The another adventure of FRONTIERPUB 16(Part 1)

Contributor/影冥さん
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魔法少女の死!?(前編)


 すべての始まりは、頂点に達した太陽が、傾き始めたときだった。
 店の中にはテムズの姿しかなかった。サリーはいつものように事件を探しに出かけ、ウェッソンはふらりと散歩に出ている。テムズはいつものように愛用のモップを片手に 昼食時の喧騒の去った店内の掃除をしていた。
「マジカル☆ガール!」
 突然、入り口からタキシードを着た黒ウサギ――フォートルが飛び込んできた。いつもは信用できない真摯さのあふれる瞳が焦りを浮かべていた。
「え、フォートル? どうしたのよ突然?」
 フォートルの鬼気迫る様子にテムズはたじろぎながらも尋ねた。つい反射的にモップを槍のように構えている。
「緊急事態だ! かなり厄介な状況が切羽詰った感じで迫っている!」
「…落ち着きなさい」
 ばたばたと無意味に手――あるいは前足――を振るフォートルに、テムズは思わずモップを突き出していた。モップの柄は見事にフォートルの喉元を突く。
「ギュヘッ」
 奇妙な声を出してフォートルがモップの先に力なくぶら下がった。だが、すぐに生気を取り戻してモップを払いのける。
「……君に対する様々な注意はあとに回す! とにかく今は非常事態だ、力を貸したまえ、マジカル☆ガール!」
「一体何がどうなっているのよ?」
 少しだけ落ち着きを取り戻したフォートルに、テムズが訊いた。攻撃態勢を解きモップを傍らに置く。
「敵が来る」
「敵?」
「最強の敵といえるだろうな。究極の悪だ」
「……どうしていきなり最終局面のノリなの?」
「時代は常に動いているものだ。……ときに、なぜ最終局面などと言う?」
「最強の敵でしょ?」
「低位の悪意『無気力』だ」
 フォートルの言葉にテムズは首をかしげた。最強なのに……低位?
「何で低位なのに最強なのよ?」
「……分類の考え方に違いがあるようだな。我々は知恵をもつ悪のほうが上位であると考えている。『無気力』は力はあるが、意思がないから低位だ」
「そんなものなの?」
「そんなものだ」
 一人と一匹は特に意味もなく肯きあいながら語り合った。やがて一匹が肯くだけの虚しさに気付いたときに、本来の目的を思い出した。
「そんなことはどうでもいい! とにかく力を貸したまえ、マジカル☆ガール!」
「……それはいいけどさ、またマジカルワールドとかいう場所に行くの?」
「マジカル☆ワールド」
 フォートルが訂正してきた。イントネーションにこだわりがあるらしい。
「……マジカル☆ワールド」
 テムズが言い直すと満足そうに肯く。
「その必要はない。奴はここに出現する。正確にはこの店の上空1700ヤードだ」
「え? どういうこと?」
「悪はごく稀に歪から現実世界に出現することがある。そしてそのごく稀が起こったのだ」
「それで、どうしてウチの上なのよ!」
「この前、どこぞのバカが因果律や運命線を弄ったせいだ」
 テムズの頭の中にどごぞのバカの姿が浮かび上がった。二匹。よく似た黒いウサギ。
「……ま、いいわ。それで、また戦えと?」
「なにやら失礼なことを考えている目に見えるのだが……」
「気にしちゃダメよ。で、どうなの?」
 フォートルはテムズの様子をうかがいながら肯いた。
「……今回で最後よ」
「感謝する」
 テムズはフォートルの差し出す指輪を受け取った。魔法少女が帰ってきた瞬間だ。


「この状況、説明してくれる?」
 外に出たテムズは傍らにいるフォートルに訊いた。空には何十人もの人影が浮いている。
「他の魔法少女たちだ。今回の緊急事態に急遽集まってもらった」
「あんなにいるの?」
「世界中からだからな。一般人に気付かれないように数人がかりで結界も張っている」
 フォートルが緊張を滲ませながら言った。
「ところでさ、どうやって空に行くの?」
「……飛ぶ方法は分からないのかね?」
「どうやって知ってろっていうのよ」
「……私がサポートしよう。行くぞ」
 テムズは自分の体が浮かび上がるのを感じながら魔法のステッキ――やはりハルバードだった――を握り締めた。
 空に上がるにつれて、他の魔法少女たちの傍らに様々な生き物が浮いているのが目に付いた。猫、狐、狼、虎、鰻――
「後どれくらいで来る?」
「もうすぐだ、もうすぐ――来るぞ!」
 空の一部が歪んだ。そこからゆっくりと巨大な灰色のロウソクのようなものが姿をあらわす。炎のある部分には、なぜか鉛色のクラゲが浮いていた。
 『無気力』が完全に姿をあらわす前に、一斉に攻撃が開始された。色とりどりの光弾が襲いかかった。『無気力』の体がえぐられ、はじける。
「出番、なかったみたいね」
「まだだ! 奴の体の破片に触れるな。意識を失うぞ!」
 降り注ぐ灰色の物体を指しながらフォートルが怒鳴った。その言葉に、テムズが自分に向かってくる破片をいくつかまとめて薙ぎ払うが手が足りない。
「しまっ――」
 破片がテムズに触れようとした一瞬、風が破片を吹き飛ばした。近くにいた誰かの魔法だろう。

「疾風の翼っ!」
 黒ウサギを従えながら強力な風を巻き起こす翼を羽ばたかせて破片を押し戻しているのは――
「へ、ヘレナ?」
 呆気にとられるテムズの傍らで、フォートルがなにやら呟くが、その言葉は風が運び去った。
「バチバチ★サンダー♪」
 黒いウサギを頭に乗せていまいち『無気力』には効果の薄い電撃を巻き添えを出しながら放っているのは――
「ア、アリサまで!?」
「……フランクの魔力に酔っているな。状況が判断できなくなっているようだ。被害が出るのは計画の内だが……」
 フォートルが物騒な言葉を口にする中、『無気力』の体は押し戻された破片を加え、ほとんど元に戻っていた。それに対して魔法少女たちはかなりの数が減っている。 
「マジカル☆ガール。このままの状況ではいずれこちらが全滅する。核を狙うのだ」
「核って、どこよ?」
 フォートルの視線の先にあるのは炎のように揺らめくクラゲだ。
「もしかして、アレ?」
「うむ。間違いない。私の加護を受けているキミならば一撃で仕留めることも可能なはずだ」
「加護って、あんたそんなに凄いの?」
「一応、聖一位の法王の位に封じられている。立場的にも能力的にも上から二番目といった所だな。もっとも、できない事もいくつかあるが――」
 テムズは耳を疑ってフォートルを見た。だが、その姿は紛れもなくいつもの黒ウサギだ。
「信じる信じないは後だ。今は私に力があり、君も力を持っていることが重要だ。能力的に決められるのは君しかいない」
「……わかったわ。それで、どうすればいいの?」
「手にした武器で切るだけでいい。もう十分に力は満ちている。奴の所までは私が送ろう」
「おっけぇ。いくわよ!」
 テムズとフォートルの体が加速をはじめた。途中から炎に包まれ、さらに勢いを増す。
 『無気力』から触手のようなものがテムズに向かってきた。テムズが迎撃するために腕に力を込める――
「余計なことに気を向けるな、マジカル☆ガール。私が送り届けると言ったはずだ」
 フォートルの言葉と共にテムズの視界がぶれた。体にかかる負荷からは信じられないほどの速さと精度で襲いかかる触手を紙一重で避ける。さらにテムズとフォートルが 傍を通った触手は炎に包まれた。
 テムズと鉛色のクラゲの距離が縮まり――
「いけっ! マジカル☆ガール!」
「たあああぁぁぁぁぁ!!」
 一閃。
 テムズとフォートルを包んでいた炎が消え、徐々に勢いが衰え、静止する。
 『無気力』もまた触手を繰り出さんとする姿勢のまま止まった。
 魔法少女たちの手が止まる。
 沈黙が訪れた。
「一体、どうなったの…」
 沈黙に耐えきれなくなった誰かの一言がきっかけのようにそれは起こった。
 一本の線を引くように、空が歪む。歪みの線は込められた力を吐き出し、炎の線となった。
 炎が鉛色のクラゲを焼き尽くす。クラゲは空と炎に溶けるように……消えた。触手が力を失い、末端から崩壊していく。
 歓声が弾けた。パートナーを振り回すように踊る者、歌う者、人体切断マジックをする者……表現方法は様々だが、戦いに参加したものすべてが喜びを表していた。実際 の時間は長くはなかったが、魔法少女たちが経験した戦いの中では最も苦しいものだった。
「我々の勝ちだ。マジカル☆ガール」
 フォートルの言葉にテムズは大きく息を吐き出した。心地よい疲労と、緊張によって押さえられていた汗が一気に吹き出る。
「あ〜、疲れた……」
 テムズがぼやきながら周りを見ると、他の魔法少女たちの姿が光に包まれていた。
「女王陛下のお力で一時的に集まっていたのだ。彼女たちはもとの場所に帰る」
 テムズに質問される前にフォートルが言う。
「我々は『無気力』が完全に消滅するのを見届けなければならん。一休みすると良い」
「ねえ」
 崩壊しつつある『無気力』を眺めていたフォートルに、テムズは声をかけた。どうしても聞かなければいけないことがある。
「どうした、マジカル☆ガール?」
「さっき知り合いがいたんだけどさ――」
 テムズは最後まで言葉を発することが出来なかった。言葉の代わりに血塊を吐き出す。視線の先には胸から突き出る白銀の、刃。
「……え?」
 テムズが言葉にならない吐息でようやく声を出したとき、視界が闇に沈んだ。
「『殺意』だと! 『無気力』の中に隠れていたというのか! マジカル☆ガール!――」
(何が、あったのかしら?)
 心の中で呟きながら、テムズは自分が眠りに落ちていくのを感じた。
「――死ぬな!」
(うるさいわね、フォートル――)
 意識が、沈んだ。 


「最近は天使の君のことばかりだな。腕が落ちなけりゃいいんだが……」 
 鍛冶屋に行って託された贈り物のケーキの入った箱を見ながらウェッソンはぼやいた。
「テムズ、いるか?」
 ウェッソンが声をかけながらフロンティア・パブに一歩入った時、表情が変わった。
 血の匂い。
 床に倒れる人影。
 広がる赤。
「テムズッ!」
 手に持った箱を放り、ウェッソンが駆け寄った。
「まだ、生きている!」
 冷たくなりつつある腕を取り、脈を調べ、呼吸を確かめてからウェッソンは安堵した表情になった。だが、すぐに顔を引き締め、テムズを抱えあげる。
「死ぬなよ、テムズ……」
 腕の中のぬくもりに希望を預け、ウェッソンは走った。

  to be continued        

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