右に弾けるように避ける。
金色の火花が見えたまま真横に濃い緑色の影となって消える。
一瞬だけ照らされた殺人者の顔を、今度こそ君は知らない。
「誰!?」
「ぼくはさいごのひとり」
金色の細かい装飾に身を包んだ、小柄な少女。
手には同じ色をした巨大なはさみが握られている。
刃身には見覚えのある青い布きれがこびりついている。
水の彼女の服ではない。
君の左袖だ。

ざりり。
音がする。

「もうまつのはいや」白目すら金粉で濁っているようで、
「何を言ってる?」君の声はかすれて、
「さいしょのこははちかげつまった。
つぎもはちかげつ。
そのつぎのこは、はじまりから
いちねんとはちかげつ、まった」ざりり、と
「そんな」鋏が擦れる音が間断なく聞こえる。
「でもできたから、もうさんにんはいらなくした。
 でもぼくはどれだけまてばいいの?」表情もない。
「待って!」
君は思わず叫んだ!
「次は、次はあなたでしょう!?
夏まで待てばいい! 夏はすぐ来る! そうすれば、『金』は……」

音が止まった。

表情は止まったまま。
「?」
「なつなんかこない」
崩れ落ちる。
「きっとこない」
「!」
金色の四肢が床に叩き付けられて、異音が君の鼓膜を麻痺させる。
声だけが聞こえた。
「しめきりにはまにあわないよ」

「あぁ……」
静まりかえった。
あとはもう、四つの死体と、君しか残ってはいない。

金の彼女の背中にはうず高く、もやしが積まれていた。
最初から、致命傷だったのだ。
この少女は自ら死を背負いながら、
存在の近しい三人を殺害したというのか。

――この子は、このサイトで、他の殺人を犯してはいない。
見開いた金色の目は何も映してはいなかった。
外に向けられた因業など、最初から存在していなかったのだ。
FAPRシリーズに未来は用意されてはいない。
金の彼女にあったのは、ただ永遠に待ち続けなければいけないという、
倦怠。

そして…………
……………… 君は ………………

「…………」

君はこの部屋にいる誰よりも命の尽きたような目で、
まだ歩かなければいけない。
風切り音が重くなっている。
どうやら嵐が来ようとしていた。


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