The another adventure of FRONTIERPUB 23 [Section3]

Contributor/黒珈琲さん
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「彼は信用できるのか?」
ウェッソンは店の外を警戒しながら自分に問い掛けるように呟く(つぶやく)
テムズによれば彼の名は丁黎輝、西洋人にはティムと呼ばせている
中国系の商人で、ウェッソンが留守の間に酔っ払いを追い出し、店を手伝ってくれた
「いいひと」らしい。
今は「部下に連絡をしてくる」と言って外出している
もし彼が初めから敵と通じていたら?


「じゃあ頼んだぞ。じいさん」
東洋人の若者が言う
帽子の老人が黙って頷くとその場を離れる
そこに残ったのは東洋人の若者「丁」と髭面の中年男「鄭」
突然風を切る音
それまで無表情だった鄭が目を見開く
同時に丁は左手に違和感を覚える
装飾の少ない小さめのナイフが彼の手を貫いていた
続いて二発の銃声
建物の影に滑り込む二人
歯を食いしばりナイフを引き抜く
「・・・ぐぅっ!?」
壁に寄りかかり天を仰ぐ
苦しそうに深く息を吐く
「鄭! 様子はッ!?」
「二人確認しやした。おそらく」
「"アイザック"の部下だろ、わかってるッ!」
左手に力が入らない、苛立つ気持ちを抑えて深呼吸する
「落ち着きやしたか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
通りに背の高い黒服の男
音も無くこちらに近付いてくる
「五人、囲まれてますぜ」
「突破するか」
フロンティアパブが危ない


同時に飛び出す二人
物陰から二人を狙う銃口
動きを追い引き金を絞る
スパァン!
予期せぬ方向からの爆発音に狙いがそれる
「馬鹿め! 二人だけだとおもったか!」
「何をしている! 早く追いなさい!」
女の声?
「若旦那!」
振り向いて確認する暇は無い
「・・・!(くそ!爆竹だ!)」
男の声
「ははは、もうバレた」
「若旦那!!」


走り去る者
追う者
足音と銃声が
濃紺と白に覆われた街を駆け抜ける


視界がどんどん悪くなる
「フロンティアパブはどっちだ!」
黒服の男が二人に向けて発砲する
「霧が深くなってきやしたねっ!」
鄭が応射する
「銃声が聞こえる、こっちか!」



「・・・」
「・・・」
「・・・」
銃弾の嵐、穴だらけの机のバリケード
割れた窓ガラスから流れ込んでくる濃霧

今にも泣き出しそうな髪の長い女性

無言で応射するガンマン

そして

無言で拳を握り締める赤い髪の女店主


ねぇ、ウェッソン?

・・・

ガラスの修理代っていくらかかると思う?

・・・

ドアだって普通に開ければいいのになんでわざわざ蹴破るんでしょうね??

・・・

壁とか床も湿気を吸うと駄目になるのが早いって知ってた???

・・・

ねえ、聞いてる?(にっこり)

・・・(テムズ、目が笑ってないぞ)


ウェッソンのガンマンとしての実力は一流と言っていい
しかし二人の非戦闘員を守りつつ
何人いるか分からない敵と戦う

「何があってもライラを連れて行きたいようだなっ!」
「あれだけ人を雇って、いくらぐらいかかるんでしょうねぇ。フフフフフフ・・・」
「(テムズさんが恐い)」
銃弾を受け机が弾け飛ぶ
「テムズ! 被害額勘定してないでさっさと下がれ!!」
中に入り込んでくる影に向かって二発
「早くいけ!」
くそっ、数が多すぎる!
ウェッソンは舌打ちをする
こちらが一発撃てば三発の銃弾が返ってくる
一人倒したと思ってもまた新手が現れる


「いいかげん諦めて女を渡せ!」
リーダー格らしき男が叫ぶ
「行儀の悪い坊やだな! レディを誘う時の作法ぐらい勉強しておけっ!」
ウェッソンは声を張り上げる
「はっ! 余裕だな! 残り少ない残弾でどこまで頑張れるか見せてもら・・・!」
声が途切れる
髭の中年の男が崩れ落ちる敵のリーダーらしき男を担ぎ上げる
「遅くなった! すまん!」
あの東洋人か!
動揺の色を見せた影に向かってウェブリーが火を噴く
とたんに崩れだす敵の足並


状況は一変した
「くそっ! どこだ!」
「馬鹿! 撃つな味方だ!」
視界が悪い中大人数で動く時
一番恐いのは同士討ちだ
自陣に切り込まれ頭を潰された雑兵の取る行動は
むやみに発砲し狼狽して逃げ出し
ただ自滅の道を進むのみだった


「武器を捨てなさい!!」
逃げるものは逃げた後
フロンティアパブの正面に女の影が現れた
「娘の父親がどうなってもよいのか!」
「え、エマ・・・」
リーダー格らしき男が間抜けな声を上げる
「この大馬鹿者っ! この様はなんだ! こんな派手に、あれだけ目立つなと言われたのを忘れたか!」
「・・・」
「どうだクレメンス、これだけの騒ぎを揉み消すのがどれだけ大変かわかるか?」
「面目ない・・・」
「全くだ。もっとスマートなやりかたもあるだろうに、これだから血の気の多い若い奴らは・・・」
エマと呼ばれた女はウェソンの方に向き直る
「娘を渡してもらう」
「それはできない。ここで引き下がっては彼女の父親に申し訳が立たない」
「彼女の父がどうなってもいいと?」
「彼は娘が犠牲になるくらいなら自分の命を惜しむことはしない、そういう男だ」
「あなたはわかっていない。そんなに甘いと思うの?」
店から出てくる女店主と髪の長い女性に目を向ける
「あなたのために父親は苦しむのよ?」
「・・・」
「邪魔するぞ」
「黄色い猿が! ひっこんでろ!」
怒りにも似た剥き出しの嫌悪をぶつける
「口の汚い、嫁の貰い手がないぞ?」
「自分の立場をわかって物を言っているの?」
「君こそ今どういう立場か"気付いていない"。後悔するぞ?」
びっくりしたテムズが丁の肩を掴む
「(馬鹿! 怒らせてどうするの!)」
「(任せろ。大丈夫だ)まぁ話くらい聞け」
「言って見ろ。場合によってはその足りない頭に風穴が開くぞ」
「静かにしてみな。何か聞こえないか?」
「・・・」
地響きがする
「何をした」
「さあ、港で"火薬を大量に積んだ船で火事でもあった"のかな?」
「こんな事をしてただで済むとおもっているのか・・・」
手が震えている
顔色が変わる
「じいさん、どうだった?」
頬の肉は落ち無精ひげが生え体中傷だらけの男と、帽子の老人がそこにいた。
「お、お父さん!!」
ライラが声を上げる
「・・・」
「I told you so.(だから言ったろ?)」



"アイザック"という商人が、とある研究所から新型ライフルの図面と試作品を盗み出した。
これが完成すると射程距離も命中精度も従来品と比べ、飛躍的に向上すると言われていた。
ライラの父ジョ−ゼフは鉄鉱石の鉱山を運営していたが、赤字続きでアイザックに借金をしていた
しかし支払いのめどが立たず、武器の密売の手伝いをすることになる。
本当にこのような汚い金で生かされて、娘は幸せか?
そう思い、図面を盗み、自分の鉱山に隠し、アイザックを告発しようとする。
そのことを知ったアイザックは激怒、ジョーゼフを拉致し、図面を奪い返そうとした。
人質にするために娘を誘拐しようとするが、ウェッソンに阻まれる。
あとは丁の部下達がアイザックの屋敷と船を襲い、捕らえられていたジョーゼフを救出した。



霧が晴れるのが恐かった
フロンティアパブ
私の大事なお店、私の大事な父さんの店...


テムズは
自分の店を見て冷たい石畳の上に倒れ伏した
泣くだけ泣くとまるで何事も無かったような様子で店の中に戻っていく
気になってウェッソンが中を覗くと
壊れた物とまだ使えるものを選別したり
テムズはまるで何かに憑かれたように不眠不休で働きつづける


テムズは気が立っていた
店の修理にはお金がかかる
しかし宿代を払わない二人の居候を抱えていては
滅茶苦茶になった店を元に戻せるほど十分な蓄えなんてあるはずがない
どこかからお金を借りるしかないのに銀行に行っても大抵門前払いだ
「大変そうだな」
銀行から出てくるとテムズの前には見覚えのある東洋人の若者が立っていた
「あ、こんにちは」
明らかに元気のない顔のテムズ
「急いでるから、失礼します」
すり抜けようとするテムズを止めようと肩に手を置く
「この不景気だ。どこの銀行行っても貸してもらえないぞ?」
「うるさい!」
手を振りほどく
「悪い、言い方考えるべきだった」
頬を掻くいて言葉を続ける
「知り合いに金貸しがいる」


「忙しい所悪いが、よろしく頼む」
「他ならぬウェッソンさんの頼みとあらば、お任せください!」
いつもの鍛冶屋を出るとそこにはサリーが立っていた
「サリー、そっちはどうだった?」
「こっちは済みましたよぉ〜」
「よし、それじゃあ戻るか」


「ここはこんなもんで、全部でこれくらいかな」
「どうもありがとうございます・・・」
「それじゃあ明日から工事にかかるので」
「よろしくお願いします・・・」


夢であって欲しい
何度そう思ったか

テムズは

長い

長い

ため息をつく


「テムズさんずっとあの調子ですねぇ〜」
「親父さんの大事な店だからな、落ち込みもするさ」
ウェッソンは落ち着かない様子だ
「どうしたんですかぁ?」
「ん? ああ、タバコの葉が切れてな」
店の修理代に極度の貧窮状態にあるフロンティアパブ
その余波は二人の居候の身にも及んでいた
「宿代の取り立てが厳しくてな・・・」
「そうですねぇ・・・」
二人揃ってため息を吐き肩を落とす
二人に近付く足音に気付いたウェッソンが顔を上げる
見覚えのある髭面の東洋人
「ウェッソン殿、ですね?」


「突然呼び出してすまなかった」
港に程近い貿易商の館
ウェッソンはその中の一室、応接間らしき部屋に通された
「用件は手短に頼むよ、あまり夜遅くに帰るとテムズがうるさいんでな」
冗談交じりにそう言うとウェッソンは苦笑する
「彼女も大変だ、少人数でよく店を動かしている。よほど店に思い入れがあるのか」
丁はため息をついて目をつむる
「うちの博打狂いの馬鹿親父もあれくらい商売に熱心だと助かるんだがな」
無表情な顔になり丁はウェッソンの顔を直視する
「単刀直入に言う。あそこは君には場違いだ」
「大陸でも各地を回ったが君はずいぶん有名人だ」
「彼女たちに身に降りかかる火の粉を払う力は無い」
ウェッソンは何も答えない
「どういう事情でフロンティアパブに転がり込んだかは知らないが」
冷めきってしまったお茶を飲み干す


「どんなに知らぬ顔をしても君は死神だ」



ひんやりと冷たい

空気が流れる

月も凍るような夜に

フロンティアパブは

静かに眠る

ウェッソンは

目の前にあるフロンティアパブに虚ろな目線を送る

いつまでも続くはずは無い

そんなことはわかっている


フロンティアパブの中から金髪でおさげ髪の女の子が出てくる
「ウェッソン? 遅かったですねぇ。テムズさんはもう寝ちゃいましたよぉ〜」
聞きなれたこの声も
「なにやってるんですかぁ? 早く入らないと風邪ひきますよぉ?」
いつか
「あれ? 聞いていますかぁ? ウェッソ〜〜ン?」

そっと

サリーの頭に手を置く

「・・・ウェッソン??」

どんなに知らぬ顔をしても死神か・・・


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