The another adventure of FRONTIERPUB 15(Side 2)

Contributor/影冥さん
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橋上の戦い


 今日はなにかがいつもとは違っていた。何がとは言えないがあえて言えば…空気とでも言うべきか。とにかく目では捕らえられない何かだ。
 私は自分の体を点検した。土で出来た体は崩れる様子はない。そして、十分に動き回れると判断した。
「行くか…」
 私は呟くとパブの日陰から外の日向へと進んだ。言いようのない状態に流れてもいない血が騒ぐ。
「こっちか…」
 私は周囲の人間が私を認識できなくする術を施しながらふらふらと進んだ。 押さえようのない興奮が空っぽの体の芯から湧き上がる。 
 途中で年老いたガンマンとすれ違った。老ガンマンは私の気配に気がつきかけたようだがそのまま歩き去った。
「違う……」
 この体を今にも崩壊させようともする震えをもたらすのはあの男ではない。そう、もっと私と同質の――
「!」
 明確な気配を感じた。これは殺気――
 目に見えない力の塊が、一瞬前まで私のいた場所をえぐった。
「ホーホッホッホ!」
「誰だっ!」
 叫びながら振り向いたとき、私は最初から最大限に広がっている目を見開いて驚いた。
「お、お前は…土偶っ!」
「お久しぶりね、はにわさん」
 屋根の上で黄色のリボンをなびかせているのは、故郷にいる時に共に猫神様に使えていた土偶だった。だが、土偶は猫神様の元を去り……何故ここにいる?
「……なんのようだ?」
「昔の仲間を迎えに来たのよ。私と一緒に来なさい」
 土偶は私に高圧的に言い放ってきた。昔の土偶の面影は、もうそのリボンにしかないのか……
「断る。一体何をやろうとしているかはわからないが…裏切ったお前を許すわけにはいかん!」
 私は言葉と共に力を解き放った。不可視の波が土偶を襲う――かわされた。急いで土偶の姿を探す。
「……いた!」
 屋根から屋根に飛び移り、逃げようとする土偶を見つけた。逃がすわけには行かない!
 追いかけている途中で、私は再び力を放った。土偶が降り立とうとした屋根が弾け、落ちた。
 あれだけの高さから落ちれば、ひとたまりもないだろう――ひとたまりも、ない?
「はぁっ!」
 私は無意識の内に土偶の落下地点に力を放っていた。その衝撃により、土偶は割れることもなく地面に降り立つ。
「腕が落ちましたわね、はにわさん。最後の最後でしとめ損なうなんて」
 ……そうだ。私は最後にしとめ損なっただけだ。間違っても土偶を助けようとしたわけではない。土偶は……彼女は昔の土偶じゃないんだ!
 それから私と土偶は戦った。飛び交う不可視の力はどちらに当たることもなく、体力だけを消耗する。そして、私たちは橋の上で睨み合った。
「なぜ…何故突然去った!」
「……あなたは何も知らないのね」
「なに?」
 土偶は悲しそうに頭を――体ごと――激しく振った。
「いえ、知らないのならばその方があなたのためなのでしょう」
「一体何を言っている? 何のことだ! 答えろっ土偶!」
「………」
 土偶は何も言わずに力の集中を始めた。最大限の力を収束しているのを示すかのように、燐光が土偶を包み込む。
 私も力の集中を始めた。体の空洞の中に音を反響させ、その力を徐々に強めていく。

「答えないのならばこれで終わりだ。私が消し飛ぶか、お前が消し飛ぶか…勝負だっ!」
「……言えるわけがありませんわっ! あなたのためにもっ!」
 私のため、だと? 土偶の叫びに私の行動は一瞬遅れた。土偶が絶大な力を持った光の玉を放った。そして、そのまま走り去る。
 私は妙にゆっくりと感じる時間の中、見た。――涙を。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 私は力を放った。意味はない。私の力で破壊できるのは物質だけだ。だが、土偶の放ったのは純粋なエネルギー。力の波は光の玉をすり抜け、背を向ける土偶を容赦なく 破壊するだろう。その前に、光の玉で私が破壊されるか――


 気が付いたとき、私は破壊されてはいなかった。目の前では橋が崩れ去り、周囲には黒服の警官隊が集まってきていた。土偶は……いない。破壊されてはいないはずだ。 嬉しいような、寂しいような、悔しいような複雑な気分だった。
 残った問題はどうやって誤魔化すかだ。術で何とかならないでもないが、この橋が直るわけではないが――
 突然、川の中に一台の馬車が飛び込んだ。手前で、それを追いかけていたらしい馬が止まる。その上には見慣れた二人の人間がいた。黒髪のガンマンと、探偵を志す少女 だ。なにやら中睦まじそうに話をしているようだ。
 と、いきなり水面が盛り上がった。そこにいたのはやはり見慣れた赤毛の少女だ。片手には…馬車。見間違いではない。馬車だ。ついさっき飛び込んだ馬車だ。
 赤毛の少女の上げる奇声を耳に――持っていないが――しながら、私は呟いた。
「この際、手段は選んでいられないな……」
 そして、私の術が広がった。


 土偶よ、いつか、昔のような関係に戻れるだろうか――

END

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