Epilogue 1


「たっだいまー♪」
 その言葉と共に穴からにょきり、と生えてきた二本の黒い物体。
「ああ、帰ったか。では、ゲートを閉じるぞ」
 机の上で書き物をしていたネクタールは、ひれをひらひら〜と動かして穴を閉じた。
 ブチ。と、いう鈍い音がした。
「……ん? どうし……」
 ネクタールは頭痛と胃痛に苦しむような表情――顔はないが――を見せると、もう一度ひらひら〜とひれを動かした。
 うにょん。と穴が開き、そこからフランクが顔を出す。ヒゲつき鼻メガネをかけていた。耳は途中からちぎれている。
「ひどいなぁ、ママン」
「誰がママンだ。私は由緒正しきマジカル☆クリオネにして魔法大臣のネクタールだ。それより、なんだこれは」
 部屋一杯に広がる耳を眺めながらネクタールが訊いた。
「耳」
 フランクが簡潔に答えた。
「そうか」
 ネクタールも簡潔に納得してみた。
「…………」
「…………」
 しばしの沈黙が訪れる。
「……どうやら、回収できた様だな」
「もちっろん。僕んとこのまぢかる※がーるは優秀さ、ママン」
「誰がママンだ。私は由緒正しきマジカル☆クリオネにして魔法大臣のネクタールだ。では、メガネは預かるぞ」
「あい」
 ネクタールはメガネをひょい、と取ると、ひらりひらりと部屋の出口へと向かった。
「……これは片付けておくように」
 と、言い残して。
「ふぁい」
 それをもしゃもしゃと口を動かしながらフランクが見送る。
「ん〜、いまいちパワーが足りないなぁ」
 すっかり綺麗になった部屋の中で、フランクは頭に手(?)をやると、ひょい、と何かをはずす仕草をした。すると、ぴょこん、と普通サイズの耳が現れ、その手(?)の中には波打つ一本の毛がそそりたつ、禿のカツラがあった。
「もっと勢いよく伸びると思ったんだけどなぁ」
 フランクは言いながら禿のカツラに力を注ぎ込んでみた――ぐにゃり。変形してしまった。
「ま、いいか」
「ああ、言い忘れたが――」
 ぽい。変形したそれは、狙い過たずに穴へと落ちてゆく――






――すてきなたからもの に つまって いた ふしぎなちから は
ふしぎなちから を もっていない ひとたち の くに に とんで いきました




END



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