Super short 8(Part 2)
彼方此方にもれるため息。 まったく、 吐きたいのはこっちの方よ。 手が離れる。 認めるべきだろうか。 客集の視線は私を見向きもしない。 少しだけ腹ただしい。 少しだけね。 確かに綺麗な人だと思うけど、 ……何よ、男のクセに香水だなんて。 キザったらしい。 早く音楽終わらないかしら。 夜会用の絹の手袋がそっと触れ合う。 踊り手は今や二人。 ワルツって二人で踊れるものかしら。 ……待って。 今、喉が見えた。 信じられないっ。 何それ、 反則じゃないの!! あ〜……私もそっちの服頼めばよかったかも。 「人目を引くことだ。と言うわけで、こんなのを用意した」 だって。 そりゃ嬉しかったけど、どっちでもよかったわけよ。 アイツってそう言うところ気が回らないわよね。 ま、仕方ないか。 まぁ、気兼ねしなくてよさそうだし。 ダンスを楽しむとしましょう。 |
何故他の方々は踊らないのだろう? ため息なんて吐いて。 エスコートならボクがしてあげるのに。 手が離れた。 さぁ、次は誰かな。 あれ? また彼女なのかい? 残念。 でもちょっと嬉しいかな。 何しろ彼女は魅力的だからね、 ……羨ましいなら勇気を出して輪に入るべきだよ。 カッコ付けて。 音楽の止む前にさ。 白い絹手袋に黒が乗る。 手を繋げば今は二人。 憚らぬ逢瀬。譲りはしないよ。 ……おや。 ばれたようだね。 そう、残念なことにね。 はは、 怒った顔、可愛いね。 むぅ。普段はここからが本番なんだけど。 「いいから、余計なことはしないで、その辺で踊っててください」 って、言われてるし。 まあタキシードなあたりは、及第点だけど。 アレで、もう少し頼りがいがあればいいのに。 ま、無理だね。 っと、考え事は失礼だね。 ダンスに集中しよう。 |
「神から旅商へ――」 「旅商から王へ――」 「王から政府へ――」 「政府から盗賊へ――」 「転々と手から手へ――」 「そして銀行家に――」 「ある者は野犬にかみ殺され」 「またあるものは革命家に斬首され」 「渡る掌の悉くに死と呪いを振り撒いた」 豪奢な部屋には男が二人。 ご高説ありがとうと、同時に目を伏せ。 「なるほど、ただの泥棒ではないわけだ」 「そっちこそ、良く調べたものだ」 見つめる先に蒼の煌き。 ――ホープ・ダイア 歴史と栄華を漂流する魔性の宝石。 世界で最も美しいとされる、フレンチブルー。 「それは『執着』 の呼び水。強欲と拘泥の象徴」 「個の結末。真の一であることの代償」 「人は脆く弱い。絶対の幸福を得た瞬間にそれを疑い、否定し、些細な幸福を得ようとする」 「不幸の果てにこそ真の幸福が存在すると理解しているクセに。不幸になることが恐いから。今を不幸と思おうとする」 「唯一無二とは代わりがないということ。協調も共有も有り得ない」 「人はその強さに憧れを抱くが、いざ手に入れてみるとその絶望的な孤独に当てられて破滅する」 「誰彼も不幸になりたくて固執するわけでもないが」 「しかし、それでも囚われる」 「だからこそ」 「誰かが無理矢理にでも救う」 「でなければ一生そのままだ」 静謐な部屋に響く微かで軽薄なワルツの三拍子。 埃が落ちて平伏す黒服達に塗される。 シーリングライトが微かに揺れた。 「上は騒がしいな」 「……だね」 見上げたまま手を出す。 重なる互いの手に、はたと止まり。 「……目的は一緒か」 「……結果も同じかも知れない」 『…………』 互いにため息。 「……ジャンケンで決めよう」 「……そうするか」 両者一斉に振りかぶった。 |
おしまい
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