Super short 9

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SIX


 俺の名は「ホールデン・レドウェイト」。誇り高き「王立警察」の一員だ。座右の銘は「捜査は足」。嫌いなものは「アマチュア」だ。
 今、俺は殺人で指名手配中だった男を追って霧雨の降るロンドンの街を走っている。つい今し方まで俺の部下が横を走っていたのだが、途中でリタイアしやがった。まったく、嘆かわしい。「捜査は足」ということをまるでわかっていない。もう一度鍛え直す必要がありそうだ。
 そんなことを考えながら前方を走る犯人を見ると、無理やり上半身を後ろにひねり、銃口を俺に向けてきた。そして…「パンッ!」と発砲した。
 …アマチュアめ。数十メートルも離れ、しかも走りながらの発砲は非常に難しい。そもそも、銃という武器自体、手軽に人を殺せるイメージがあるようだが、たとえしっかり構えたとしても5メートル先の的に当てることすらも難しいのだ。 十発撃って一発当たればいい方だろう。俺か? もちろん俺は全弾命中だ。
 犯人は俺に当たらなかったことを確認すると「チッ!」と舌打ちすると裏路地に逃げ込んだ。本当にこいつには虫酸が走る。俺を誰だと思っているんだ。「王立警察第一捜査室」の「レドウェイト」だぞ。わざわざ袋小路の多い裏路地に逃げ込むなど「追いつめて下さい」と懇願しているようなものだ。なぜかだと? この街で俺の知らない道などないからだ。当然裏道の地図もしっかり頭にはいっている。
 裏路地を暫く走ると、再び「パンッ!」と銃声が響いた。もちろん弾はかすりもしない。まだわからんようだ。だいたい、突入の時も奴は二発も撃ったが、この俺にはかすりもしなかったというのに…。学習するということを知らないようだな。ん? なんだ? 「俺には」の部分が気になるだと? ああ、一緒に走っていてリタイアした根性無しがいただろ。あいつの腕に当たった。運のない奴だな。まったく。
 おや? いつの間にか犯人との距離が随分と縮まっていたようだ。それに、この先を左に曲がれば…。そう思い俺は転がっているゴミを派手に蹴り上げた。犯人はそのゴミから逃げるように左の路地へと逃げた。そして、絶望しただろう。そう、そこは袋小路なのだ。
「くっ、来るんじゃねー!」
 追いつめられた犯人の男は右手で銃を構え、銃口を俺に向ける。俺は怒りがこみ上げてくるのを感じていた。
 片手でこの俺をしとめるつもりか?
「ふざけるなっ!」
 知らずと口から怒声がほとばしった。
「貴様! そんな構えでこの俺に当てようってのか!」
 一歩進む。
 パンッ!
 と、乾いた音が響いた。
 俺の思ったとおり、片手で銃身を支えていたために反動でわずかに銃口が上を向く。俺にはそれで十分だった。首をちょいと横に傾けるだけで、俺の横を弾が通過するのを感じることができた。
「ひっ!」
 犯人が一歩下がる。俺は二歩進む。
「馬鹿がっ! 銃ってのはお前らが想像する以上に反動があるんだ! しっかり両手で支えんかっ!」
 俺の声に押されるように犯人が
「こ、こうか?」
 と構え直す。いささか気に入らない構えだが前よりはマシだろう。更に、一歩進む。
「そうだ、それになんだ、その足は!」
「えっ? え?」
 犯人は自分の両足を見たが、いったいどこを注意されているのかわからないようだ。
「反動に耐えるようにしっかり軸足で踏ん張らんか!」
 一歩進む。
「あ、ああ」
 犯人は左足を下げると、しっかりと踏ん張り、姿勢を整える。
「そうだ。それでいい。試しにそこの空きビンを撃ってみろ」
 そう言って、俺は右前方にある木箱上の空きビンを指し示した。犯人からは3メートルほどの距離だ。一歩進む。あと、4メートル。
「ああ」
 男はうなずき、「パンッ!」と発砲する。ビンは音が俺に届くと同時に粉々に砕け散った。俺は頷くと
「まあ、いいだろう」
 と言って、更に一歩進んだ。間合いに入った。
「あっ! う、動くなっ!」
 ちっ、気づきやがった。しっかりと構えた六連装のリボルバーが俺の眉間を狙っていた。
「か、感謝するぜ。あんたのおかげで、今度はもう外さねぇ自信がある」
 そう言う犯人の構えは完璧だった。うちの部下に見せてやりたいほどだった。

「構えは完璧になったようだな…」
 俺は冷ややかに犯人を見ると、駆け寄るべく大きく左足を踏み出した。
 パンッ!
 乾いた銃声が鳴り響いた。
 いや、鳴り響くはずだったのだろう。
 少なくとも犯人には。
 だが、その音は響くことがなかった。代わりに響いたのは「ゴキッ」っという腕の骨が折れる音と「弾切れだ。アマチュアめ!」と言う俺のつぶやきだけだった。 


FIN

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