浴室、なのだろう。

地下室は狭苦しい離れに繋がっていた。
もともとは使用人を住まわせる施設だったのか、
玄関ホールの意匠に比べて、まるで昔の経済成長期に
酷使の限界を見たような、薄汚れたタイルが光っている。
光っていないところは例外なく
水垢と錆で、いやに赤い。
地下室で汚れた手を洗おうと、この
「浴室」という木戸を押し開けたのだが、
君はたちまち後悔した。

外の轟音には、水気が混じ始めている。
そして、ぴつ、ぴつ、と、
この小部屋の中にも雫の音が、
硬いタイルではなく、
たとえば
肉のあるうなじに
冷えた水滴がぶつかるのと
全く同じ音を立てて、
雫が落ちる音がする。

薄暗くて、ここからでは中はよく見えない。

入り口の傍らに目を落とすと、
口広のかごに二人分の下着やら制服やらが
雑多に折り重なっているのが見て取れた。
大判のタオルだけが、場違いに清潔に見える。

薄暗くて、ここからでは浴槽の中はよく見えない。


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