The another adventure of FRONTIERPUB 45

Contributor/まーちゃんさん
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サリサタ・ノンテュライト VS 「赤い悪魔」


「はぁ・・・はぁ・・・!」
金髪の少女、サリサタ・ノンテュライトは現在逃走中だった。
「はぁ・・このままじゃ、いずれ捕まってしまいますぅ・・」
路地裏に逃げ込み、ため息をつく。
そして、少し離れたところでは赤毛の少女が鬼のような形相で逃げた少女を探していた。


事の発端は、3時間前に遡る・・・


 コンコン。
 部屋にノックの音が響く。
「サリー? いい加減起きたら?
 今日は休業って言ったけど、生活のリズムは乱さないほうがいいわよ?」
 時刻はもうそろそろ午前11時といったころだ。
 赤毛の少女、テムズは買い物に行く予定があったので、サリーに留守番をさせようとしていたのだった。
 こういったときは普通、ウェッソンが頼まれるのだが彼にしては珍しく、朝早くから出かけてしまったのだ。
 賭博だろうし、止めようとも思ったが少し前に滞納しているお金をある程度返済したので、許してやったのだ。
 まぁ、行っていいと言った時に「だ・・・大丈夫か? 医者に見てもらった方がいいんじゃないか?」などと言ったので、つい店から蹴りだしてしまったが。
 そのため、フロンティア・パブの留守番を頼める相手はサリーだけになってしまったのだ。
 ノックしてしばらく待ったが出てこない。しょうがないのでノックしてから「入るよ?」と言ってドアを開けた。
 中に入ると片付けられていないごちゃごちゃした部屋でサリーはすやすやと眠っていた。
 その寝顔を少しの間眺めていたが、とりあえず「サリー? そろそろ起きなさいよ」とさっきより大きな声で言った。
 しかしサリーは全く反応しない。相変わらず寝息をたてていた。
「まったく・・・しょうがないわね。 ホラ、起きなさい!」そう言い、布団をひっぺがす。
 するとサリーはぶるっと身震いしてからぼんやりとした様子で起きてきた。そして、開口一番こう告げた。
「・・・ふっふっふぅ・・・と〜とぉみつけましたよぉ〜・・・」
 その後、焦点の定まらない目でテムズを見、サリーは背を向けるようにして立った。
「・・・・・はぁ?」
 テムズは呆然としている。
「かくそぉとしても・・むだ・・すよぉ・・・しょ〜こはぁ・・・しっかりぃ・・・」
 どうやら寝ぼけているようだ。
「どぉ・・・ですぅ・・こんにゃぁ・・・Zz・・・」
 喋ってはいるが再びサリーは眠ってしまったようだ。立ったままで寝るなんてなかなか器用だ。
「たく、しょうがないわね」
 寝かせておくわけにもいかないのでしかたがないので軽く肩を揺さぶってみた。
 すると、またサリーの目が開いた。さっきよりもはっきりとしている。やっと目が覚めたようだ。
「むぅ〜。変装してごまかそうたってそうはいきませんよぉ、怪盗メンチカツ!」
 まだ、寝ぼけているようだ。
「・・・へ?」
 またも呆然とするテムズ。その様子を変装がばれて動揺しているのだと勘違いして、滅茶苦茶な推理ですらない推理が飛び出す。
「ふふふぅ。甘い、甘いですよ怪盗メンチカツ! あなたはそれでテムズさんにしっかりばけたつもりなんでしょうが、ダメダメですぅ!」
「・・・サリー?」
「まず、テムズさんはそんな声じゃあありません! もうちょっと低いし、いつもやたらに大声張り上げるのでかすれているはずです!」
「・・・ちょっ・・・」
 いつも確かに彼女は大声を張り上げている。その大半は、サリーが原因だが。
「さらぁ〜に! その言葉遣いですっ! テムズさんはもっと口調が荒いんですぅ!」
「あのねぇ・・・」
 多少テムズの表情がひきつる。そりゃあ少し乱暴な言葉遣いのときもあるが、それはサリー達が問題を起こした時くらいだ。
「そ・れ・に! テムズさんは化粧をそんなにしないんです! 彼女には着飾る余裕がほとんどないですから!」
「・・・・・・・」拳を固めてため息をつくテムズ。言われた通りだが、サリーが問題を起こさなければ少しくらいは余裕があるはずなのだ。
「そしてぇぇ! 変装で体格はごまかしきれないようですねぇ。それじゃあ太りすぎですぅ!」
 ビシッと指を突きつけるサリー。その先にいるのは当然テムズだ。ピキッ、と額に十字型の血管が浮き出る。
「・・・・・・それで、全部かしら?」
 不思議なくらいに優しい声と、ありえないくらいの極上スマイルだったが、何か後ろに黒いオーラが見えそうなくらいに殺意がみなぎっている。
「ふふふ、反論の余地はないでしょう! 名探偵サリーにかかれ・・・ひゃあ!?」
 紙一重で飛んできた「何か」をかわしたサリー。壁にソレがぶつかり、がしゃんと砕ける音がする。はにわが投げつけられたのだ。
「・・・・あれ? テムズ・・さん?」
 砕ける音でようやく本当に目を覚ましたサリー。目の前には、まさしく「赤い悪魔」が立っていた。
「・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ お・・おっとぉ! 事件が私を呼んでいますぅ!」
 韋駄天の如くすさまじいスピードで部屋から脱出したサリー。テムズはそれを走らずにゆっくりと歩きながら後を追う。
 だがゆっくりした足取りにもかかわらず、足音がズン・・ズン・・と一歩ごとに響く。
 猛スピードで一階に降りて、「ウェッソン、後は任せました!」と叫んでウェッソンに委ねようとする。が・・・・
「・・・うぇっそんナラ・・イナイワヨ・・・?」
 テムズが上から降りてくる。手にはモップを携えていた。・・・その時の威圧感といったら、殺人鬼に勝るとも劣らないものだった、と後にサリーは語ることとなる。
「・・そ・・そうなんですかぁ・・困りましたねぇ」
 額にティアドロップ型の汗を垂らしながらサリーが言った。
「・・・サリー」
 人を殺せそうな鋭い目でテムズが口を開いた。サリーは気おされて「は・・はい?」と上ずった声で答える。
「言いのこしたことは・・・ある?」
 笑顔で尋ねてくるテムズ。しかし手のモップはみしみしと音を立てている。
 じりじりとテムズが近寄り、サリーもそれに合わせて退く。そしてサリーはドアの近くまでたどり着くと
「まだ、死ねません!」
 と、叫んでドアを開けて走り去った。
 そして、長い間走ってようやくまくことができたのだ。



「どうしよう・・・」
 サリーは焦っていた。体力はいくらか戻った。ここにこのままいても見つかる。
 隠そうとさえしない殺気が近づいてくるのがわかっているからだ。だが、どこに行けばいいのか。
 皆目見当がつかない。下手に動いて見つかったら、それこそまずい。
 路地を上手く走ればこちらの方が詳しいのだが、相手の方が断然速い。逃げきれたのは馬車が通りかかったためだった。
「・・・!」
 思わず身を縮め、物陰に隠れる。完全に隠れはしないものの、少しはマシだろう。
 近づいてきている・・・「悪魔」が。
 身を乗り出して確かめたいが、それをしたら見つかる気がした。じっと息を殺してただただ去っていくのを待つ。
 鼓動がやけに大きく聞こえる。息が苦しい。とにかく待つしかない。
 強烈な殺気はじきに去っていった。どうやら気付かれなかったようだ。ほっと息をつく。
「とりあえず、少し移動しましょう・・・、そうだ、おじいさんのところ・・・」
 本来なら普段行くところに行ってしまうのは見つけてくれといわんばかりの行為だが、頭の中にはそこくらいしかいけそうな場所が無かった。
 周囲に注意しながら歩き、なんとかたどり着く。
 が、しかし。
「留守みたいですぅ・・・」
 がっくりと肩を落とすサリー。何故だろう。普段はいつも家にいるのに。
 仕方がないので別の場所に行くことを考えたが、他に行くところが思いつかないのでしばらくここに身を潜めることにした。
 そして、しばらくじっとしていたが急におなかが鳴ってしまった。
「何か食べ物は・・・」
 ポケットの中を漁る。昨日、うっかり着替えずに眠ってしまっていたのだがそのおかげで何か食べ物が入っていそうだった。
 ポケットの中に手を突っ込んでみるが食べ物は何も出てこない。いつもの7つ道具(7以上ある)や手帳が出てきただけだった。
 仕方がない、我慢しよう。
 サリーは空腹でうまく回らない脳で考えをめぐらせた。どうしたら被害を抑えられるか。
 こうなったら立ち向かうしかない。そう判断したのだった。


パターン1・そのまま何もせずに帰ってくる。
「ただいまーですぅ」 → 「おかえり」ガシッ。「悪魔」に捕まる。 → ゲームオーバー

「ダメダメですぅ・・・」

パターン2・貢物で機嫌とり
お店でテムズが喜びそうなものを選ぶ → お金がある → 買える → プレゼント → 許しを乞う → 助かる(?)
                 → お金がほとんどない → 買えない → THE END


「お金がないから・・却下ですぅ」


・・・・・・・・


パターン11・しばらく帰らない
書置きを残して去る → 心配で探しに来てくれる(かも) → 誠心誠意あやまりまくる → 「そんなことで家出したの? バカねぇ。本気で怒るわけないじゃない」

「・・・さすがにそこまでする気には・・なりません」


・・・・・


・・・・・


・・・・・


パターン42・小細工なしで謝る
土下座して「すいませんすいませんすいません・・・(エンドレス)」 → 「わ、わかったからとにかく顔上げて、ね?」 → 許される


「うん、コレが一番よさそうですぅ」
 そんなに考えなくてもすぐに出る結論のような気もするが、とにかくフロンティア・パブに帰った。
 気がつけば午後6時をまわっていた。ずいぶん長い間パターンを考えていたのだ。
 玄関に立つ。覚悟は決めた。ダメだったらもうそれでも悔いはない。いや、あるけど・・・まぁ仕方ない。
 ドアを勢いよく開いて、テムズを見つけ、彼女のそばに行き頭を下げる。
「すいません! 寝ぼけてたんですぅ! 許してください! 何でもしますから!」
 その様子を見て、テムズはまたも呆然とする。そしてフフッ、と笑ってからテムズの頭を撫でながら言った。
「いいわよ。もう気にしてないから。けど何でもしてくれるんだったら、お手伝いヨロシクね」
「へ?」
 ぽかんと口を開け、呆然とするサリー。テムズは本当に許してくれるようだった。
「さ、早く。明日の仕込み手伝ってよ」
「は・・はいっ!」
 慌てて返事をして、準備をするサリー。ふと辺りを見回すとウェッソンがいない。
「ウェッソンは?」
「あ゛・・あぁ・・。なんか事故にあったみたいで病院に入院してるの。
 テムズが少しぎこちない笑顔で答える。
「はぁ・・・大丈夫なんですか?」
「明日辺り見舞いにでも行ってあげたらどう?」
「そうですね。そうしますぅ」
 仕込みも終わり、部屋に戻ったサリー。走り回った疲れもあるのですぐにベッドに入って眠ることにした。
「今日は・・疲れましたぁ・・・」
 ベッドにうつぶせになり、今日の事を思い返す。とりあえず、もう二度とテムズを怒らせないようにしよう。と彼女は思った。
 もっとも、数日後にはすっかり忘れてしまうのだが。


 ちなみにテムズは結局買い物へは行きそびれてしまったらしい。



「俺が・・何をしたんだ・・・?」
 テムズにわけもわからず殴られたウェッソンが病室のベッドで朦朧としながら呟いた。

Fin



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