The another adventure of FRONTIERPUB 23 [Section2]

Contributor/黒珈琲さん
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彼は思った

自分がいなくても騒ぎを収められたのではないだろうか?

ふみこみ、体重移動、腰のひねり、拳の軌道、

とても素人とは思えない

自然と

頬がひきつってしまう

彼女の拳はこう語っていた

「私たちが大変だった時にこんな時間にのこのこと、それも女性をつれこむとはどういう了見だ」と

お怒りはごもっともなのだが


苦笑いをする東洋人の若者

肩で息をする赤毛の女店主

大の字になって天井を見上げるガンマン

そして

状況が把握できていない一人の女性


テムズとガンマンを交互に見るこの女性
後ろで一本に縛った腰まで伸びる長いこげ茶の髪
まん丸に見開いた灰色の目
背は高いが
顔立ちが少々幼い印象を受ける

「とりあえず掛けたらどうだい?お嬢さん」
「あ、でもウェッソンさんが・・・」

この男が
ウェッソン・ブラウニング?


「何か言いたそうな顔だな」

ウェッソンが立ち上がり

目が合う


「別にあんたとにらめっこをしに来たわけじゃない」
ずいぶんとまあ、穏やかな
死神と言われるくらいだからもっと人を寄せ付けない人間かと思っていたが
「さああああぁぁぁて、なにかいいわけすることはあるかしらあああぁぁぁぁ?」
・・・・・・
むしろこっちが赤い死神
しっかりと肩をつかまれ動けない本家死神は冤罪でギロチンにかけられた死刑囚のような心境か
「私から・・・説明させて頂きます」
三人の視線が一点に集まる


娘の名はライラと言う
彼女と二人暮しの父親は優しかった
彼女のためなら苦難を惜しまず仕事に励み
彼女も親の愛に応えるべく仕事に励む

しかし

先週の夜
父親は申し訳無さそうに
搾り出すように言う
「ライラ・・・すまない・・・」

次の日になる
父親の姿は無く
残された娘は独り

警察に捜索願を出す
彼女は一日千秋の思いで父の帰りを待つが
彼女の父は帰らない

そして今朝
いつものカフェの給仕もままならず
事情を聞いた店主は早退の許可を

彼女は父のよく知る「ウェッソン」という名のガンマンに助けを求めた
都合よく、彼女の父親がいつも鉄鉱石を卸す鍛冶屋に彼はいた
事情を話すと男はこころよく頼みを受けた

父親の失踪
それから執拗に彼女をつけまわす存在
そして唯一彼女に残された彼女の父の「懐中時計」


「父さんは生きています。必ず」
悲しくその言葉が響く
信じなければやりきれない
自分の無力さに絶望している
そんな心がひしひしと伝わってくる

口の端に力がこもる
右手で左腕を抱える
小さな肩が小刻みに震える
ただ独りで抱え込むには大きすぎる問題だ
涙を抑えきれないライラは机の角に額を当てる

「君は」
東洋人の若者は口を開く
「孝を知るいい娘だ」
なおも涙を止めないライラの頭に東洋人の若者は手を置く
「テムズ、こういう事情の娘だ、少しかくまってはやれないか?」
ウェッソンが言う
「まったく、こんな話を聞いて断れないわよ」
テムズが答える
「とにかく小姐(シャオジエ)、その懐中時計とやらを見せてはくれないか?」
ポケットから取り出した懐中時計、裏の板の止め具が緩んでいる
「(やはりな・・・)」
それを外すとその中には一枚の紙切れ
そこに書かれた名は彼のよく知る者の名だった
武器を密輸する「死の商人」と呼ばれる男の名
商人仲間でなければわかるまい
一般に知られた名ではない
「紳士の務めとは〜」
「この銃にかけて、大切な人を守ることだ」
東洋人の若者の問いにガンマンは答える
「そして掟を破る商人を誅するのは同じ商人の役目・・・か」


自分の指先すら見えない深い霧の早朝

とある貿易商の館と港に停泊する船に入り込む人影

フロンティア・パブの店を取り囲む人影

オーディエンスのいない二つの舞台に

この瞬間

開幕のベルが鳴る


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