The another adventure of FRONTIERPUB 30(Scene-2 Making)
こんにちはみなさん。
覚えているでしょうか? 僕の名前はシック=ブレイムス。霧の街倫敦で修練を積む若き鍛冶屋です。
これでも、英国一の名工だった師の後を継ぎ、それなりの腕を持っていると思います。
ところで僕は今映画の撮影をしています。
僕は曲がり角の端にある二つの建物の隙間にしゃがみ込んでるんです。
熱があるって言う設定です。
そこで、ウェッソンさんとサリーちゃんと一緒に歩いてくる天使の君が僕に気付き、そっとしゃがみ込んで僕のおでこを触り、そのまま、天使の君は僕のおでこにじ、自分のお、お、おでこを……その、僕と天使の君のおでこが重なるんです!!
無論、台詞も全部覚えています。
昨日から一睡もせずアドリブも考えておきました。きっと、天使の君も後で僕を誉めてくれるに違いありません。
わざところんで怪我をして、その部分をバンダナで縛ったんです。
いや、別に直接くっつけたいと思った訳じゃないんです。
ただ、その方が熱があることが伝わるんじゃないかと思うんです。
熱に浮かされたような目をするのもばっちりです。
だって、あの人の前に出ると自然と熱に浮かされたような目になるんだモノ。
ああ、後数分であの曲がり角を曲がって天使の君が来る。
ああ、後少し。
ほんの後少しで。
僕は、本当に倫敦一の幸せ者だ。
倫敦の街の傍らで数人の男達がカメラを構え、せかせかと忙しく動き回っている。
その中の一人、ADのキャメロンは台本を片手に出番を控えているリディア、ウェッソン、サリーの元へと走る。
「シーン46のシック君との絡みは全部カットする事になりました」
キャメロンのハキハキとした声が現場に響く。丸められた台本に大きく赤で×が書かれている。
「えー、私の出番減っちゃうんですか?」
リディアが大きな声を上げる。
「仕方ないです。色々とスケジュールが押してますから」
「まあまあ、結構すれ違うシーンで画面に映ってたからいいじゃないですかぁ」
主演女優であるサリーが言う。
「でもぉ」
そう言いながらリディアは頬を膨らませる。
「あー、なんでもいい。とっととこのシーンを終わらせて飯にしよう」
主演であるウェッソンは後頭部の髪をめんどくさそうに掻きながら言った。
そう言って全員がスタンバイに入った。この時点でもう、シーンがカットされたことなど全員が忘れた。
そう、ここはエントランス・ザ・ムービーの撮影現場である。
しかし、未だ白昼夢の中で幸せの絶頂期にある若き鍛冶屋が発見されるのは3日後であるとだけ記しておこう。
「ママ、あの人間やたらニヤニヤしてる〜」
「しっ! 見たらいけないざぁます!」
若き鍛冶屋の横を二匹のねずみが通りすぎた。そんな気がした。
「あははぁ……ぼかぁ幸せだナァ」
「で、こんな所に呼び出されて私はどうなるのかしら?」
テムズは一人裏路地を歩いていた。
なんでもADのキャメロンから新しい出番が出来たとか言われたのだが。
パッ、パッ
と、突如周りからライトが浴びせられ、テムズの周りが明るくなる。
そして、その正面。色々なものが積み上げられている頂点で一人の少女が同じくライトアップされている。
「……」
思わずテムズは脱力した。なにか大切な夢が壊された気がした。
「ふふふ、よくぞ来たな勇者よ」
「ユーシャ、ユーシャ〜♪」
積み上げられた機材の上に立つ少女の周りを黒いウサギが飛び跳ねる。
「……なにやってるのよアリサ?」
めんどくさそうにテムズは言う。
「ふふふ……よくも我が幾千の兵達を皆殺しにしてくれたな。今日こそここで決着を付けよう」
「ツケヨ〜ツケヨ〜♪」
元気良く飛び跳ねる黒ウサギ――フランクとは対照的に、アリサの方は棒読みだった。
「……」
テムズはゆっくりとアリサの視線を追い、自らの背後を見た。
そこにはADが台詞をプラカードに書いて居る。
そして、隣ではいつの間にか現れていたフォートルが叫んでいた。
「大変だ! マジカル☆ガール! 奴は冥界の力を統べるウンタラカンタラ……」
そして、アリサは演技力の欠片もなく棒読みでセリフを言っていく。
「……(略)そんな訳で、汝の思う最強の敵を召喚してやろう」
その言葉にテムズは首を振る。
「馬鹿ね。要はそういうものを想像しなければいいじゃない。バッカじゃない」
「何ぃ!! そうなのかマジカル☆ガール!?」
隣で大袈裟にフォートルは驚く。
「……なんか想像したの?」
テムズは頬をひくひくとさせながら言った。
「うむ。私の考え得る最強の敵をな」
その時点でテムズはもう何も言わず、つかつかとフォートルへと歩み寄っていた。
「いや、ちょっと待て。残酷描写は映倫に禁止され……」
フォートルは慌てて弁解する。しかし、もう遅かった。
バキッ! ゴキッ! ジャキッ! ジョキジョキッ!……ぐしゃあ
「監督、これはホントに映画倫理委員会の規制に引っかかりますぜ?」
目の前で起こる動物虐待を冷静に撮影しながらカメラマンのマークは言う。
だが、監督は平然と言った。
「撮るだけ撮っとけ。後でカットするから」
「そんな訳で♪ さいきょーサモン♪」
アリサが手を地面へと掲げると突如巨大な魔法陣が現れ、天空が闇に包まれる。
昼間だというのに全ての光が閉ざされ、雷鳴が飛び交う。
そして、瘴気を辺りに放ちながらゆっくりと魔法陣の中心より巨大な怪物が現れた。
そして、怪物は大きく息を吸い、そしてため息を付いた。
「わぉ〜白ウサギ♪」
フランクは辺りをクルクルと飛び跳ねる。はたして彼に意味はあるのか?
「……いつも宿の端にいる奴が巨大化してるだけじゃない?」
テムズは溜息と共に呟く。そうすると、ウサギもため息をついた。
「……ふっ、あ、甘いな、マジカル☆ガール」
包帯にグルグル巻きにされながら端っこでゴミ扱いされていたフォートルはゆるゆると立ち上がる。
「あ、生きていたの?」
「……今此処で語らねばならぬまい。我等黒ウサギ族と白ウサギ族の因縁を。それは遙かマジカル☆キングダム創始の頃、女王は忠実なる……」
「ごめん、私は興味ないの」
そう言ってテムズはうんちくを語り出す黒ウサギの頭を叩いた。フォートルはそれだけで地面に伏した。
そして、テムズは後ろを向く。そこには「さぁ、行くわよ! ごーすと・ばすたーづ!」と書かれた紙をADが持っていた。
「えーと。さー行くわよごーすと・ばすたーづ」
張り合いのない声と共にテムズの頭上にリボンの付いたハルバードが現れる。そして、彼女はそれを難なく受け取って適当に戦おうとした時……突如辺りから軽快な音楽が響いてきた。
ズンズンチャチャ♪ ズンズンチャチャ♪
首を巡らせるとアリストがギターを弾きながら脚で器用にドラムを叩いていた。
そして音楽に合わせて叫ぶ。
「ごーすと☆ばすたーづ!」
そして音楽は更に続き、スタッフや周りの見物客達までもが音楽に乗って叫ぶ。
『ごーすと☆ばすたーづ!』
軽快な音楽にのりながら全ての人間が叫ぶ。
「……なにやってるのアリスト?」
テムズはなんだか一人取り残されたような気がした。しかし、アリストは平然と曲の合間に言い返してくる。
「君の活躍に期待しているっ!!」
その言葉にもうどーでも良くなってテムズはハルバードを振り上げる。
「アーなんでもいいからこっちも強い奴出てこーい!」
爆発と共に数人の男女が現れた。
「え? 嘘っ!?」
テムズは突然のことに驚く。
「これが伝説のウサギ様なんだねシウォンくん!」
「ふっ……黙示録の大魔導師の俺にかかればこんなモノは造作もないけどな」
「……デカいな」
「ってそんなにぼーっとしてていいの? なにか召喚しないとザイ! ってセシルがまた訳の分からないこと呟いてるぅ!」
「……馬鹿弟め」
「ぼーっ」
現れた男女達は勝手に動いていたモノの、みなウサギと戦う気のようだ。
「む、助っ人を呼ぶとは卑怯な!」
「ヒキョー♪ ヒキョー♪」
「ここは一つこっちも増援よ! なんでもサモーン!」
アリサは更に対抗して腕を振るい、その結果大地からスケルトンやマミーなどの不死なる化け物が次々と現れてくる。
「ふっ俺も助太刀するぜ」
「オレッちもっス!」
何故かアニキとテリーも化け物達の先頭に立つ。そして周りでは相変わらずスタッフ達が音楽に合わせて「ごーすと☆ばすたーづ!」と歌っていた。いや、「ごーすと☆ばすたーづ!2」と言ってる気もした。が、もはやテムズはそんなことどうでも良くなっていた。
「うふふ……もうなんだっていいわ」
ふるふるとハルバードを震わせながらテムズは言う。
「げ、切れた。じゃ、私はこれでさいなら〜」
そう言ってアリサは直ぐさま現場から逃げる。
そして、残された者達は全員恐る恐る背後を見た。
そこには赤き魔王が降臨していた。
「で、今回のギャラはこんなもんでよろしいでっか?」
舞台裏でミテクがそろばんを弾き、監督と話す。その後で「そんなミテクもカッコイイ〜」とアレスは言う。
「えーと……これどうやって見るの?」
監督はそろばんが読めなかった。
と、そんな騒動の隅で一人のシスターは言った。
「そんな人々に祝福あれ」
さらにつづく