ENTRANCE Radio Drama

原作:「vol4:ウェッソン・ブラウニングのけじめ――銃の重み――」(作:影冥さん)

Arrange & Scenario writer/ひらりまんとさん
《BACK




台本 銃の重み 〜His distinction〜


カチャカチャと音。

テムズ 「ウェッソンウェッソン、ちょっと下に...って。あら。銃の手入れしちゃってるし」
ウェッソン 「いや、もうすぐ終わるが」
テムズ 「急いでね。待たせてるから」
ウェッソン 「客なのか」
テムズ 「ええ、あなたに」

足音が近づく。
コトン

ウェッソン 「そいつは珍しいな」
テムズ 「そうね。外で借金こさえたとか?」
ウェッソン 「いやぁ。ここ最近にそう言う思い出はないが」
テムズ 「昔はあったのね」
ウェッソン 「そりゃあ、まあ俺だっていろいろ...ん? テムズ」
テムズ 「なに。きょろきょろして」
ウェッソン 「ここにあった部品知らないか?」
テムズ 「知るわけないじゃない。今来たばっかりよ?」
ウェッソン 「そうか。ん、どこにやった?」
テムズ 「へえ。こんなかんじになるのね。パズルみたい。これは何の部品?」
ウェッソン 「ああ、それは...というか、今テムズが持ってるのが俺の探してる部品なんだが」
テムズ 「え。ああこれだったの。先に言ってよ」

コトン

ウェッソン 「どうかしたか?」
テムズ 「銃。どんな仕組みなのかなって」
ウェッソン 「知ってどうなるわけでもないだろう?」
テムズ 「まあね。...それ、どれぐらいの付き合いなの?」
ウェッソン 「何がだ?」
テムズ 「それで完成?」
ウェッソン 「ああ」

ガチ、カチン。
ガチ、カチン。

ウェッソン 「こんなものか」
テムズ 「わかるの?」
ウェッソン 「...テムズ。さっきから、一体なにを聞いているんだ」
テムズ 「なにって。それ」
ウェッソン 「銃だな」
テムズ 「だから、その銃との付き合いはいつ頃からなのって聞いてるの。ちょっと、起きてる?」
ウェッソン 「起きてはいるが、付き合い。付き合いか...いつだったかな。少なくとも大戦のときは一緒だったんだが」
テムズ 「なにそれ」
ウェッソン 「いや、何度もなおして貰ったことは覚えてるんだが」
テムズ 「(溜息)ま、いいわ。許してあげる。早く降りてきてね」
ウェッソン 「ああ」

トントントン

ウェッソン 「待たせたみたいだな」
男 「ウェッソン・ブラウニングか」
ウェッソン 「そうだが」
男 「おまえが死神か」
ウェッソン 「死神? さぁな」
男 「調べならつけている。このフロンティアパブの用心棒として半ば居候のように暮らしていると」
ウェッソン 「いや、やっぱり、人違いだろう」
男 「そうかい。じゃあ、同じく居候のサリサタ・ノンテュライトとか言うガキの保護者を自称しているってのも誤解なんだな」
ウェッソン 「サリー?」
男 「そういえば、帰りが遅いようだな。この辺も夜は物騒だ。誘拐でもされてなければいいんだがな」
ウェッソン 「OK。俺がウェッソン・ブラウニングらしい」
男 「そうかい」
ウェッソン 「用件は何だ」
男 「俺と勝負をしろ」
ウェッソン 「何故だ。恨みがあるわけじゃなさそうだが」
男 「俺は死神を殺すためにここに来た」
ウェッソン 「死神、ね」
男 「そう、あんただ」
ウェッソン 「大戦中、ほんの一時期そう呼ばれてたってだけだ。別に嬉しくも何ともないし、その名で俺を呼ぶ奴にはロクな人間がいない。俺はただ、生きるために戦っていた。死にたがりの奴らに死を運んでやるためじゃない」
男 「そんなことはどうでもいいことだ。俺は最強を証明するためにここにいる」
ウェッソン 「サリーに手を出すな。やるかどうかはそれからだ」
男 「だめだ」
ウェッソン 「逃げやしないさ」
男 「だめだな」
ウェッソン 「何故だ。信用してない訳じゃないだろ」
男 「お前は生きるために戦っていたと言った。俺はそういう人間をよく知っている。お前みたいな奴は誰かを護ろうとするとき、本当の強さを見せる」
ウェッソン 「なるほど。一理ある」
男 「俺が勝ったら、サリサタ・ノンテュライトは殺す。嘘だと思うのは勝手だ」
ウェッソン 「やるんだろうな。俺も、お前みたいな人間はよく知っている。...わかった。外にでろ」
ウェッソン 「テムズ。決闘に行ってくる」
テムズ 「(遠くから)晩御飯には帰ってきなさいよ〜」




ウェッソン 「このコインが落ちたら勝負開始だ。落ちる前に動いても負けだ。異存はないな?」
男 「ああ」

風。
コインを弾く音。エコー。
落ちる音。
銃声。

男 「な――」

銃声

男 「ぐ――」

コツコツコツ
カチリ

ウェッソン 「終わりだ」
男 「くそっ」

数秒。
カチャ。コツコツコツ。

男 「な...」
ウェッソン 「勝負が済んだから帰るぞ。晩飯に間に合わん」
男 「何故殺さない!」
男 「殺せ!」
ウェッソン 「お前の命と銃の重みは釣り合わない」
男 「...殺す価値もないということか」
ウェッソン 「二十年――」

コツコツ止まる。

ウェッソン 「二十年経っても銃の重みの意味がわからなかったらまた来い。その時は―」
ウェッソン 「殺してやる」
男 「ひ――」



カランカラン

ウェッソン 「ただいま。」
テムズ 「ウ・ェ・ッ・ソ・ン!!(怒)」
ウェッソン 「ど、どうしたんだテムズ」
テムズ 「どうしたじゃないわよ。一体今何時だと思ってるの。シチューすっかり冷めちゃったじゃない!!」
ウェッソン 「いや、でもほら決闘が」
テムズ 「決闘だか血糖値だか知らないけど、時間になったらちゃんと切り上げて帰ってきなさいよ!」
ウェッソン 「いや、切り上げてってそんな無茶な。それにほら、サリーを人質に」
テムズ 「サリーならもう御飯食べて寝ちゃってるわよ。なにウェッソン、遅れて帰ってきたの謝りもしないでそんな御託ばかり並べるの? へえ、そうなんだ」
ウェッソン 「ひ――」
テムズ 「ひ。じゃないわよ。今日という今日は(以下略)
ウェッソン 「うわあごめんよう(以下略)」

フェードアウト






《Radio ENTRANCE menu