And others 4

Contributor/哲学さん
《BACK

 老人は一人チェスを打っていた。
 遙か昔、トレジャーハンターであった頃を思い出しながら。
 傍らにいる伴侶は今や亡国の王女の見る影もない。
 だが、それでも今や大切な半身だった。


 そして老人は予感する。
 何かが近づいているのを。
 そして老人は夢を見る。
 いつかまた冒険の日々が始まることを



予感


「よし、今度こそいけそうだな!」
「もちろんす! 今度こそ財宝を手にいれるっす!」
「ああ。今度の獲物はでかい。なんせ海底に沈んだキャプテン・シュノーケルの財宝だからな」


 船乗り達は海を駆ける。いつか手に入れる財宝を夢見て。



 医師は料理をしていた。ピンクのフリルが無駄に大量についたエプロンを使用し彼は料理していた。
 ちらりとテーブルを見る。
 今日のお仕置きで突っ伏している看護婦――アリスと蝋人形のように静かに座っている完璧な看護婦セリーヌがいる。
 アリスが破ってしまったエプロンを直すのをセリーヌに頼んだのだが――何故彼女はこんなアレンジをしたのか。
 色々疑問が起こるが取り敢えず今は目の前の料理を仕上げる事に彼は専念した。


 医師はただ何気ない日常を過ごす。
 例えそれが仮初めのものであっても。




「いい腕してるな兄ちゃん」
 青年が弾き終わったギターをしまうのを確認してから酒場のマスターは言う。
「まあね」
 そう言って彼は懐からマッチ箱を取り出す。そこには『Frontier Pub』と書かれている。
 そして彼はマッチ箱をさすった。


 彼はマッチを見るたびに彼女のことを想う。
 彼はマッチ箱が音を立てるたびに彼女のことを思い出す。




「はぁ……」
 テムズ=コーンウォルは紋章を見ながらため息をつく。
「いつも見てるけど何なんですか? それ」
 金を払わない居候が聞いてくる。
「うーん……秘密」
 そう言ってテムズは紋章をしまい、掃除を再開する。
「意地がわるいですぅ〜。ねぇウェッソン――」


彼女は紋章を見るたびに彼のことを想う。
紋章の重みを感じるたびに彼のことを思い出す。




ピィン
 ウェッソン=ブラウニングはコインをはじき、それを受け取る。
「――相棒か」
 老人より渡されたそれを今なお彼は持っていた。
――お前を殺せるのは俺だけだ。そして、俺を殺せるのもお前だけだ――
「……」
 彼はまた静かにコインを弾く。


 彼がその先に見るのは捨てた過去か。
 それとも、来たるべき未来への予感か。




「ウェッソン……」
 コインを弾き、それを受け取る。その意味のない作業を延々繰り返す保護者を見てサリサタ=ノンテュライトは不安を覚える。
 そして黙って自室に戻るのであった。


 何かが変わろうとしていた。彼女にはそれを感じていた。
 そして……それがどうしようもない不安でもあった。
 無駄と分かっていながら。
 何時までも続けばいいのにと彼女は願う。




「はぁ……天使の君」
 青年は花を片手に夢想しながら歩く。
 花屋から酒場までの道のりは彼にとっての至福の時であった。


 青年はずれていた。
 変わりゆく日常の中ただ夢想しながらフラフラと酒場へと歩く。
 ある意味幸せな奴だった。




「やっほー! 元気!」
「……なんでまたこんな時に来るのよ」
 親友の言葉に徹夜明けのアリサは答える。親友ヘレナは『迷惑な訪問者<ナイトノッカー>』のあだ名のままにタイミングの悪いときに来る。
「あーもーみんなして私のテスト勉強を邪魔して!!」
「いいじゃない、そんなの。はい、おみやげ」
「もう、マムシ酒は要らないわよ」
「今度はサソリ酒よ」
「……」
「だいたいなんで医学部の『目指せ戦う看護婦さん! サバイバルナース科』なんてものに?」
 戦医の助手として戦場を廻る看護婦を養成するだけであって戦うはずはないのだが、何故か大学の中では人気の学科であった。
「そりゃーハイスクール時代に誰かさん達が暴れ回った後始末や怪我人の救助に勤しんでたからねぇ」
 ため息と共に彼女は机に突っ伏す。
「ああテムズは無茶してたからねェ」
「誰かさんも一緒になって騒ぎを大きくしてたじゃない! 月に一度のテムズとの喧嘩で何人が犠牲になったか!」
「え? そんな子いたっけ?」
「あんたでしょうが!!」
 徹夜明けで苛立っていた彼女はとうとう暴れ出す。結局彼女はテムズとヘレナの仲裁に入って自分もそれ以上に暴れていたことを自覚していなかった。


 少女達はふざけあう。終わろうとしている青春時代を名残惜しみながら。



「ラブラブだねぇ」
「うむ、その通り」
「な、いきなり何を言うか!」
 マジカル☆ガール達が暴れる中黒ウサギ×3は静かに川を見ながらぼーっとしていた。
「オードよ。隠さなくて良い」
「ソーダソーダ」
「お前は担当のマジカル☆ガールとラブラブだ」
「ソーダソーダ」
「誰がラブラブだ!!」
「ソーダソーダ」
「ええいお前はうるさい!」
 オードはフランクの頭を叩く。だが、フランクは傷ついた様子もなく起きあがる。
「えーいお返し! マジック☆ミサイル〜〜」
『ばか! やめろぉぉぉぉ!!』
 魔力の低い黒ウサギ達は吹き飛ばされていく。
 それを静かに橋の上から「はにわ」が見ていた。


 ウサギ達は感じていた。
 いい加減マジカル☆ガール達が少女では無くなろうとしているのを。

 はにわは想う。いつか目的を達成することを。
 そして土偶と分かり合える日が来ることを。
 ただ今は静かに夢を見る。
 そして――





「此処にアイツの相棒が居るのか」
 隻眼の男が静かに霧の街ロンドンへとやってきた。
 彼はもうなくなってしまった右目の跡をさすりながら彼は前へと進む。
「右目がうずくぜ……」


 何かが変わろうとしていた。
 何かが起ころうとしていた。
 だが、それは誰にも分からなかった。




ハッピー・ラッキー・エントランス・ザ・ムービー(長編)
魔弾の射手へつづく

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