The another adventure of FRONTIERPUB 30(Scene-1 Making)
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」
少女の叫び声が倫敦に響く。
そして、沈黙が訪れる。流れていた全ての音が止まり、ただ次に来るべきその言葉を待ち、少女も、血(地?)に伏した二人の青年も黙して動かない。
誰も、動かない。そして、最後を告げるその運命の言葉が吐き出された。
「カァァァァアト」
その言葉にサリーはどっと肩を落とし、倒れていたアニキとテリーも起きあがる。
そう、ここはエントランス・ザ・ムービーの撮影現場だった。
「いゃぁ、良かったよサリーちゃん。うんっ! あの叫び声は迫真の演技だったよ」
監督と呼ばれる髭モジャのオヤジが手を揉みながらサリーに近づいていく。
「ホントですかぁ〜嬉しいですぅ」
「おーい炊事班ースターに食事を〜」
するとむすぅっとした表情でテムズがお盆を持ってくる。
「あれー? どうしたんですかぁ? 心なしか怒ってません?」
どこか険悪な空気を纏う赤毛の主人にサリーは首を傾げる。
「別に」
「ほっほっほっ……出番が少ないのが嫌なのか……若いのぉ」
テムズの後で紅茶をたしなむネルソンが笑う。自分の出番の撮影がほぼ終わり、気楽なようだ。
「なるほどぉ、何たってテムズさんは脇役ですもんねぇ」
ガタン!!
テムズは不躾にお盆を机に叩きつけると、こめかみをひくつかせながら皿を並べていった。
「はいはい、スターさんのお食事ですよ。宿代の払わないスターさんの」
「うぅ……なんか恐いですぅ……顔は殴っちゃダメですぅ」
「殴んないわよ!」
「まあまあ、テムズ君。そんなに力まないでも」
しかし、テムズは割って入った監督の胸ぐらを突如掴むと、ずずぃっと鬼気迫った表情を近づけつつ訊ねる。
「っていうかほんとぉぉぉにその映画売れるんでしょうね? あんた達の食事は全部うちで作ってるのよ! 売れなかったら滅茶苦茶赤字なのよ!!」
テムズが指差す方向にはカメラマンや照明、音声など様々なスタッフが飯を食べていた。全てテムズの手作りだ。いや、それだけではない。スタッフは全員宿に泊まり、連日ただ食いをしているのである。合言葉は「映画の儲けで」だ。
「はっはっはっまっかせなさーい! この映画で儲けた金でミーは新大陸で映画村ハリウードンを作るからー!」
「その前に宿代を払いなさい」
「……ごめんなさい。払います」
「よし、その言葉、忘れないでね」
そう言ってテムズは鼻歌を歌いながら去っていく。
「ふぅ……なんか恐いナァ、あの女将さん」
「監督監督〜〜」
「ん?」
監督が見るとそこにはBGM担当の吟遊詩人ことアリストがいた。
「どうしたんだね?」
「やっぱ、一人でギター弾きながらハーモニカ吹きながら太鼓を叩くのはきついです」
みるとアリストは足下に小太鼓を置き、脚でバチを掴み、ギターを手で持ち、ハーモニカを口でくわえていた。
「いいのかね? 人員を増やすと君への報酬が減るぞ?」
「うっ」
監督の言葉にアリストは顔を痙らせる。そして、監督はサングラスを押し上げながら自信に満ちた声で言ってくる。
「私は君の音楽に期待している。もし、この映画の収益が上がれば君の給料も二倍になるかもしれない」
キラーンと監督のサングラスが妖しく光る。
「本当ですか!!」
「その為にはいい音楽が必要だ。……わかるね?」
「監督! 僕は太鼓を叩きつつ、ギターを弾きつつ、ハーモニカを吹きつつ、鼻でリコーダーも吹けますよ!!」
どうやったか器用にアリストは4つの楽器を同時に演奏する。
「うむ、ばっちりだ!!」
そう言って監督がぐっ、とサムズアップをする。
と、そこへ食事を終えたサリーが聞いてくる。
「おかしいですぅぅ!!」
「ん? どうしたのかね?」
監督は揉み手しながら聞いてくる。
「ウェッソンの相棒さんの顔がぼやけてるですぅぅ!!」
確かに、食事しているウェッソンの相棒たる風雅の顔は霧が晴れているにもかかわらず、モザイクがかかったかのように顔の上半分がぶれて見えた。
「ん?」
向こうも見つめられているのに気付いたのか風雅もサリー達の方を向く。
やはり、鼻から上は見えない。
「ちょっと! なんで顔が隠れてるんですか!! これはちょっとした事件ですぅ!」
すると風雅はにこやかに笑って言った。
「お・や・く・そ・く。こういう過去の回想の時は主要キャラの顔はぼやけてみえないもんなのさ」
そう言いながら彼は次々と御飯を食べていく。
「そんなのヒキョーですぅ! 素顔を見せろですぅ!!」
そう言ってサリーは強引に顔のぶれている部分を掴み、引っ張った。
ズボッ
妙に生っぽい音がした。だが、一度ついた勢いは止まらない。そのままサリーはぼやけた部分から何かを引っぱり出す。
ズボズボズボ……!!!
なんとモザイクからは魑魅魍魎が次々と現れて人々に襲いかかっていく。
「そ、総員退避〜〜」
監督の声と共にスタッフや出演者達は走って逃げていく。
「え? え?……何?」
突然のことに一人テムズは取り残される。
前を見た。すると、8つの首を持つ蛇やら獅子の体を持つ鷲など猛獣たちが吠えていた。
「出番だマジカル☆ガール!」
と、突如何もないところから黒いウサギが転移してくる。
「え? ちょ、なに?」
しかし、黒いウサギ――フォートルは有無を言わさず叫ぶ。
「さぁ! 一緒に叫ぶんだ! ゴースト・ばすたーづ!!」
「え? 呪文変わってない?」
「気にするな! 世の中の摂理だ! ごーすと・ばすたーづ!!」
「えーい、もう何でもいいわ! ごーすと・ばすたーづ!!」
しゅごごごーんと言う音と共にテムズの手にリボンの付いたハルバードが現れる。
「何よ。結局いつもと一緒じゃない?」
「ふっ――そんな訳で頑張ってくれ給え。マジカル☆ガール!!」
その言葉と共に気色悪い化け物達がテムズへと向かっていく。
「いやぁぁぁ!!」
そう言いながらも次々とテムズは化け物達を倒していくのだった。
「……はぁ。ホントに大丈夫か」
背後で繰り広げられる惨劇を尻目に、ウェッソンはため息をつきながら黒珈琲を啜る。
「うむ、格別の味わいだ」
「違いが分かる男ですぅ」
ひゅぅぅぅぅん
と、ウェッソンがさっきまで居た所をハルバードが通り過ぎる。
ウェッソンはさぁぁっと血の気が引いていくのを感じた。
「あんたの相棒のせいでしょうが! なんとかしろー!」
「凄いぞマジカル☆ガール! 全部の妖怪を一撃で貫いた! この技は貫くもの《グングニール》と名付けよう!」
「ええいやかましい!!」
「ぎゃー八つ当たりはダメだぞマジカル☆ガール!」
そんな騒動を前にしながら、ただ一匹、ウサギはため息をついた。深く、深く……とても深いため息だった。
こちらもつづく