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Contributor/黒珈琲さん
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辺境飯店奮闘記
〜Happy Lucky Entrance Another Story"Frontier Pub In China"〜

注意!:この話は辺境紳士殿の日記(旧コンテンツ)を見て勝手に私の思いついた話です。
あまりいらないつっこみをせず単純に別の話として読んでください。



 「魔都」と呼ばれた地
 中華の交易の要所として栄える大商業都市である
 その歴史を紐解けば、異国人の利権のために蹂躙された歴史や、中華で起きた乱の余波が及んだりする事もあった。野心を持ってこの地に足を踏み入れる者達、あるいは成功して財を成し、あるいは夢敗れ、朝の白粥をすすりながら初めてこの地に来た日を思い返すのであった。


 しかしそのような人生とは縁遠く
 それでいて分相応に騒動もあり
 おせじにも治安が良いとはいえないこの都市で
 悪戦苦闘しながら毎日を生き抜く者達がいた
 この話はそんな彼らのとある日の話である


 朝の町が米の糊の匂いに満たされる
 この地の多くの人々は朝食にお粥と油条(あげパンのような物)をとる
 粥というのも普段我々が口にするようなものよりはるかに米の比率が低く長時間火にかけているため、経済的かつ消化にもよい物である。


「ウェッソン! 八番テーブル鶏粥三杯! サリー! 二番テーブル食器下げて机拭いて!」
 やかましく忙しい朝食時
 簡素な作りの飲食店が所狭しと並んでいる小さな通りにその店はあった
 "辺境飯店"飲食店兼木賃宿である
 怒涛の如く押し寄せる注文の嵐をさばきつつ声を張り上げる赤毛の少女、名はテムズ、辺境飯店の若き経営者である。
「テムズさん、二番テーブル空きましたぁ〜」
「テムズ! 油条が切れそうだ、補充を頼む!!」
「サリー! ウェッソンを手伝って! 私はお客さんの相手をするから!」
 危なっかしく仕事を何とかこなす金髪おさげの少女の名はサリー
 厨房の中で薬味を盛り鍋の火を見る黒髪の男はウェッソン
 二人とも辺境飯店の居候である
 宿代のかわりに労働力を提供している


「はい! 二人ともお疲れ様!」
 なんとか客を捌き切って朝のピークを乗り切った
「なぁテムズ・・・なんでこんなにお客が多いんだ?」
 荒くなった息を落ち着かせながらウェッソンはテムズに問う
「何を言ってるの?朝食時が忙しいのは当たり前じゃないの」
 朝の売上を確認しながらテムズは笑顔で答える
「あとは店内の清掃が終わればお昼まで休憩だから頑張って♪」
「テムズさんゴキゲンですねぇ〜」
 疲れきった表情のサリーが掃除にかかる。と、机の下に這わせたモップに何かが引っかかる。
「これは何でしょうかぁ・・・?」
 見ると黒い小さなバッグが落ちていた
「お客さんの忘れ物かしら?」
「少なくともこの三人の持ち物ではないな」


 このバッグがその三人をある事件に巻き込む事になるとはこの時誰にも予想できなかった



 丸い机を囲むようにテムズ、ウェッソン、サリーが座っている。中心には大きさの割にやけに重い黒い小さなバッグ。堅く縛られた口の奥に何があるか、サリーは興味津々な様子だ。それをテムズは心配そうな顔で見ている。
「ちょっと開けて見ましょうかぁ?」
「ダメよサリー、他人の持ち物なんだから」
「でもテムズさん、もしかしたら持ち主の手がかりになるものが出てくるかもしれませんよぉ?」
「どうしてサリーは素直に警察に届けるという選択肢が最初に浮かばないんだ・・・」
「走り出した好奇心を止める事は誰にも出来ないんですぅ・・・フッフッフ」
「結局それか・・・」
「そうじゃなくてもこの街で警察なんて無いも同然ですぅ」
 それもそうか、という顔でウェッソンはため息を吐く。
「それでは開けますよぉ?」
「あっ、ちょっと・・・!」

 中から出てきたもの

 それは焼いた土で出来た人形だった

 一同沈黙

 やがてサリーが口を開く

「これは・・・埴輪ですねぇ・・・」
「ただの人形じゃないのか?」
 ウェッソンの問いにサリーの目が輝く。
「ただの人形だなんてとんでもないですぅ! こう見えて実は未知の力を秘めた神秘の結晶! オーパーツなんですう! 皇帝の陵にも多数の埴輪が・・・」
 拳を振り上げ熱弁を振るうサリー。
「これが、ねえ・・・?」
 興味無しと言った風にテムズが埴輪を小突く
「痛い!」
「・・・!?」
 テムズはぎょっとして顔を上げる
「ウェッソン、あんまり変な冗談すると怒るよ?」
 ウェッソンは両手を上げて首を横に振ってアピールする
 オレじゃない、と
「サリー?」
 サリーも同様に両手を上げて首を横に振りアピールする
 私じゃありませぇん、と
「・・・・・・」
 テムズは視線を落とす
 彼女の手の中で「l・.・l」←こんな様子の埴輪
 表情が強張っているような気がするのは気のせいだろうか?
「さっきから何をしているんだあんたらは?」
 三人が振り向くとそこには菓子箱を持った中国人の青年と、髭面の中年男が立っていた。


「ああ、これは確かに埴輪だけど天子様(皇帝)の墓にあるものとは別物だな」
 彼の名は丁、辺境飯店の常連客の一人である。
「そうなんですかぁ、それじゃあ口から波動砲を発射したり不思議な力で空を飛んだりはしないんですねぇ・・・」
 あまりに突飛な発言にウェッソンは腹を抱えて笑い出した。
「はははっ! それあったら面白いな、もっとも天子様の墓の物もそんなことができるなんて聞いたこと無いけどな」
 丁は子どものように笑いながら埴輪を机に置く。
「それで丁さん、この埴輪の持ち主に心当たりはありませんか?」
「ん? まぁ、うちの客でもそうでなくてもこういう物を欲しがる人間は限られているし」
「それじゃあ知っているんですか?」
「確証は無いが十中八、九その人だろう。まあそれは明日になれば本人に会うからそれはそれとして」
 丁は菓子箱に目をやる。
「月餅饅頭、中秋節だからな。三人で食べてくれ、埴輪は・・・預かっておくか?」
 何か言おうとするサリーを制してテムズが答える。
「そうですね、うちにあっても邪魔なだけですし」
「了解した。また来る」
 黒い小さなバッグに手早く埴輪をしまい、そのまま手を振って去る。髭面の中年男、鄭は不器用だが彼なりに精一杯の笑顔を見せ、三人に小さく頭を下げ丁に付いて行く。
「あ〜・・・」
 行き場を失ったサリーの虫眼鏡は只々宙を彷徨うばかりであった


 その日の昼過ぎ、中間休業中にその男は現れた。
「すみませ〜ん、今朝ここに黒いバッグを忘れたみたいなんスけど・・・」
 金髪巻き毛笑顔のステキな一個好人、テリーがそこに立っていた。その時辺境飯店の店内ではサリーが絶妙に不自然かつ究極的に動きのとり辛い配置に内装を変更していた。テムズとウェッソンは食材の仕入れに出かけていて留守だった。
「・・・何やってるんスか?」
 テリーの質問にサリーの目が輝く、よく輝く目である。
「これはですねぇ、気脈の流れを読み取って商売が繁盛するような机の並びなんですぅ!」
「むしろ入り辛くてお客が減りそうッス・・・」
 毒々しい極彩色のテーブルクロスにテリーは頭痛を覚える。サリーによるとこれも"風水の力ですぅ!"との事だ
「それはいいとして、黒いバッグを無くしたんスけど、嬢ちゃん心当たりはないッスか?」
 サリーは考えた
(はたしてここで素直に答えていいのでしょうかぁ? もしかしたら埴輪を使ってこの世の破滅を目論む悪の手先かもしれませんねぇ。そうだとしたら一大事ですぅ!)
 というわけでシラを切り通す、という結論に達した。
「そうですねぇ、ちょっとわからないですぅ」
 テリーの表情が少し曇る
「そうッスか、それじゃあ邪魔したッス」
「お役に立てなくて残念ですぅ、埴輪見つかるといいですねぇ」
 その言葉を聞いた瞬間、テリーの顔から笑顔が消えた
「中身・・・」
 サリーの顔に恐怖の色が浮かぶ
「・・・あ」
 体がすくんで動けない
「見たんスね・・・?」
 テリーの手がサリーに伸びる
「その男から離れろサリー!!」
 店の外から怒鳴るようなウェッソンの声
 その声に弾かれたように机を思い切りひっくり返す
「え〜〜い!」
「「どわぁ!!?」」
 テリーとウェッソンの声が重なる
 ひっくり返した机は飛び込んできたウェッソンごとテリーの上にのしかかる
「・・・ごっ! ごめんなさぁ〜い!!」

ウェッソンを助けようと手を伸ばすサリー

チクリと、針の刺さる感覚

テリーと目が合う

さっき見た笑顔とは異質の笑み

体の力が抜ける

机の下から這い出そうとするウェッソンの姿

サリーの記憶は

そこで途切れた

「サリー!」
 机の下でもがくウェッソン、テリーはそんな彼を嘲うかのような表情でウェッソンに言葉を吐きかける
「嬢ちゃんは預かったッス!返してほしければ"はにわ"を持ってこの場所に来るッス!」
 そう言って文字の書かれたカードを弾く
「なにっ!? お前の目当ては埴輪か!?」
「埴輪じゃなくって"はにわ"ッス! 確かに伝えたッスよ!」
 机に阻まれて追いつけない・・・!(風水の力ですぅ!)くそっ!
 無様にもがくウェッソンを尻目に、テリーとサリーは魔都の奥深くに消えていった


ひっくり返った机

ドミノ倒しでもしたのかしら?

黄色





なんなのこれは?


ああテムズ

サリーがさらわれた


それは困るわ

サリーの言い分も聞かないと

いったい何のつもりだかわからないじゃない

どうせまたいつもの

"風水ですぅ!"なんだろうけど


サリー・・・

そのまま捕まっていた方が安全かもしれない・・・



テリーの残したカード
魔都に住むものなら誰もが知る場所の名が書かれていた
"九龍城"と

つづく

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