嵐で視界の効かない、辺境紳士社交場の裏庭。
ほんの僅かな灰色のグラデーションが、右手に森があることを伝えている。
走れ。
より暗い方へと。
身体は灯りのない方へ傾いていく。
殺す側も殺される側も。
走れ。
濡れた下草が、
跳ね回る雨粒が、
蹴立てる砂利が、
もう乾いた部分など残っていないスカートの裾が、
いちいちふくらはぎに絡みついてきてとても気持ち悪い。

嵐の中、音などない。
砂利の音が、
背後から二重に聞こえることもない。

――走れ。

じんじんと痛む肩の軋みの向こうに、何かが聞こえてくる。


逃げる