The another adventure of FRONTIERPUB 47

Contributor/哲学さん
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 それは一つの巻物から始まる壮大な話。
 果てなき運命の行く末の先に人は何を見るのか。
 今語ろう、その真実を――。



果てしなき道
Lesson5  a word is enough to the wise




 その日、彼はふらふらと道を歩いていた。
 うだつの上がらない、いかにも人生に疲れた顔をして青髪の青年――ウェッソンは天に向かってうそぶく。
「………………」
 と、思ったが結局声は出ず、ただ唇が微かに動いただけだった。


 ――そして運命は無情にも彼を呼び止める。


「ああ、危ない!!」
 遠くから女性の声。
 青年はちらりと後ろに首をまわしかけ――豪速で通り過ぎていく包丁を目の当たりにした。
「――――――」
 振り向くのをやめ、前を見てみると包丁がビィィィィンと揺れている。壁に刺さりながら。
「…………」
 振り向くとゴロツキが5人、女性を囲み、ニタニタと笑っている。
「お願いです! 助けて下さい!」
 勤勉なゴロツキ達は今日も女性に悲鳴を上げさせるという仕事を律儀にこなしているらしい。
 ふと、青年は思った。
 ――今の包丁は誰が投げたんだろう。
 もっとも、それはどうでもいいことだった。
 ふらふらと青年はごろつき達の元へと歩いていく。
「オーオー兄ちゃんよ、ナイト気取り……」

 ゴス・ゴス・ゴス・ゴス・ゴス

 数分でごろつき達を無力化する青年。
「あ、ありがとうございます! あの、お名前は!?」
「名乗るのも面倒い」
 ふぁ、と青年はあくびした。だが、それに構わず助けられた少女は話し始める。
 ――その恐るべき物語を。
「あ、あの」
 ややどもりながら。
「じっ、実はこれには深いわけがあって、ですね。私の祖父の甥の友人の曾孫の……」
 だが、その頃には既に、青年は通りの向こうをフラフラと歩いていた。
「サリーの奴どこにいったんだか」




 その女性はいつも通り店を綺麗に清掃していた。
 赤い長髪をわずかに揺らし、てきぱきと店内にモップかけを行う。フロンティアパブの店主、テムズである。
 今日は日曜日。
 一番の稼ぎ時である。
 場末の宿屋であったここも、今では少しずつ活気を取り戻してきている。
 いいことが続いている、そんな確信が彼女にはあった。


 ――狂った歯車が怪しき運命を解き放つ。


 と、その時彼女は何か悪い予感がした。
 無意識に腕を背後に振り上げると、彼女に向かって飛んできた何かが撃墜された。
「ああ、危ない!!」
 遅れてきた声をききながら、その飛来した物体を見ると、それは赤ん坊ほどの大きさのある鉄球だった。
 その鉄球は愛想良く地面にめり込んでいる。
「ははは、嬢ちゃんよ。もうにげられんぞ」
 彼女は振り向かない。
 ただめり込んだ酒場の床を見つめていた。
「お願いです! やめて下さい! 私には大事な使命が!」
 巻き起こる悲鳴とともに一人の少女が宿に駆け込んでくる。
「…………」
 ゴロツキがテーブルを蹴り飛ばす。
「…………」
 悲鳴。
「…………」
 女性はテーブルを見ていた。
「…………」
 ゴロツキが椅子を片手にもち、床にたたきつける。
「…………」
 椅子は壊れた。悲鳴も起きる。
「…………」
 女性は椅子を見ていた。
「えーと、すいません、そこの赤髪の人聞いてますか?」
 無論、聞いていた。
「あんた達ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!そこにちょっとならばんきゃぁぁぁぁぁぁい!」
 鮮血の悪魔が宿を走り、次から次へとゴロツキを薙ぎ倒していく。
 その様はまさに悪鬼羅刹がごとし。
 50人目の意識がなくなったところで彼女はそれを全員たたき起こして店の前で正座させた。
「あ、ありがとうございます! 実はこれには……」
「あんたも原因ね! そこに直りなさい!!」
 女性は聞かない。
「えーと、だから、その、私には使……」
 彼女は冷静だった。いや、そう見えただけかも知れない。
「――ここで大人しく座るのと、ボコボコにされるのどっちがいいかしら?」
 完全に目が据わっている。
「……すいません、ごめんなさい、もうしません」
 そして、ゴロツキ50人と一人の少女は数時間の説教と宿の修繕を余儀なくされた。




 ――そろそろ運命も始まりたいと思い始めた。




 その少女は黄色い二つのおさげをゆらしながら、元気良く道を歩いていた。
「はー今日は何か事件が起きそうな日ですね」

 ――その言葉を待っていた。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 とてつもない震動が道を揺るがす。
「な、なんですか!」
 振りかえると砂煙を立てて大人数のゴロツキが少女――サリーの方に向かっていた。
 彼女の推理によればそれは500人である。間違いない。
「た、たすけてー!!」
 よく見るとそのごろつき達の先頭を自分と同い歳くらいの少女がすごい勢いで逃げている。
 サリーは考えた。
 何故こんな事になったのか。
 考えた。
 考えた。
 考えた。
「分かりました!!!!!」
『ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛』
 ゴロツキと少女は一斉に叫ぶ。
「犯人はそのゴロツキさん達の72番目で口癖がウイッス、な人が血縁のもつれで起こした財宝による国家機密っぽくて世界を揺るがすような事件が実はただの愛故の過ちだったんですねぇ!」
「なぜそれをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」
 72番目のゴロツキが頭を抱えて倒れる。
「事件の発端となったこの巻物は私が預かりますぅ。もう悪さしちゃダメですよぉ」
「ウイッス、わたしはただ彼女に笑って欲しかったんですウイッス」
 オーイオイオイ、とむせび泣くゴロツキ。
 その後ろでは499人のゴロツキが楽しそうにラッパを吹いていた。
「ゼーハー……えーとあーと、ゼーハー、その……ゼーハー、………………ゼーハー…………ありがとうございますです」
 逃げていた少女がゼーハーゼーハー言いながら悔しげに言う。
「ふ、あなたの考えもお見通しですぅ!」
「え?!」
「ずばり、すごい事件に巻き込まれ、解決した後に自伝を書いてそれがベストセラーになって老後は左うちわで楽をするつもりだったですぅ!!」
「そ、そんなー!! 何故それを!!」
 こうして全ての事件は見事に解決した。


 ――ちなみに。


「で、この巻物にはなんて書いてたんでしょぉ?」
 サリーはぴらりと巻物をめくる。
 少女は思った。チャンスである。そこに書いてある古文書を解読するためにこの人が奔走するかも――。
「中国語ですねぇ」
「読めるの?!」
「えーとなになに、『事実を如実に忠実に史実として、着実に記録していくことが真実を確実に結実させる』――あははー、早口言葉見たいですぅ」
 考えに考えた伏線を馬鹿にされ、少女はやや表情を強ばらせる。
「でも、それには隠された――」
「ずばり、『実』を抜いて並び替えるんですぅ。つまり、『史(ふみ)ノ事(こと)ハ忠(まごころ)ガ如クハ確カニ真ノ決着』ですぅ」
ピシシ
 今後こそ少女は固まる。
「そ、そんな――」
「でも、これ文法がメチャメチャすぎるから暗号としては3流ですぅ。でなおしてきなさいですぅ」
「うう、負けたわ。……完全に負けたわ」
 こうしてサリーの名推理により全ての謎もまた終了した。




 そして、数日の月日が流れた。
「えーと、ジジツヲニョジツニチュウジチュ……」
「はい、ウェッソンの負けですー」
「あー俺は早口言葉とか苦手なんだよ」
 くしゃくしゃと髪をかきながらウェッソンはため息をついた。
 しばらく彼はサリーの見つけた「難事件の置き土産」に悩まされることとなる。




 なんにしても、真に強き人は運命に立ち向かう力をいつだって持っているのだ。
 ――では、そうでないものはどうなるのだろうか?





「きゃぁぁぁたすけて!!」
 港に響き渡る少女の悲鳴。
「いくぞ、テリー! ロマンの匂いだ!!」
「ガッテンです、アニキィ!」
 次々に五千人のゴロツキを薙ぎ倒していく二人の船乗り。
 幾多の海を乗り越えた船乗りコンビに敵などない。
 そんな二人を見つめながら、襲われていた少女はくすり、と嬉しそうに笑った。
 運命はここから始まる――。





おしまい



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