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ばるるるるんるるるんるるんるるん、と、
機嫌良くエンジンは回って、
飛行機はいつも通りの空をいつも通りに浮かんでいる。
この空では誰も死なない。
「春だねえ」
『そーね』
パイロットもオペレータも、いつになくけだるさのトーンを同調させている。
「あのさあモネさんよ」
『何ー?』
パイロットの彼女は、ふかふかした長い耳をぱたぱたと風になびかせながら
さりげなく切り出した。
「あたしたち、忘れられたわけじゃないよな?」
『いや、(ぴこぴこ)』
無線機からたしかにぴこぴこ、と、音がした。
大きく頭上にとんがった三角形の耳を痙攣させた時に、たしかこんな音がする。
オペレータの彼女は、花粉症の時も、
声に冷たさを宿す特技があるに違いない。
『話のプロット考えてた時に、うっかり"みそら"だけ忘れられたんだと私は思う』
「……そっかぁ」
ばひょひょんぷすんぶるんぶるんばばばばばばば、と、
愛機ソッピィズキャメルIIまでため息をついたように、
操縦席から見える世界ががくりと肩を落とした。
ような気がする。
「ま、いいかぁ」
『そーよね。関係ないし』
「嘘だもんなぁ」
『え、これ、嘘だったの?』
「……知らね」

とにかく春に白っぽくかすんだ大気に、
新作になり損ねたもう一つの主人公が飛び去っていく。

「どーでもいいや」
『いいの?』
「いーんだよ。
部屋を散らかすよーな奴はな、嘘でもホントでも、
一回片付けたって、すぐ散らかしちまうもんなのさ」









――おしまい








Happy April fool 2009.4.1