The another adventure of FRONTIERPUB 3(Side 2)
私は旅をしていた。我が故郷の守り猫神から探し物を頼まれたからだ。それ以来どれだけの月日が流れただろう。今までいくつの街を通っただろう。今まで何人の「人間」を見てきただろう。今までに何度、この虚ろな瞳に赤い夕焼けを焼き付けただろう。けれども、私の旅は終わらない。目的のものを見つけるまでは。
しかし、この旅は困難を極めた。なぜならば私には足が無いからだ。物心ついたときにはすでに無かった。いや、もとから無かったと言うべきか。移動手段は飛び跳ねるか這いずるしかない。そして何より人の目を避けねばならない。なぜなら、、、私が土を焼き固めてつくられたモノだからだ。私の生まれ故郷のイーストエンドでは「埴輪」と呼ばれている代物だ。なんで、そんな泥の塊が意志を持ってるかって? それはまた別のお話。
私の旅の速度は遅い。しかし幸い私には食べ物は必要ない。それがこの長い旅路のなかでのせめてもの救いだろう。が、我が身体は乾燥しすぎると割れるのだ。そろそろボディが限界らしい。次の街で、水分の補給、補充をせねばならない。川の水でも良いのだが、私のハラはあいにくと下りやすい。まったくヘンなところでデリケートで困る。
人目につかないよう、森を通る。身体にまとわりつく蔓草に悪態をつきながら進むと、突然森が開け、眼前に静かながらも威厳に満ちた大きな街が現れた。
日が西に落ちかけている。これから、急速に空の色が移り変わってゆく。私は仕事帰りの人々で賑わう通りを避け、人気のない道へと出る。一件の宿屋兼酒場(西洋にはこの手の店が多いのだ)の建物の前を通った時だ。店の中から一匹の白いうさぎが走り去っていった。妙に引っ掛かるものを感じたが、みるみるうちにうさぎの記憶はおぼろになっていった。
私は店を見上げる。「フロンティアパブ」、そう書いてある看板が掲げられていた。補給はここにしよう、そう思い店へと身体を向ける。
店内はまだ今日の営業を始めたばかりなのか、人はまばらだ。なるべく人目につかないように移動。この旅で得た技の中で、気配を消す技などは児戯に等しい。ヒマなのか看板娘とおぼしき朱い髪の女性が小さな女の子との会話に熱中している。私には気づいていないようだった。こっそりと女性の近くに席を取り、しばらく観察してみる。まだこちらには気づかない。私の技が完璧なのか・・・・・
こちらから声を掛けなければ気づきそうもないので飲み物を注文してみる。水でもよかったのだが、酒場に入っておきながら酒を飲まないというのも失礼だろうと、ちょっと気取って「葡萄酒」を注文することにした。しかし、女性はあたりをきょろきょろと見回している。どうやら、声の主が私であると気がつかないようだ。そこに先ほど朱い髪の女性と話をしていた小さな女の子が私に気づいた。その少女は朱い髪の女性をテムズと呼んだ。それがこの看板娘の名前らしい。テムズと呼ばれた女性と少女(こちらはサリーと呼ばれているようだ)の会話を聞いていると、どうやらサリーという少女は「はにわ」を知っているらしい。なぜ我が故郷より遠く離れた地のこんな少女が「はにわ」のことを知っているのだろうかと疑問が生まれる、と同時に探し物の手がかりを知っているのではないかと淡い期待を抱く。しかし、他人に知られるわけにはいかない。あくまで事は極秘に行われなければならないのだ。膨らむ期待を空洞の身体にむりやり押し込んだ。
そんな私の迷いをよそに、女性と少女はあれこれ考えをめぐらせている。ふとサリーという少女が私のことを贈り物だと言ったのが耳に、もとい穴に入ってきた。すかさず否定し、葡萄酒の催促をする。どうも二人は私に納得がいかないようだ。まぁ、無理もないだろう。なにせ、人間ではないし。
そこに横から男が杯を差し出してきた。待ちわびた葡萄酒だ。指の無い手で杯を男から受け取り口に運ぶ。どうも、この男(ウェッソンと呼ばれているらしい)は私に驚かないようだ。しかも、隠してはいるがこの男、相当強い。私の中身のない頭に直感が走った。ということはコイツがここのマスターなのか? 、、、、、しかし時折その男がテムズとやらに見せるおびえたまなざしは一体なんなのだろう・・・・・・・・・・・私は彼らに興味を持った。好奇心がうずきだす。
(急ぐ旅でもないし、しばらくここにとどまるのも面白そうだな・・・・・)
そして席を立ったときに、ある一つの事を思い出す。
「あ!! お金無いじゃん!!」
そのあと、持てる技すべてを駆使し店を後にしたのは言うまでもない。
・・・そして私はどうしたかというと・・・・・・・・・まだ、この店にこっそりと隠れ、彼等を観察していたりするのだった。
END
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