そいつの声はいつも通り脳天気な響きをしていたが、
それがいやに、この森を叩く嵐のトーンに重なって聞こえる。
「やめにしよーよ。
 全部終わりにしちゃおうよ」
そいつの表情はいつも通り悩みの欠片もない軽い上機嫌なものだったが、
その笑い方がいやに、貼り付いて動かない。「ねえ」リーズが続ける。
「シリアだってそれを望んでるよ?」
「違うわ!」
冗談じゃない!
「わたしは整理しただけよ……!
 このサイトは、5月で10年目を迎える!
 10年!
 その間に、あの管理者が一人で考えたもので、
 いくつ中途半端なものが出てきたのか知ってる!?
 始まっただけで、終わりもしない連中!」

そうだ。
そういったものを、わたしは
片付けるしかなかったのだ。
悪夢の中で気ままに振る舞う夜に似たようなことを、この手でした。

「そーだね。だからあたしは、シリアの手伝いをしただけ」
「なんてことを」
言うのだ、この馬鹿は……!
「エントランスの三人だけは残さなきゃいけなかったのに!」
「なんでさ」
「あれが無くなったら、そんなサイトはもう辺境紳士社交場じゃない!」
「へえ?」

違和感がもう一つあってそれが急に形を帯びるのが聞こえた。
こいつは……
……本当に、リーズ?

「へえ、
 そうなんだ?
 そうだよね。
 あれはね。
 愛されてるもんね」

嗤われている。
目元が霧の掛かった三日月の形をして喜悦に歪んでいる。
わたしの幼馴染み。
こいつは……、

「じゃあさぁ、あたしたちはどうだろうね?」

なにが、そんなに、可笑しい……!?

「できもしないゲームだよ。10年くらい待ってるよ。
 そんなあたしたちは、なんで殺されないんだろうねえ?」
「それは」
「ねえシリア。ちゃんと、考えてる?」
「何を!」
「自分でさ」
こいつは何を言っているのだ。
「考えなよ」
「わたしはちゃんと」
「ありゃ、気付いてないんだ」
「何がッ!」
「シリアは凶器に大根を使わなかった」
「え?」

こいつは何を言っているのだ。

「シリアは自分にも周りにも嘘をついてた」
「……」
「大根を使わないシリアは、殺人をしない」
「……」
「でもやっちゃった。辛いだろうね。シリアは優しい子だもんね。
 自分の脳みそに割れてる蓋して、のこのこまたやって来てさ。
 今日サイトを見ながら、自分の殺した奴らを見ながら。
 おぞましいサイトにしちゃったここを見ながら、
 あんたはいったい、何を考えてたんだろうね?」
「そんなの……」
なにも考えなかったわよ……。
「ねえシリア。自分が何考えてるか、分かってるかな?」
「何が」
「結局、あんたはさ」
……
「じぶんのほしんってやつをかんがえてるんだよ?」

なにも言葉は立ち上がらなかったのに、喉から
「違う! それは違う!」
弾けるように悲鳴が上がる。

呼吸は止めどなく私は口を開くしかない。
「それは全部、わたしたちのため……!」
「そうかな?」
「そうよ!
 このサイトにエントランスしか無くなれば、もう、
 管理人はゲームを作るしかないじゃない!」
「そうかな?」
「そうなるのよ!」
止めろ。
「わからない!? わたしが誰のためにこんな事を考えてるか!」
そうだ保身なんかじゃない。
「わたしのゲームじゃないのよ!?」
そうよ、リーズ、
「全部、あんたの……!」
リーズ。お願いだから、
「そうかな?」
その嗤い方を、止めろ……!
「そうだって言ってるでしょう!」
「違うよ」

そこで
リーズが唐突に近づいて身体を捻ってぶわと広がった赤い髪の
流れを寸断させて逆袈裟に振り上げられた白色の

――わたしは地面に叩き付けられた。

「ちがうなあ、シリア」

こめかみを大根で痛打されたのだ。
立てない。
リーズは……

「ぜんぜんちがう」

いよいよ隠しようもなく、嗤い混じりの呼気を言葉の端に漏らしてきた。

「じゃあさ、聞くけど」
……
「なんでほうれんそうを凶器に使ったのさ」


………………