The another adventure of FRONTIERPUB 23 [Section1]

Contributor/黒珈琲さん
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灰色の空

昼間だと言うのに薄暗く

いつもの店は騒がしい

赤毛の少女はただ頭を抱えるばかりであった


「昼間からお客さんが多いと思えば」
「景気が悪いから労働者も苛立ってるんだろ」
混沌とした店内、酔った労働者の集団がケンカをしている
カウンターのかげには二人の若者
かたや怒りに震える赤毛の少女、名はテムズ
かたやたまたま店に居合わせた東洋人の若者
ガーリックブレッドの入ったバスケットを大事そうに抱えている


 このままでは店内が滅茶苦茶になってしまう
こういうときは頼りになるガンマンは肝心なときに帰ってこない
サリーはいつものおじいさんの所、書斎を見せてもらう約束をしてるって言ってたっけ?
一人で止めに入るには騒ぎが大きすぎる
「アンタも大変だな」
つばが飛びそうなクセのあるしゃべり方で東洋人の若者が言う
「すみませんお客様、ご迷惑をおかけしますー」
 ウサギや宿代を払わない居候ではなく、そこにいるのはお客様
こんな状況でも笑顔で受け答えする
「昼間っから酒を飲んでケンカたあ迷惑なこった」
 東洋人の若者は十数枚の銀貨をテムズに手渡す
「あの、ちょっと多いですけど」
「机、椅子、皿、モップ代」
「え?」


 暴徒の群れに近付く若者
いつのまにか手に握られた棒(モップの柄)で
一人ずつ集団から器用にも引き剥がし店の外に放り出していく
彼に拳を向ける者もいたが
そのほとんどは例外なく投げ飛ばされたり
足を払われそのまま店の床にキスすることになった


 テムズはその様子をまばたきすることも忘れて見ていた
 若者が大男のふところに入り込んだと思うと大男の体が宙に浮いて飛んでいったり 割れた酒瓶で殴りかかられ彼の頬をかすめたと思うとその勢いで他の労働者に突撃したり
 1人2人3人4人
 舞うが如き若者の動きに
まるで魔法でもかかったかのように大男が飛ぶ様はそうそう見られるものではない
「すごいな! これぞまさにオリエンタル☆マジックぅぱっ!!?」
 声に反応して東洋人の若者は裏拳を放つ
「??(なぜかウサギ、反射的に手が出てしまったが)」
 何をしに来たのか分からぬまま、虹色の煙とともにウサギは虚空に消えていった



 床に散らかされた壊れた机、椅子、皿、料理に酒瓶、
店内は嵐の去った後のような状態だった
「ふむ・・・」
 あたりを見回す
あれだけの人間が暴れまわってもあまり埃がまっていない
よほど店を大事にしているのだな
若者はそう思った
「とりあえず掃除だな」
「その前に手当てでしょ」


 傷の手当ても終わり
一通り店内が片付くとテムズがお茶を運んでくる
「本物のカンフーなんて初めて見たわ」
「ああ、多謝。いや、サンキュー」
「旅の人なんですか?」
「見てのとおりチャイニーズだ。シルクロードを通り海路で地中海、北海を
 行ったり来たりしてた商人だ」
2人は軽い自己紹介の後、近くのテーブルに着いて話を始めた
彼が話すことは未知の世界の話だった
年中騒ぎの中心にいるような生活ではあったが
大陸の話は今まで聞いたことも無い魅力的な話だ
彼は華僑(中国人の商人)である事
茶や薬品、美術品を商っている事
賊から商品を守るために戦った話
今まで見てきた世界の装飾品、宝石、音楽や舞踊の芸能、宗教や生活の文化、
4年前、彼の父とこの地に来た事があり、賭博で大負けして船を売ることになった話


同じ時代を生きているのに

彼は自分の見たことの無い世界を見ている

ウェッソンもサリーもアリサもヘレナも

多分彼のように

自分の知らない世界を見てきているんだろうな

「マジカル☆ワールドを見た人間もそうそういないだろう―いたたたた、踏むな踏むな!」

そう、人がひたってる時に横から口をはさむウサギなんてそうそういないでしょうね


「世界って広いのね」
「何万何億の人間の中で出会いや別れがある
 商売する人間でなくても縁は大事にしないとな」
「すっかり長話しちゃいましたね」
「たまの休みだ、お茶を飲みながらゆっくり話も悪くない」
「さて、そろそろ店も開けないと」
「手伝うか?」
「そんな! 悪いですよ、私は大丈夫ですから。」
「一人で大丈夫なわけは無いだろう」
 言いながら席を立つ
「西洋人の口に合う料理くらい作れる、損はさせんから任せろ」


いつもの店の一日

いつもと違う店内の匂い

日が傾いた街

 丁黎輝

東方から来た男は心の底から楽しむ顔

 テムズ・コーンウォル

若き女店主は困ったような顔

ウサギがあくびをすると

店先に「OPEN」の札が出る

いつもより多いお客さん

悪い事の後には

いいことがあるんだな〜


閉店時間

やっと帰ってきたかつて死神と呼ばれたガンマン

隣には見たことの無い女性

いつものように

弁解する時間も与えられず

魔法などとはかけ離れた力で

ガンマンは空を飛び

まぶたの裏に星を見た



お話はまだまだ続きます


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