Super short 12

Contributor/白さん
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忘れ難き


 マジカル☆ワールドのマジカル☆大通りに面したマジカル☆中央公園のマジカル☆ベンチで、一人(?)の黒い魔法ウサギは、手にした何かにぼうっと視線を落としていた。
「フォートルさま、このような所にいらっしゃったのですか!」
 と、フォートルと呼ばれた魔法ウサギへと、とてとてと駆けながら声をかけてくる誰か。ゆるり、とフォートルはそちらを見やる。
「なんだ、ロルフか」
 フォートルの側まで来て、青い魔法ウサギは立ち止まる、立ち止まりざま
「なんだ、じゃありませんよ…」
言って大きく一息ついた。
「いくら御役職を退いたとはいえ、前法皇さまが護衛もなく、そう気軽に出歩かれては…」
「ふむ。しかし私にはこの二つの足がある。足は立ち歩み駆ける為に在るのであろう? …そんな顔をするなロルフ。マジカル☆ワールドは私の存在無くとも正常を保つ。それにその"前法皇"などという肩書きも、もはや何の意味も持たぬさ」
 ロルフの言葉をさえぎって、そのまま透明な視線を空に泳がすフォートル。その姿を見て、若い魔法ウサギは言葉を続けるのをやめた。彼女がフォートルのお側役となる上で、色々と聞き知ったことがある。彼の彼の姿でない時の華々しい活躍も、彼が彼の姿を捨てる事になったあまりに悲しい出来事も。認めるはずもないのだろうが、フォートルの心の中には今も消し去る事のない暗い影があるのだろう。
 重苦しい沈黙を掃うために、ロルフは話を変える。
「ところで、何を御覧になっていらっしゃったのですか?」
「ああ、これか…」
 フォートルは手にしたものに視線を戻す。覗きこんだロルフは、それが2枚の紙だとわかった。上の紙には、芯の強そうな、そして慈母を思わせる優しい笑顔を浮かべ、椅子に座った女性の似姿が描いてあった。誰かの部屋だろうか、そこを彩る落ちついた色合いにはノスタルジィが感じられる。
「どなたです?」
 見知らぬ女性であったので、ロルフは尋ねてみる。
「彼女は、私にとって最も良きパートナーさ」
 よく見ると、膝の上に黒っぽい何かを乗せていた。…フォートル?
「あぁ、この時は大変だったな。『ぬいぐるみのフリをしろ』などと無茶な事を言われたものでな。絵が描かれ終わったあとも、体の硬直が解けなくて苦労したものだ」
「そうなんですか…」
 懐かしげに語るフォートルの姿に、ロルフは少しばかり落胆する。彼の最も良いパートナーは、"あの過去"で失われている。彼が自らを"抜け殻"としたときにその記憶も失ってしまったのだろうか…。また、同じ思いに捕らわれるのを嫌がって、ひとまず話を続けるロルフ。
「もう一枚の方は、何が?」
「ふむ……これは」
 絵姿、かと思ったがどうやらそれは人間社会でいう"写真"であった。写された真っ赤な髪の女性はエプロンを身に付け、どこかの店のカウンター前に立っていた。ロルフは、はにかんだようなその笑顔にこそ、フォートル前法皇の真のパートナーたりえた女性の面影を見る。

「これは……」
 写真を見ながら
「そう……彼女は」
言う、フォートルの口元は、穏やかな笑みの弧を描く。
「私にとって、最も、忘れ難きパートナーだ」
 ロルフは驚いた。ここしばらく、眼前の偉大なる先達の魔法ウサギの微笑など見た事がない。そして、フォートル前法皇が”あの過去”に失ったものと同じくらいの何かを、写真の女性から得たのだろうと感じた。いつのまにか2枚の紙を懐にしまいこみ、ベンチから立ちあがっているフォートル。いくぶん晴れ晴れとした表情で、ロルフに告げる。


「では、帰ろうか。聖堂へ」


「……ええ!」


おしまい


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