* 作画行程 *
H O W  T O  S I G N  2 0 0 8 / 5





*01*

 ノートにシャープペンシルでイメージラフを描きます。10*10cmくらいの大雑把なもの。(スケールは約半分)



*02*

 20cm四方のキャンバスに鉛筆で粗く下描きを入れます。
 キャンバスとは木枠に張った布にあらかじめ白い被膜を塗っている、白い布地のこと(値段はサイズによって様々で、今回買ったのは500円程度のこんな感じのもの)。ぴんと張られているためたるみはほとんど無いのですが、強く鉛筆を押しつけると布が沈み込みます。正直なところ、描きにくい。
 紙とは違い、線の解像度も低くせざるをえません。「せんせい」で細かい絵を描こうとする感触、と言えばわかる人がいるかも。



*03*

 小物や背後の市松をざざっと描き込んだところで、下描き終了。
 線のアラはガッシュで塗りつぶし、細部は細かい筆で描写しようとあらかじめ決めていたので、この行程はとても手抜きとなっています。



*04*

 筆に持ち替えます。
 水で薄目に溶いた赤で線画を補強しました。
 絵の具は布地の奥まで浸透するので、鉛筆より遥かに細かい描写ができます。
 キャンバス単体で飾れるようにするため、同じ色で周囲に枠を付けました。



*05*

 グレイッシュレッド(ターナーアクリルガッシュ)で陰影部をはっきりと塗りました。
 これはキー色。以降、常にこの色をパレットに置きながら塗り進めます。



*06*

 それよりは薄く鮮やかな色で、影部分を彩色。
 最終的な色を決めるというよりは、画面全体のグレースケールをイメージしやすくするために置いた赤色です。この色に数色と絵の具が重ねられて、最終的にこの赤はほとんどなくなってしまうでしょう。
 ただ、この最初に置く色が、仕上がりに5%くらい影響を残します。方向性を決めるという意味でも、とても重要。
 精神的にはとても楽に彩色できるため、この「下塗り」という行程が自分はわりと好きです。



*07*

 白いとわかってる部分を、ほとんど水を加えない不透明な白(今回はわずかに赤を混ぜるけど)で塗りつぶしました。CGに例えると、線画のぶれて汚れた部分を「消しゴム」で消すようなものです。
 物のフォルムの端がはっきりと塗り分けられると、しだいに、画面から「描きっぱなし」な手を抜いた感じが薄れてきます。



*08*

 バックから白い下地を無くすため、グレイッシュレッドを塗り重ねました。
 キャラクターと背景の明暗を判りやすくします。
 市松模様に縦の流れを与えるため、上からグラデーションを施しています。
 今回、塗る色の濃さは、絵の具に含ませる水の量と、筆に含ませる絵の具の量と、筆圧でコントロールしています。この加減は人に教えようにも教えられない、慣れの領域。描きまくれば何となく、自分なりのやりかたが見えてくると思います。アクリルガッシュだと、塗りムラはあまり気にしなくても良い(塗り重ねるうちに、ムラが味になるレベルまで平均化される)という特性があることですしね。



*09*

 紺色をベースにした鈍く暗い青色を作り、全体的に塗りました。
 もともと赤に補色を加えた色彩設計をイメージしていたのですが、この段階では青が一気に強くなってしまいましたね。崩れたバランスは、この後の行程で整えていきます。
 ちなみに青色には微量のシルバー(ターナーアクリルガッシュ)を混ぜています。メタリック色を使うのはこれが初めて。塗っている最中はほとんどわからなかったけど(この写真でもわからないけど)、乾いた後の仕上がりに、銀粉をまぶしたような変わった効果が出ました。悪くない。



*10*

 かなり濃く塗ってしまった青の暗さに合わせるため、じわじわと赤い部分も暗く塗り重ね始めます。背景がかなり影に沈んできました。



*11*

 ここでゴールド・ディープ(ターナーアクリルガッシュ)を取り出します。味付け程度に使ったさっきのシルバーとは違い、今回はほとんどチューブから出したままの濃度で塗っていきます。



*12*

 金色をキャラの影、輪郭、大根のオーラ(なぜ大根なのかという質問には、ここでは答えません)、月の外円、キャンバス端の枠に描き入れました。

 照明次第ではぎらぎらと輝く金色によって、絵の印象が決定的に変わっています。



*13*

 メタリック系の顔料は普通の印刷やモニター上では再現できない色なので、投稿時代にも、仕事でも使った経験がありません。少量でも極めて強いインパクトを持つ色です。

 この段階でキャンバスを回したり傾けたりして遊びました。



*14*

 明るいブルーでキャラクターの服に色味を付けました。ケースバイケースですが、暗い場所に乗せる明るい色は水分を少なめに、分厚く塗り重ねるようにしています。薄すぎると下の色がほとんど覆われません。
(この微妙な被服具合を活かす塗り方も、自分はたまにやります)
 逆に、明るい色へ暗い色を乗せるときは、水に薄く溶いた物でもそれなりに効力を見せたりします。
 それから、瞳に光彩を丸く描き入れました。ちょっと目に意志が宿ったような気がします。



*15*

 髪色と後ろに回った手足にかなり暗い色を塗り重ねました。「後ろ側を黒で省略する」この配色、自分は「世界樹」日向さんの絵からパク……げふんげふん、見習ったのです。
 最明色と再暗色が人物に配置されて、一気に手前へと焦点が合いました。行程9と比較すると印象がはっきりと違って見えるはず。



*16*

 まだ赤成分が弱いな、と思って、背景全体に薄く溶いた赤を塗りたくりました。
 キャンバスと水っぽい絵の具とは相性が悪い(布地が水をほとんど吸収しない)のですが、垂れないように平面上で塗れば、わりと大丈夫。てきとうに塗っていきましょう。
 紙の上で色を塗るときも同様ですね。絵の具は乾く前と乾いた後で色を大きく変えるので、紙の上で筆を動かしている最中にはあんまり色彩設計に頭を使わない方が気持ち良く絵が描ける、と自分は考えています。



*17*

 赤が乾きました。
 さあ、次はどうするかな、と思いながらぼーっとキャンバスの全体を眺めます。
 この「眺める」行程も大事。集中力が途切れたら、ちょっと遠ざかって絵を見るようにしています。CGなら画面全体を表示するために、虫眼鏡アイコンのマイナスを叩きまくるのに相当するでしょうか。



*18*

 市松模様の下に明るめの青を置きました。これも上方向へのグラデーションを付けながら塗ります。



*19*

 大根の細部を描き込みます。



*20*

 エプロン紐の飾りと、ニワトリに色を塗ります。白かった目に黒目が入って、ニワトリに意志が入ったように見えますね。やっぱり見えませんね。



*21*

 完成。制作時間は三時間くらい。



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