The another adventure of FRONTIERPUB 25(Part 2)

Tip of basis/哲学さん
Contributor/影冥さん
《Part:1
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究極と至高の名のもとに 〜ただ一欠片の輝き〜 (後編)


 夕日が沈む中、ウェッソンたちは目的の島にたどり着いていた。
 見た限りではごく普通の無人島だった。それほど広くもなく、中心部は森になっている。海に接している面はほとんどが砂浜になっていて、ほんのすこしだけが船のマストの頂点と同程度の高さの崖を作っていた。
「ここか……」
 船の舳先でウェッソンが感慨深げに呟いた。潮風が彼の頬を撫で、吹きぬける。
「上陸の準備ができたデース。良かったらキャンプの準備を手伝ってくだサーイ」
 ニキーが声をかけてきた。
「ああ、わかった」
 船から下りたウェッソンにリテーが言う。
「森の近くにテントをはってくだサーイ。ワタシタチは食事の準備をしマース」
 踊るような動きで船に乗り込むリテーを見届けると、ウェッソンは森の木々を見上げた。
「さて、さっさと準備を済ませるか」


「アニキ、うまくいったっスね」
「まあな。昔のつてを使ったかいがあった。さ、テリーさっさと行くぞ」
「へい」
 アニキとテリーの二人は食料を見繕うと、船倉を出た。


 次の日、ウェッソンたちは朝早くから宝の在り処へと向かっていた。先日の夜の内に場所は地図で確認してある。森のほぼ中央にあるらしい洞窟が隠し場所らしい。
「ここか……」
 それほど歩かないうちに、ウェッソンたちの前には洞窟が姿をあらわしていた。二つ。
「二つありますぅ」
「二つデース」
 サリーの言葉にニキーが頷いた。リテーは相変わらず奇妙な踊りを踊っている。
「『異国より来たものは黄金の洞窟に帰る』……? どういうことだ?」
 洞窟の周りを探ったウェッソンは二つの洞窟の間に刻まれた文字を見つけた。
「な、謎ですねぇ! なんだかずいぶん久しぶりの気がしますぅ!」
「「謎デース」」
 はしゃぐサリーとそれにあわせるニキー&リテー。その間にもウェッソンは冷静に推理をしていた。
「異国で黄金というと東だろうな。だとすれば東側にある洞窟が黄金の洞窟ということか。そして黄金といえば宝。だとすればやはり……」
 ウェッソンは東側の洞窟に目を向けた。見た目はごく普通の天然の洞窟のようだが、中もそうだとは限らない。
「よし、行くぞサリー。こっちだ!」
「ズバリ、お宝はこっちですぅー! 突入ですぅー!」
「「突入デース!」」 
 ウェッソンが洞窟を選んだとき、サリーはすでにニキー&リテーを従えて突入していた。西の洞窟に。
「おい、サリー!」
 ウェッソンはサリーたちを追いかけようと西側の洞窟に踏み込んだ。と、同時に、
「うきゃぁーーー!!」
 サリーの悲鳴。
「どうした、サリー!」
 ウェッソンは急いで明かりをつけ、かざした。そしてサリーは――ほんの少し先で転んでいた。 
「……サリー……」
「……痛いですぅ」
「ニキーとリテーはどうした?」
 サリーはさらに先を指差した。
「そこの坂を凄い勢いで駆け下りて行きましたぁ」
「……まぁ、大丈夫だろう。サリー、隣の洞窟に行くぞ」 
 東側の洞窟は、西側と同じように下り坂になっていた。滑りやすい足場に気をつけながら二人が進んでいくと、それほどに大きくはない広間に出た。中央にはあからさまに怪しい石碑がある。
『東の地より来た友たち、ここに眠る』
 石碑には、そう記されていた。
「ここにお宝があるんでしょうかぁ?」
 薄暗い中をあちこち調べるサリーを見ながら、ウェッソンは考え込んでいた。
(宝があるにしてはあまりにも場所が簡単すぎる。それに友たちと刻まれているこれは……)
「そうか! サリー、こっちじゃない。いや、ここと隣の洞窟はただの墓だ!」
「はぃ?」
 サリーを引っ張りながら坂を登るウェッソンは、熱病の患者のような顔つきでぶつぶつと呟いていた。
「そうだ。何故疑問に思わなかったんだ。島の中央のはずなのにこの洞窟はほとんど歩かないうちについた。ここは船員たちの墓であり、ダミーだったんだ。くそっ、俺としたことが浮かれすぎていたか!」
 とても怪しい光景だった。


 アニキとテリーは坂道を駆け下りていた。勢いがついているせいでそう簡単に止まれる様子ではない。
「アニキ〜。ホントにこっちであってるんスかぁ〜?」
「……どうやら違うみてぇだな。出るぞ、テリー」
「……どうやって止まるんスか?」


「どうやらここが正解のようだな」
 ウェッソンとサリーは島のほぼ中央にある洞窟の前に立っていた。傍には『キャプテン・マイケルの墓』と書かれた朽ちかけた立て看板まである。
「わかりやすいですぅ」
「よし、行くぞ、サリー!」
 ウェッソンが一歩めを踏み出そうとした時、声が響き渡った。
「ちょーっとまったぁー!!」
「誰だっ!」
 声の主は、船乗り風の恰好をした東洋人だ。その横には同じく船乗り風の巻き毛金髪の優男がいる。
「あっ、アニキさんにテリーさんですぅ」
「久しぶりだな、嬢ちゃん!」
 サリーはその二人を知っていた。前に一人で店の留守番をする羽目になったときに、手伝ってくれた二人組だ。
「誰だろうと邪魔はさせるかっ!」
 サリーに挨拶をする二人組みを放っておいて、ウェッソンは洞窟の中に駆け込んだ。
「ウェッソン、待って下さい〜」
「おい! 挨拶ぐらいはしていけっ!」
「アニキ、おいら達も急ぐっス!」
 残る三人もウェッソンを追って洞窟へと入った。洞窟の中は採光用の穴のおかげで意外と明るかった。
「ウェッソ〜ン――あっ!」
 サリーが転んだ。その声にウェッソンが振り返る。
「サリー!」
「ウェッソン! あたしに構わず行って!」
「……すまん、サリー!」
 後ろ髪を引かれる思いで振り切るウェッソン。サリーは地面に伏しながら優しく微笑んだ。……二人とも劇の登場人物にでもなった心境のようである。
「テリー、お前は嬢ちゃんについていてやれ」
「わかったっス」
 サリーとテリーを残し、ウェッソンとアニキは奥へと急ぐ。
 カチっ! と、ウェッソンの足元で音がした。そのあとに正面から矢が飛んでくる。
「罠かっ!」
 ウェッソンはすばやく横に避けた。矢はかわす事ができたが、アニキに遅れをとる。
「くっ!」
「ふっ、素人だな!」
 アニキは鮮やかな足取りで罠のある場所を確実に避けていた。それでも動きが鈍ることはない。
「くそっ、アイス・ピックは渡さないぞ!」
「宝は墓の前に先についたやつのものだ!」
 やがて終点らしき場所が見えた。差し込む光の下には墓らしきものが見える。現状はアニキが優勢だ。確実に数歩分の差がある。
「俺の勝ちみてぇだな!」
 アニキがそう言って振り返ったとき、ウェッソンの足元が崩れた。落とし穴だ。
「――負けるかっ!」  
 その時、ウェッソンは共に落とし穴に落ちようとする足場の中に、少し大きめの石を見つけていた。足をかけ、跳ぶ――いや、翔んだ。
「なにぃ!」
 本来ならばありえない光景に、アニキは驚愕の声を漏らした。その驚愕が、奇跡を起こしたウェッソンとの距離の差をなくしていた。
 二人は光の降り注ぐ広間の中に飛び込んだ――


「あ、そこも罠っス」
「はい〜」
 サリーとテリーはのんびりと洞窟の中を進んでいた。罠にさえ気をつけていれば足元は悪くない。
「あ、あそこが終点みたいっスね」
 墓らしきものの前に立つ、ウェッソンとアニキの姿も見える。
「様子がおかしくないですかぁ?」
「急ぐっス」
 そして、サリーとテリーは見た。墓に刻まれた破滅の言葉を。
『キャプテン・アイス・ピッグことキャプテン・マイケルここに眠る』
 墓の上で、太陽の光を浴びた氷の彫刻風のガラスの子豚が笑っていた。


「おかえりデース」
 一行は船にもどっていたニキーとリテーに迎えられた。
「オボロ、どうだったデスカー?」
 ニキーの言葉にオボロと呼ばれたアニキが首を振って答えた。
「はずれもはずれ、大はずれだよ」
「アニキさんたちは知り合いなんですかぁ?」
「昔の船の仲間っスよ」
 ウェッソンはただ一人燃え尽きていた。


「それじゃあ、手紙をよろしくお願いしますぅ」
「わかったっス」
 三日間留守にすると言った手前、残りの一日を老爺の家で過ごすことにしていたサリーはアニキたちに手紙を頼んだ。
 ニキーとリテーに別れを告げ、ウェッソンを引きずってサリーは老爺の家に向かう。
「今日はたくさんお土産話をするですぅ」


「これがご注文の品です」
「ほっほっほ。ご苦労さん」
 若い鍛冶屋から箱を受け取り、老爺はサリーが帰ってくるのを心待ちにしていた。孫娘のようにも感じるサリーの話を聞くのが、余生を過ごす老爺のささやかな楽しみだ。今回はウェッソンの勘違いもあったので、なおさら楽しみにしていた。 
 箱の中では、一本のアイス・ピックが出番を待っていた。

END



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