今日は大晦日だ。一年の終わりである。
雪が積もるほど寒い今日は仕事も休みでやることがない。
という理由で、後はもう来年が来るのを恋ばなの好きな親友と待つだけ、だったんだけど。
「風邪ですね」
私は朝からかなりの頭痛と目眩に襲われて家からそれほど遠くない診療所に来ていたのでした。
「風邪薬を渡しておくから帰って安静にしておくと良い」
白衣と眼鏡の医師はそんなお決まり的な台詞を添えて薬を渡し、診察を終える。
私は医師にお礼を言い、ふらつきながら部屋を出る。どうにも目眩が酷い。
「大丈夫か? あまり辛いようなら診療所のベットが空いているが」
「いえ、大丈夫です、家近いですから」
帰り際に看護婦にも心配されるほど危うい足どりで家へと向かう。
風邪と雪の所為だろうか、ものすごく家が遠く感じる。一人暮らしは体調を崩した時大変なんだなぁ。
帰り道の途中「フロンティア・パブ」の前を通る。店の前では赤毛の店主が雪掻きをしていた。
「こんにちは」
見るたびに心を穏やかにさせてくれる笑顔で声を掛けられる。
「こんにちは、テムズさん」
「大丈夫? 具合悪そうだけど……」
どうやら私は相当辛そうな顔をしていたらしく、彼女が私の顔を覗き込んできた。
「平気です、ただの風邪ですから」
「そう? 無理しちゃ駄目よ?」
「はい、それじゃあ、これで」
本当はもう立ってるのも辛いんだけど心配させたくなかったので足早にその場を後にする。
つもりだったんだけど。
「あ」
足をもつれさせた私は間の抜けた声を漏らしながら雪の上にうつ伏せになる。
雪が冷たさで自分の体温の高さに気づく。なんとも気持ちの良い冷たさだった。
さっきまで近くにいたはずのテムズさんの声がやたら遠くに聞こえた。
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