The another adventure of FRONTIERPUB 48

Original Image/辺境紳士
Contributor/影冥さん
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テムズとサリーの大冒険


 昼下がりのフロンティア・パブ。いつもならば昼食後の一休み……となるはずだったが、その日は様子が違っていた。
「うわーん」
 子供の泣き声だ。それもかなり気合いの入ったモノ。
「ああ、ほら、泣かないで」
 その子供を、疲れ顔のテムズがなだめていた。その周囲では我関せずを決め込んだウェッソンがグラスを磨き、「事件ですぅ」などと虚空を仰ぎつつ呟くサリーの姿。
「えぐっ……」
 テムズの苦労の甲斐あってか、ようやく子供も落ち着いてきたらしい。テムズのエプロンを握りしめて鼻を鳴らしている。
「服装は白いワンピースに緑色のリボンでぇ、靴は赤で荷物はなし……」
 一息つくテムズの横で、サリーが子供の特徴をメモしている。ウェッソンはやはりグラスを磨き続けていた。
「それで、どうしたの? お母さんとはぐれちゃったの?」
 テムズが優しい声で子供に話しかけた。その声音に安心したのだろう、子供はたどたどしくも説明を始めた。
「あのね、お母さんがね、黒い人とね、ちょっと待ってなさいってゆってね、すぐね、もどってくるからってゆってね。すぐ……うぇっ」
 話している間に悲しくなったのだろう。また泣き出しそうになる子供を、テムズはそぅっと抱きしめた。
「大丈夫だから、ね。そうだ、お名前聞いてなかったね。なんてお名前なの」
「あのね、えぐっ……ユマね、ユマってゆーの」
「ユマちゃんか。お姉ちゃんはテムズっていうの」
「テムズおねえちゃん?」
「そう。テムズおねえちゃん。それで、こっちの子がサリーっていう名前で、あっちのはウェッソンっていうの」
 テムズの示すとおりに頭を巡らしたユマは、ウェッソンにたどり着いたときに顔を輝かせた。
「あれ、ウェってゆーの?」
 ユマの言葉に、テムズはクスリと笑って答える。
「そう。ウェっていうの」
 当のウェッソンは渋い顔をしているが、子供の笑顔のためには当然の犠牲だ。
「さあ、テムズさん。さっそく探しに行くですぅ」
「は?」
「は? じゃないですぅ。ユマちゃんのお母さんを探しに行くんですぅ! それとも、このままで良いと言う気ですかぁ?」
「おかあさん連れてきてくれるの?」
 サリーの言っていることが理解できたのだろう。ユマは期待に満ちた眼でテムズを見上げた。
「う、わ、わかったわよ。探しに行けば良いんでしょ」
「さすがテムズさんですぅ」
「でも、ユマちゃんはどうするの? 連れて行くの?」
「ユマね、お母さんがね、良い子はゆうこと聞くのよってゆってたから、お母さんがね、待ってなさいってゆったからね、ウェとここで待ってるの」
 ユマの発言に、店の奥でウェッソンが「うげ」などと奇声を発したが、テムズは気にしないことにした。
「じゃあ、ユマちゃんはウェとお留守番お願いね」
「うん。ユマ、ウェとお留守番するの」
 ユマは力一杯肯いた。


「それで、これからどうするのよ?」
 テムズの疑問に、サリーは自信一杯に答える。
「もちろん、聞き込み調査から始めますぅ!」
「……今晩、店を開けられるかしら」
 テムズはぐったりとした表情で呟いた。
「さぁて、まずは、おじいちゃんのところに行きましょう」
「おじいちゃんて、ネルソンさん? ネルソンさんの家だと距離的に聞き込みにならないわよ?」
「大丈夫ですぅ。名探偵を信じるのでぇす」
 サリーの言葉に、テムズは必要以上に不安を感じながらもネルソン翁の家へと向かった。
 ネルソン翁は妻と一緒に庭でお茶を愉しんでいた。テムズとサリーというお客に、二人揃って顔を輝かせる。
「おやおや、サリーちゃんにテムズさんまで。いらっしゃい、よく来たのぅ」
「こんにちは」
「遊びに来たですぅ」
 挨拶を返した二人に、ネルソン翁は「ほっほっほっ」と好々爺の笑いを浮かべる。
「さ、ばあさんや、二人にお茶だ」
「はいはい」
「え、いや、あの……」
 とまどうテムズを気にする様子もなく、サリーはさも当然という表情で席に着いた。
「さぁさぁ、テムズさんも遠慮しないでお座りなさい」
 カップを持ってきた老婆が微笑みながら背をそっと押すと、テムズは素直に席に着いた。
「おじいちゃん、今日は聞きたいことがるんですぅ」
 一息ついたところで、サリーがそう言って切り出した。
「聞きたいこととな?」
「実は今日、ユマちゃんって言う迷子がパブにやってきたんですぅ」
 それから、たまに脱線するサリーの説明をネルソン翁はゆったりと肯きながら聞いた後、妻に肯いて見せた。老婆も肯きを返すと、そっと席を立つ。
「なるほどのぅ。そのお母さんを捜してあげたいとは、さすが名探偵じゃ」
「えへへ、照れるですぅ」
 ネルソン翁が「ほっほっほっ」と笑っている間に、老婆が戻ってきた。そして、微笑みながら告げる。
「ユマちゃんのお母さんは、ちょっと遠くにいるみたいねぇ」
「へ?」
 突然の情報に驚くテムズだったが、サリーはやはりさも当然という顔で肯いて見せた。
「なるほどぉ。今回の件はちとやっかいなことになりそうですぅ」
「ほっほっほっ。がんばるんじゃぞ、サリーちゃん。いや、名探偵サリー」
「もちろん、名探偵の名に恥じない活躍をして見せますぅ!」
 サリーは老婆から何やらメモを受け取ると立ち上がった。
「さ、テムズさん、行きましょぅ!」
「え? あ、ああ、うん。――ごちそうさまでした」
 引っ張られながらも頭を下げるテムズに、ネルソン翁とその妻は微笑みと共に肯いて見送った。


 二人はとりあえずフロンティア・パブに戻って来ていた。
「なるほどな。それで、どうするんだ?」
 テムズの話を聞いて、眠ったユマを抱えたウェッソンが訊く。
「もちろん、探しに行きますぅ!」
 宣言するサリーの勢いに、テムズは深いため息をついた。
「ウェッソンは……懐かれてるみたいねぇ」
「理由は分からないがな」
 複雑な表情で肯くウェッソンに、テムズはまたひとつ深いため息。
「明日は臨時休業ね……」
 そう言って、一番大きなため息をついた。


 ピー!
 駅に汽笛の音が響き渡る。
「ほら、サリー。いつまで駅弁を食べてるのよ。……というか、そもそもどこで買ったのよ、駅弁なんか?」
「テムズさん、そーゆー時代考証はしないのがお約束ですよぅ」
 裏の話を展開したことに気づいたテムズが、ため息をついた。そして、ため息をついてばかりだということに思い至り、ため息をつく。
「さあ、イラストの一コマ埋めたところで出発ですぅ」
「だから、裏の話は止めなさいって」
 テムズはため息をついた。
「あ、このコマだけ余所行きの服なんですねぇ。汽車の中で着替えるんですかぁ?」
 テムズはもう何も言えることもなく、ゾンビのようにのろのろと汽車へと乗り込んだ。


 目的の駅で汽車から降りる。テムズはもともと旅行に出かけることがないため、新鮮な気持ちで周りを見回した。
「それで、これからどうするのよ?」
「情報収集ですぅ」
「……また?」
「情報は探偵の命ですぅ。さぁ、ちゃきちゃき行きましょぉ!」
 サリーは宣言すると、自信満々に歩き出した。初めての街なのに。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 そのサリーをテムズがあわてて追いかける。
「それで、まずはどこに行くわけ?」
 テムズの質問に、「ふっふっふ」と含み笑いをするサリー。
「情報という物は、酒場に集まる物ですぅ」
「そういう……もの?」
 テムズは実体験から考えてみた。仕事の愚痴、近所のうわさ話、王立競馬場の馬評……情報と言えなくもないか。
「それで、どの酒場に行くのよ?」
「あそこですぅ」
 そう言ってサリーが指したのは一見の何の変哲もないパブだ。
「……普通のお店ね」
「ふっふっふ。一般人には普通のお店でしょうねぇ」
 サリーのそこはかとない優越感を含んだ言葉。
「え? それってどういう意味?」
「ふっふっふ」
 サリーは質問に答えずにパブへと入っていった。テムズも釈然としないながらも後に続く。
 そのパブには、まだ時間が早いのか、他の客の姿はなかった。暇そうにしていた店主が、カウンターの向こうからぼんやりとした視線を向けてくる。
「やあ、いらっしゃい」
 サリーはカウンターまで近づくと、メモ帳を取り出し、そこに目をやりながら言う。
「『やあ、マスター。黒ビールとヴァイツェンのハーフ&ハーフを。ライムを添えて』」
 かなり棒読みだ。だが、それでも意味は通じたらしい。
「おっと、お客さん、うちじゃあヴァイツェンなんて扱ってないんだがね」
「『そいつは残念だ。私はこの辺に住んで居るんだが、扱っている場所を知らないか?』」
「そうさな、ちょいと気むずかしい男が店主だが、扱っている店なら知っている」
「『気むずかしいのは苦手だが、仕方ないな。一つ紹介状を書いてくれ』」
「ほらよ。ただし、酔いすぎて暴れないようにな」
 サリーは紙切れを受け取ると、テムズの前に戻ってきた。
「さ、次の場所ですぅ」
「――って、サリー。何よ、今のやりとり!?」
「探偵としては基本ですぅ!」
 胸を張って言うサリーに、テムズはちょっぴり不安になった。
「あのね、サリー?」
「はい?」
「あんまり、危ないことしちゃだめよ?」
「大丈夫ですよぅ。何せ名探偵ですからぁ!」
「サリー」
 そのときのテムズの表情を見たサリーは、ちょっと反省した顔をした。
「……わかりましたぁ。気をつけますぅ」
「うん。ホントに気をつけなさいね」
「と、いうことで、早速行きましょぅ!」
「はいはい」


 そこは裏路地の一角が入り口だった。一見、何の変哲もない民家の扉を叩くと、寝起きのような表情の男が出てきた。
「何の用だい、お嬢ちゃん?」
 サリーが無言で紹介状を手渡すと、男の表情は驚いたものへと変わった。
「へぇ、お嬢ちゃんもこんなところに用があるのか。……ま、紹介状がある以上、お客には違いないか。入んな」
 家の中はやはり普通の民家だったが、男はクローゼットを指しながら言う。
「そこが入り口だ。出るときは別の場所になるから、迷わないようにな」
「迷うって、どういうことです?」
 テムズに疑問に、男は意地悪く笑う。
「あんたは何も知らないのか。ま、行ってみてのお楽しみさ」
 クローゼットの扉を開けると、そこには地下へとのびる階段があった。ひんやりとした風が緩やかに吹き上がってくる。
「暗いからそこにかかってるカンテラを使いな。そんじゃま、ごゆっくり」
 そう、男に見送られ、テムズとサリーは地下へと下りていった。
 階段はそれほど長くはなかった。すぐに平坦な道となり、歩く。
「ここ、なんなの?」
「ここは、この国最大の裏カジノらしいですぅ」
「裏カジノ?」
「はい。と言っても、ほぼ公認だそうですけどぉ。一応、入るには紹介とかが必要らしいですねぇ」
「ふーん」
 テムズはサリーの言葉が伝聞調なのが気になったが、とりあえず追求しないことにした。
 やがて扉にたどり着いた。扉を開くと、いままでの暗い道に華やかな光が漏れ出す。
「いらっしゃいませ」
 そこは煌びやかな光の満ちたカジノだった。そして、きちんとした格好のボーイが二人を迎える。
「二名様でいらっしゃいますね。ここでは正装をして頂くことになっているので、あちらで衣装を借りて、着替えて頂けますか?」
「はい。わかりましたぁ」
 ボーイの案内に従って別室に通されると、そこには様々な衣装があった。
「へぇ……」
 その光景にテムズは心を奪われた。普段はおしゃれとはちょっと遠い生活をしているが、興味がないわけではない。
「それじゃぁ……テムズさんはこれを着て下さい」
 サリーが選んだ衣装をテムズに渡す。それは、どう見てもサリーが小脇に抱えるドレスとは異質の物だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どうしてあたしがこんな物を着なきゃいけないのよ!」
「テムズさんには給仕のふりをして情報を集めてもらいたいんですぅ。普段からやっていることですからぁ、楽勝ですよねぇ?」
 悪気のない顔で言うサリー。
「いや、でも――」
「ユマちゃんのためにガンバリましょぅ!」
 何ら含みのないサリーの言葉に、テムズは負けた。
「……わかったわよ着れば良いんでしょ、着れば」
 そうしてサリーはドレス姿――衣装負けしない、なかなかに立派な姿だった――になり、テムズはバニーガールとなって情報収集を始めた――
「って、ユマちゃんのお母さんの姿も分からないのに、どうやって情報を探せってのよ」
 テムズは、これといってアイディアもでなかったので、とりあえずカジノの中をうろうろすることにした。普段の癖で無意識に給仕をしながら。
「テムズさん、ばっちりですよぅ」
 そうこうしていると、サリーが声をかけてきた。
「え?」
「情報収集は完了ですぅ。次に行きましょぅ」
「・・・・・・ね、ねぇ。どうやって顔も分からない人の情報を集めたの?」
 テムズの質問に、サリーはにやりとニヒルな――本人はそう思っている――笑みを浮かべた。
「キギョーヒミツですぅ」


 日も沈み、街頭が道を照らす中、二人は歩いていた。歩きながら、テムズは嫌な予感がして神妙な顔つきで訊く。
「ねぇ、サリー」
「はい?」
「どうして、こんな格好をしなきゃいけないわけ?」
 二人は、黒コートに山高帽、黒メガネという格好になっていた。夜にサングラスはかなり危ない。
「これから向かうところは組織の証を身につけていなければいけないからですぅ」
「……なによ、組織の証って?」
「この黒メガネですよぅ」
「じゃあ、この服装は?」
「雰囲気ですぅ。……決して、イラストの一コマを埋めるための物ではないですよ?」
 思わずサリーから漏れだした本音に、テムズはため息をついた。
「……やっぱり、そうなのね」
 目的地はごく普通の宿だった。人当たりの良さそうなおじさんが、テムズたちを出迎える。
「いらっしゃ――その黒メガネは!?」
「例の二人は?」
 サリーが渋い――と本人だけが思っている――声音で訊く。おじさんは渋々答えた。
「……203号室です。暴れないで下さいよ?」
「わかっているさ。ですぅ」
 何の組織なのかしら。と、テムズは思ったが、口に出すのは止めた。訊いたところで、また伝聞調の答えが返ってくるだろう。
 二人は階段を上――
「にゃっ――」
 ろうとして、サリーが派手につまずいた。薄暗い階段を忌々しげに見た後、おもむろに黒メガネを床にたたきつける。
「こんなのつけてたら見えにくいんですぅ!」
「今キレるの!?」
 思わずつっこみを入れたテムズだったが、どうやら黒装備はもう必要ないようなので脱ぎ捨てた。コートの下からはいつもの服装が顔を出す。
「ここですねぇ」
 二人は203号室にたどりついた。サリーが扉を開けようとして――鍵がかかっている。
「……テムズさん」
「どうしたの?」
「蹴り開けて下さいぃ」
「え? 鍵でもかかってるの? それなら、合い鍵でも借りて――」
「急がなきゃいけないんですぅ! それに、クライマックスだからアクションの一つも入れなきゃいけませぇん!」
 裏話の大盤振る舞いな今回のサリーに、テムズはため息をついた。
「わかったわよ。やればいいんでしょ」
 テムズはひゅっ、と、一瞬の呼気と共に蹴りを放つ。扉はダァンと派手な音を立てて開いた。
「ま、こんなものね」
 そして、部屋の中には、ちょっと着飾った男女が驚いた顔をして立っていた。
「ズバリ! 今回の犯人はあなたですぅ!」
「ええー!?」
 突然、男の方を指さして叫んだサリーに、その場にいた全員が驚愕した。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。なんですか、犯人って!」
 男が当然の抗議の声を上げた。
「もちろん、ユマちゃんのお母さん誘拐事件の犯人ですぅ。そちらの人がユマちゃんのお母さんと言うことはすでに判明してますぅ!」
 テムズは女の方を見た。なるほど、たしかに似ている。だが、男の方も――
「……あの、僕、ユマの父親なんですが」
「は? ……いやいや、そんな嘘にはだまされませぇん!」
「あの、確かに、この人は私の夫です」
 お母さんの証言も出た。
「え? え? でもぉ、そんなはずは……」
 テムズは呆然とするサリーに替わって、事情を聞いた。
「つまり、二人の結婚記念日を中心に何日か二人っきりになりたくて、ユマちゃんを親戚に預けて外出したと。……じゃあ、ユマちゃんがお父さんのことを黒い人って言ってたのは何でかしら?」
「ああ。それは僕の仕事のせいですね。僕はバーテンダーの仕事をしてるんですが、仕事の時間のせいであまり顔を合わせられなくて、ユマに顔をちゃんと覚えてもらっていないみたいなんです。そのせいで、今みたいに普段と違う格好をすると、初めて見る人扱いされるんですよね」
 そう言ってお父さんは苦笑した。
「それじゃあ、ユマちゃんがウチの店にいたのは?」
「ユマはよく迷子になる子ですの。いつもならすぐに私が迎えに行くんですけど、今回は……」
 そう言ってお母さんは困ったような表情になった。
「なるほど。これで一件落着みたいね」
 テムズは一息つくとサリーを見た。まだ呆然としている。
「それじゃあ、あたしたちはこれで帰りますが、なるべく早く迎えに来てあげて下さいね」
「はい。支度が終わり次第、僕たちも戻ります」
 テムズはお父さんの返事に肯くと、呆然としたままのサリーを引きずりながら宿を出た。そのまま、ちょうど良い時間の汽車に乗り、家路につく。


「ほら、サリーもう着くわよ。いい加減にしっかりしなさい。事件じゃなかったけど、ユマちゃんのお母さんは見つかったじゃない」
「……そう、ですぅ。ユマちゃん迷子事件は見事解決してるじゃないですかぁ! さすが名探偵サリーですぅ!」
「はいはい」
 ようやく立ち直ったサリーと一緒に、テムズはパブの扉を開けた。
「ただいま――あああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」
 二人はそこで信じられない光景を目にした。
 ウェッソンが。
 ユマのおでこに。
 チューをしていたのだ!
「なにやってるのよ、この変態!」
「待て誤解ぎゃー!!」
 それからまたいつものひと騒動が待ち受けていた。



 後日。
「いや、だからな、ユマはいつも親父におやすみのキスをしてもらっていたそうでな。キスをしないと眠れないって言うから、仕方なく――」
「……ウェッソンは変態だったんですねぇ」
「おい、人の話を――」
 ここ数日間続けられる問答を聞きながら、ウェッソンが懐かれた理由に思い至り、テムズはひとり納得していた。





おしまい



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