前に考えておく
・「絶体絶命英雄」は一週間前に手配しておく(ネット書店では入手困難なタイミングがある。版元に相談すべき?)
・完売後、委託情報をどう伝える?
・お札スペースの用意→机上フックの活用



 あとで自分が読み返すため、KPT法を使いながらコミティアメモを書いてみました。分析は感情を削ぎ落としてしまいがちだけど、この中にはでっかい楽しさとちょっとの辛さが確かに織り込まれています。同人誌即売会とは、いつまで経っても「慣れきれないお祭り」であるところが素敵なのだ。来場者にとっても、きっとそう……だと思います。

 ご来訪ありがとうございました!
 次は11/23のコミティア、でかいスペースを借りる展示形式の出展をしたいなーと考え中。その頃にはこのペーパーで予告した「同人なカードゲーム」がきっとできているので、また全然違うサークルになってるに違いない。
LOG INDEX            2014.1-4  2014.5-8  2014.9-12