The another adventure of FRONTIERPUB 35(Introduction)

contributor/ねずみのママさん
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宵闇の訪問者



 ほとんど日が暮れかかっていた。薄暗くなった部屋の中で、男は椅子に座ったままだった。顔には、深い皺がきざまれている。元は黒々としていた髪は、半分ほどが白くなり、灰色の瞳には暗い陰がさしている。それはかならずしも年齢のせいばかりではなかった。
 きょうもまたこうして日が暮れていく。無為な一日が終わっていく。
 この一ヶ月あまり、彼はただ生きているだけだった。心の中はいまだ悲しみと絶望で満ちていたが、そのなかにゆっくりと、しずかに入り込んできたのは、諦めだろうか。あるいは、悟りだろうか。
 長いこと離れていた祖国にようやく帰ることができたのは、二か月前。不可抗力とはいえ、十年以上、親兄弟とも音信不通になってしまっていた。そして彼女とも――。昔どおりの関係に戻ることを期待していたわけではなかった。ただ、誰か他の男と幸せに暮らしている姿を一目でも見ることができれば、少しは自分の心が救われるのではないかと思ったのだ――後悔が完全に消えることはなくても。ところが、結果はまるで逆になってしまった。彼女への愛が大きかった分、彼の罪悪感もまた絶望的なほどに大きなものになってしまったのだ。彼女は……彼女は――。
 いっそう闇が深くなってきた。男はようやく立ち上がり、燭台のろうそくに火をつけた。窓にぼんやりと自分の顔が映っているのを見る。幽霊のように生気のない、無表情な顔。
 静けさを破ったのはドアをノックする音だった。男は一瞬身を硬直させた。それから気持ちを落ちつかせ、燭台を持ってドアの前まで行き、訪問者を確認しようとした。
 細めに開いたドアのむこうを見て、彼は一瞬、死神が迎えに来たのかと本気で思った。しかしそうではないようだ。ドッペルゲンガーかもしれない――自分とよく似た背格好の、黒髪の男が立っていたからだ。
 ドッペルゲンガーは彼の名を呼んだ。
「レナード」
 その声に敵意ではなく親しみが込められているのを知り、男は少し安心した。
「久しぶりだが、きっとわからないだろうな。俺は――」
 彼はしかし、なぜかすぐにわかったのだ。訪問者が――ドッペルゲンガーなどではない――いったい誰なのか。彼はドアを大きく開いて客を迎え入れた。
「お前か……ウェッソン」


主節へつづく


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