The another adventure of FRONTIERPUB 24

Contributor/ねずみのママさん&聖風時恵さん
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Magical♪Eel


 8月4日の朝。フロンティア・パブのキッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。
「ねぇサリー、ウェッソンがまだ起きてこないみたいなんだけど、起こしてきてくれない?」
と、目玉焼きを作りながらテムズが言った。
「了解ですぅ!」
 サリーは片手を上げ、ウェッソンの部屋へと突進して行った。
「ウェッソーン! 朝ですよー! あんまり遅くまで寝てると、テムズさんの雷が落ちますよー!」
 ウェッソンの部屋のドアを叩くが、返事は無い。
「あれー…そうとう熟睡してますねぇ。ウェッソーン!」
 ドアノブをひねると、ドアは開いた。
「…ウェッソン?」
 部屋の中には、誰もいなかった。
 ウェッソンが眠っているはずのベッドは空っぽで、見回しても人影は見えない。
 そして、どうやら窓には鍵がかかっているようだ。
「ミ、ミステリーですぅ!!」
 サリーは部屋に駆け込み、とりあえず毛布をひっぺがした。
 ――毛布の下で、ウナギがもがいていた。
「…ウ…ウナギですぅ…?」
 ウナギが苦しそうなので、サリーは不思議に思いながらも、水を張ったバケツを持ってきて、その中にウナギを放り込んだ。
「狭くてごめんなさいねぇ」
(それにしても、どうしてウェッソンのベッドにウナギなんか?)
 そんなことを思いながら、サリーはウナギの頭をつんつんとつついた。
「ふう…助かったよサリー」
 突然、ウナギが口をきいた!
「ひょおぉぉぉ!?」
 妙な悲鳴を上げ、サリーは思いっきり後ずさった。
「あ、いや、逃げるな」
「ウッ、ウッ、ウナギが喋ってますぅぅ〜〜!! ミステリーですぅ!! ホラーですぅ〜〜!!!」
「落ち着け! 俺はウェッソンだ!」
 時が止まった。
 実際には止まっていないが、サリーには止まったように感じた。
「…幻覚と幻聴ですねぇ」
 呟いて、サリーは立ち上がりかける。
「あっ、待て! 話を聞け!」
「リアルな幻覚ですねぇ…」
「だから違うって! いいから話を聞いてくれ!」
 ウナギの剣幕に押され、サリーはとりあえず話を聞くことにした。
「それで、なんなんですかぁ?」
「さっきも言ったが、俺はウェッソンなんだ」
「ほうほう…私の知り合いと同名のウナギですぅ」
「だから違うって! 正真正銘、おまえの保護者のウェッソンだ!!」
「…やっぱ幻聴ですぅ」
「堂々巡りじゃないかっ!!」
 このような会話がしばらく続き、お互い疲れ切ってしまった。
「う〜ん…じゃあとりあえず、信じることにしますぅ。で、ウェッソンはどうしてそんな姿にぃ? 誰かに魔法でもかけられたんですかぁ?」
「いや、違う。魔法をかけられたんじゃなくて、魔法が切れたんだ」
「…はいぃ?」
「実は、俺は…『マジカル♪マリンワールド』から来た魔法ウナギなんだ! ちなみに本名はヘォートルと言う」
「テムズさ〜ん、ウェッソン居ないですぅ〜」
「あっ、こら待て行くなっ!!」
 ヒレをパタパタと振りながらサリーを止めたウナギ・ウェッソンは、咳払いをひとつしてから話を続けた。
「毎年、俺が8月4日に行方をくらますのを覚えているだろう?」
「ええ、覚えてますけどぉ?」
「実は…毎年、その日に人間に変身する魔法が切れてしまうんだ。だから一日海に帰らなければならなくて…だが、今年はうっかりそれを忘れていた。それで元の姿に…」
「はぁ〜…と言うことは、あなたは本当にウェッソンなんですかぁ?」
「だからそう言ってるだろう!!」
「だって、ウナギの人相なんてわからないですぅ」
 そう言いながら、サリーはルーペでウナギ・ウェッソンの顔を覗いた。
 すると、バタバタという足音が聞こえ、だんだんと近づいてきた。
「はっ! この音は…」
 その音は部屋のドアの前で止まり、一瞬の間の後に勢いよくドアが開いた。
「サリー! いつまでウェッソン起こしてるのよ!!…あら?」
 入ってきたテムズは、サリーとウナギ・ウェッソンを見て目をぱちくりさせた。
「…ウナギ?」
「テムズさん、聞いてくださいよぉ! 実は…」
「ウェッソン逃げたのね? まあいいわ。とりあえず、このウナギ貰っていいかしら? かば焼きにしたら美味しそうだもの」
 そう言って、テムズはウナギ・ウェッソンに手を伸ばす。

「駄目ですぅ!!」
 サリーはバケツを抱え、首を横に振った。
「な、何よ。ウナギ一匹にそんな…」
「駄目なんですぅ!! これはウェッソン…」
「ウェッソンのウナギなの? だったら、宿代代わりに貰ったっていいじゃない」
「とにかく…駄目なものは駄目なんですぅ〜〜!!」
 バケツを抱えたまま、サリーは部屋から飛び出した。
「あ! サリー! どこ行くのよ!」
 サリーはそのままパブから出て、通りを走った。
「サリー、テムズ川に行ってくれないか?」
「『あの』テムズ川ですかぁ? 何でですぅ?」
「いいから行ってくれ!」
「…わかりましたぁ」
 サリーはそう言って、テムズ川へと向かって走った。
 ――朝の通りを、ウナギ入りのバケツを持って爆走する異様な少女が一人、できあがった。


 朝も早いせいか、テムズ川には誰もいなかった。
「ふぅ…つきましたよウェッソン」
「ああ、ありがとう」
「でも、川で何するんですかぁ?」
 サリーが聞くと、ウナギ・ウェッソンは言いにくそうに下を向いた。
「…正体がばれてしまったら、もう人間界にいることはできない。マジカル♪マリンワールドの掟なんだ」
「ええ!? じゃ、じゃあ、ウェッソン…」
「俺はここから海に帰る。…さよならだ、サリー」
「嫌ですぅ! 帰っちゃ駄目ですぅ! 今日一日テムズさんに捕まらなければいいだけじゃないですかぁ!! なんだったら、私がこの前発見した屋根裏にでも隠してあげますよぉ!!」
「ありがとう…けど、駄目なんだ。俺はウナギだから…元々陸の生活は合わないんだ…」
「そんなぁ! でも…」
「じゃあな」
 そして、ウナギ・ウェッソンはテムズ川に飛び込んだ。
「ウェッソーン!!」
 サリーはウナギ・ウェッソンの作った波紋を見て、その場に座り込んだ。
「そんな…酷いですぅ…」


「ウナギでもなんでも、ウェッソンはウェッソンですぅぅ!!!」
 叫んで、サリーはがばっと跳ね起きた。
「…およ?」
 周りを見ると、そこはテムズ川では無く、フロンティア・パブだった。
「何故俺がウナギなんだ…サリー…?」
 声のした方を向くと、そこには人間のウェッソンが立っていた。
「ああ! ウェッソン! 人間に戻れたんですね! 帰ってきてくれたんですね! さぁ、テムズさんにも事情説明しに行かないと! 来年またこうなったら、ウェッソンは今度こそかば焼きにされちゃいますぅ!」
「…何であたしがウェッソンをかば焼きにしなきゃいけないのよ」
「だって、ウェッソンはマジカル♪マリンワールドから来た魔法ウナギなんでしょう!? 8月4日に魔法が解けてウナギに戻って、テムズ川から海に…!!」
 熱弁をふるうサリーを見て、テムズとウェッソンは顔を見合わせた。
「…あたし、ジェフリー呼んでくるわ」
「ああ、そうしてくれ」
「ウェッソン! もう海に帰っちゃ駄目ですよぉ! ウナギだって構いませんからぁ!」
 そう言って、サリーはウェッソンに抱きついた。
「…なるべく早くな、テムズ」
 その後、テムズに連れられてきたジェフリーは、サリーの話を聞いて爆笑しながら帰っていった。
 げに恐ろしきは、サリーの空想能力である。
 しかし、テムズは密かに、サリーが新たなマジカル☆ガールとなるのではないかと不安に思った。

おしまい



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