アリサの日記(抜粋ではない)
○月×日(あれから2日目)
友情って、なんだろう?
そりゃあ、確かに宿が破壊された事件の関係者だった。
でも、ちゃんと馬鹿ウサギに宿を直させたし(いろいろと大変だったけど)
それに、ちゃんと「ゴメンネ」て謝ったし(頭に馬鹿ウサギが乗ったままだったけど。あいつ、何故か葉巻をくわえてたけど)
それなのに。
それなのに、どうして「一ヶ月くらい手伝ってくれても罰は当たらないわよね」とか言うのよ!
ああ、明日から灰被り姫のような苦労の日々が始まるのね。よよよ……
○月○日(あれから14日目)
疲れた。眠い。まかないは美味しい。
ウェッソンさんはグラスしか磨かないし、サリーちゃんは何時の間にか行方不明になる。
テムズって、いつも一人でこんなに疲れることをやっていたのね。
ああ、一ヶ月しか手伝って上げられない親友を許してね。
だって、疲れるんだもん。
さあ、明日もあるし、今日はもう寝よう。
こっそり持ってきたまかないのクッキーを食べてから。
ねむ。うま。
○月△日(あれから28日目)
テムズが準備を始めた。私も一緒に準備をする。
何の準備か? もちろん、私たちの親友、ヘレナの誕生日の準備だ。もう明後日に迫っている。
テムズは、「今年はアリサが店を手伝ってくれるからいつもより準備に時間が回せるわ」って笑った。大物よね、あの子。
けど、ヘレナは旅をしているから、戻ってこないかもしれない。 そう言ったら、
テムズは「準備しないよりはいいでしょ?」と言った。そりゃそうだ。
もし、帰ってこなくてもあたしがその分食べてあげることにしよう。主役のいない誕生パーティだ。
帰ってきなさいよ、親友!
○月□日(ついに最終日)
無料奉公最終日。そして、ヘレナの誕生日。
きょうは、貸切だった。お客様はもちろんヘレナと友達みんな。
いつもはお客さんだったけど、今日の私は従業員。一ヶ月鍛えた腕を舐めんなよって感じで楽々こなして見せた。
それにしても、みんな驚きすぎ。まあ、無理もない。私だって驚く働きぶりだ。あっはっは。
そして、ヘレナは――帰ってきた。
顔を覗かせて「豪勢ね。誰かの誕生日?」が第一声。
ヘレナの後ろの、いまだにどこで引っ掛けてきたのか不明の恋人が「ヘレナの誕生日だろ?」って言ったら
「あ、そうか」
こーゆーところが抜けてるのよね、ヘレナって。
もちろん、次の瞬間にはもみくちゃにされていた。私ももみくちゃにしてやった。
誕生日おめでとう、ヘレナ。
アリサは日記――3年目でようやく半分埋った――を閉じると夜空を見上げた。満天の星空だ。
「たまには、こーゆーのも良いわよね。……もう二度と嫌だけど」
アリサは節々で悲鳴をあげる体に気をつけながら横を見た。酔い潰されたヘレナが寝ている。幸せそうな寝顔だった。
もう一度夜空を見上げる。
キラリと光った。
流れ星だ。
「……願い事なんてないわ。今が一番幸せだもの」
ニヤリと笑ってみせる。さあ、もう寝よう。そんなことを思いながら。
にゅっ。と黒ウサギが現れた。
「流れ星、それこそ宝の在り処を示す鍵!」
その黒ウサギを見ながら、アリサは――もそもそとベッドに入った。
「おや? ……ま、いいか」
黒ウサギも、もそもそとベッドに潜りこんだ。
おやすみなさい。
END