Super short 7
タッ タッ タッ タッ タッ タッ
春の麗らかな陽気のなか、サリーは小気味よい足音を鳴らして、
フロンティア・パブ近くの通りを軽快に走っていた。
彼女は毎日、特に何をするわけでもなく街中を駆け回っている。
そのことを彼女は、
「名探偵なら行く先々で様々な難事件に出くわすものなんですぅ、
そしてそれをスパっと解決して見せるのが、名探偵なんです!!」
と言ってはいるが、事件などそうそう起こるわけも無く、大抵は何もすること無くパブに戻って来るのであった。
今回は、そんな彼女のとある一日のお話。
煉瓦で舗装された通りを颯爽と走っていると、向こうからヘレナが歩いてきた。
「あ、ヘレナさんこんにちはぁ〜」
話しかけられてから気づいたヘレナは、少しため息混じりに挨拶を返した。
「御機嫌よう、いつも楽しそうね、サリー」
「何か退屈そうですねぇ」
「同じ所に居続けるというのは、私の性に合ってないみたいね。何も無い毎日もいいけど、
やっぱり世界を旅して色々なものを見るのが好きみたい、だから来週あたりまた旅に出ようと思っているわ」
サリーは、少し不思議そうに首を傾げながら。
「そうですかぁ? 私は毎日難事件に追われる日々ですよぉ。近所の人もいい人ばかりだし、退屈はしませんねぇ」
サリーの発言には少し誇張も含まれていたが間違ってはいなかった。
(まぁ、いつも自分から沢山の問題に首をつっこんでるなら退屈はしないでしょうね)
「まぁ、そうなんだけどね。あっ時間だわ、それじゃね」
そう言ってヘレナは、早足で歩きだした。
「いつみてもステキな人ですねぇ」
テムズとは少し違う大人らしい女性に、サリーはちょっと憧れを抱いていた。
さらに走り続けるサリー、街に事件の匂いは微塵も無い。
そして公園にたどり着き、サリーは少し辺りを見回したあと、ベンチに座って休憩することにした。
「ふぅ……今日も街は平和ですねぇ、探偵としてこれは由々しき事態ですぅ」
"平和な街・春の日差し・公園のベンチ"
この睡眠三種神器の前に眠くならない者はいない。
(そしてこれに、"ふかふかの枕"でも加わった日には睡眠四天王となって、
この世に生きとし生けるもの全てを眠りの世界に誘(いざな)うのである)
彼女も例に洩れずいつの間にか眠りの世界に誘(いざな)われてしまっていた。
「サ…リー…! サリー! 起きろ!! 事件だ!!!」
聞きなれぬ声と事件という単語に驚いて飛び起きるサリー。
「ホントですかぁ!!」
眠そうだった目は途端に輝きだす、と同時に目の前にいる人物の姿形(すがたかたち)に驚く。
「えっ……ウ、ウサギ?」
「私はフォートル、それ以上でもそれ以下でも……あぁ、今はそんな事を言っている場合では無い、あそこを見ろ!!」
黒ウサギの指差す方向を見ると、街が空飛ぶ人間によって攻撃されているではないか。
<燃え盛る街・逃げ惑う人々>
なおも黒ウサギは喋り続ける。
「詳しく説明している時間はないがとにかく今は人手が足りない。
私が力を貸し与えるから、君は”マジカル☆ガール”となって、あいつらと戦ってもらいたい!」
黒ウサギが何を言っているか理解は出来なかったが、サリーはそれを聞いてつい、一言。
(まじかる☆がーる……つまり……)
「魔法使いサリーになるんですねぇ」
黒ウサギはそれを聞いてたじろぎ、一言。
「いや……やはり探偵として頑張ってくれ……」
スサァ――― −… ササァ――― −…
風で揺らされた木々のざわめきでサリーは目を覚ました。
そこからはいつもの公園、そしていつもの街並みが見えるだけであった。
「あれっ……夢でしたかぁ……う〜ん変な夢ですぅ。
でも、あの黒ウサギさんも、私には探偵の資質の方が有ると思ったんでしょう、ウン」
サリーは、今の出来事をそう片付けて、頭を振って立ち上がり、また走り始めた。
「さぁ、今日こそは難事件が私を待っていますよ!!」
眠っていた時間は一時間と少し、まだまだ日の落ちる時間ではない。
サリーはまだ見ぬ未解決事件を求めて街を駆け抜ける。
そしていつの日か……
誰もが認める名探偵になるんだと。
風のように走る彼女はそう誓っていた。
彼女が名探偵として活躍する日はそう遠く無いのかもしれない……
おしまい