「あああああ――あああッ」 吐き出した息が一瞬で底を突き 酷く咳き込んでしまう。 反射的に吸い込んだ息が 一杯にそれの臭気を含んで 肺を満たした。 「っげほ! がっ……!」 涙ににじんだ視界から緑色が離れない。 「っはあッ!」 水で満たされた浴槽。 「――はぁッ……!」 折りたたまれた二つの死体。 「はあ……はあ……!」 それと水面の境界にびっしりと、 「はあ……はぁ……」 ほうれんそうが敷き詰められている。 「なんて……事を……!」 冒された視神経が太いマイナス・ドライバーとなって 脳のねじにかちりと当てられたような 冷たい頭痛を抑えるために、 傾いた頭を両腕で支えなければならなかった。 この二人は死ぬべくして死んだのだ。 ほうれんそうに浸かるなんて……! それはそのまま、死者の声を聞くことに等しい。 引きずり込まれたのだ。 彼女たちには可能性があった。 それがこうして、冷たい水面へと 体のほとんどを引きずり込まれて、果ててしまった。 せっかくの新作だったのに。 せっかくサイトの一番上で、元気よく宣伝していたのに。 「可哀想……」 二話目があったかもしれないのに……。 でも。 彼女たちが読み切りという終わりを迎えられたのなら。 それは、……きっと、多分 幸せなことなのだ。 「私は」 ぴつ、 と、水滴が首筋を叩く。 ……そうだ。 ……ここにはなにもない。 死体しか残っていない。 幸せも絶望も、もうない。 そんなことは分かっていたのだ。 振り返る |